漸く目的地。
「…もう行くぞ。佐藤は此れで首んとこ拭いとけ」
「お、とっ、ほっ……あ、ありがとであります」
「あ、ちょ、待つでござるよ~」
と、鈴木はお通夜のような落ち込んだ空気を吹き飛ばすように話を切り出すと、近くのプラケースに大量に入れて置いてあった使い捨て濡れティッシュから一つ取って佐藤に投げ渡し、移動を始める。
佐藤はなんとかそれをキャッチすると、あたふたと中身を取り出し首元を吹きながら鈴木に追従。
山田はそれを見て直ぐ様近くに置いておいた戦利品のフィギュアをこれまたあたふたとリュックに詰め込みながら二人の後に続いた。
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アミューズメントコーナーより先、目的地までの間にはアパレル関係の店舗しかないようで、お洒落に無頓着な三人がこれ以上道草を食うような場所はない。
見える限りにゾンビの姿もなく、希に店舗内から不意をついて現れるゾンビも難なく山田が仕留めていく。
そうして用心しながらゆっくり進む三人でも先程までの道のりが嘘のようにスムーズに残り半分の行程を進み、あっさりと目的地前へと到着した。
「うし、着いたぞ、電気屋…だな」
「ここが山口電気…、初めて来たであります」
「お~漸くでござるかぁ」
と、店舗前で毎度の如くおのぼりさんのようにキョロキョロ辺りを見回す三人組。
他の店舗より気持ち明るくて広い店内スペース、入り口からでも見て分かる多種多様な電化製品のラインナップ。
見て廻るだけでも楽しく時間を潰せちゃう電気屋さんの魔性の魅力を、電気屋初心者である三人でも店内に入らずとも感じ取っていた。
何故なら三人の顔は先程までの緊張した面持ちが溶けるように綻んで、自然と笑みが浮かんでいた。
「なんか、やばいな…。通販にはない誘惑がある」
「ぜ、全部持って帰りたいで、あります!」
「WAKUWAKUがとまらないでござるな!」
まるで玩具屋を前にして目を輝かせる少年のように、三人は今にも走り出しそうだ。
だがここで年長の鈴木からストップが入る。
一旦逸る(ハヤル)気持ちを抑え、先ずは作戦のおさらいをしようという事だ。
二人もそれには納得し、山田は朝の会議で書き出したメモを取り出した。
「こうやって見ると電気屋で揃う必要な物リストは凄い多いでござるな…」
「お前の家が何も無さすぎたんだよ、ったく」
「最低でも個人用パソコンと冷蔵庫と冷凍庫は欲しいでありますよ」
「後は電子レンジも手に入れたい所だ」
「ですです!冷凍食品を食べれるようにしたいであります!」
「それな」
ニート界隈ではパソコンは必須アイテム、何が必要かと言われれば真っ先にこれが出てくるのが引き籠りクオリティ。
ないと死ぬレベルである。
後それと同じくらい必需品といえば冷蔵庫、そして冷凍庫だ。
冷蔵庫は言わずもがな、手に入れた食料を保存するのに真っ先に候補に挙がるのがこれ、現代の必需品の一つである。
そして次に冷凍庫である。一般家庭では冷蔵庫についてる冷凍室で十分じゃんとなるわけだが、三人の現状ではそうも言ってられないのだ。
常に新鮮な食材が容易に手に入るのならそう必要になることはないであろう冷凍庫。
だが、世はポストアポカリプス。
貴重な食料を確保し、それを出来るだけ長期間保存しようと思うと冷凍するのが一番であろう。
そして何より冷凍食品の存在だ。
それは料理が全く出来ないおっさん三人の命綱、現在口に出来る最後の文化飯なのである。よって、此れを保存する術は多いに越したことはない。
電子レンジは以下省略である。
「とりま、最も優先すべきそんな感じか」
「で、ありますな」
「ふむ、では取り敢えずそれらを先に見て廻るでござるか」
「んじゃま店内は広いけど、死角には注意な」
「先頭は拙者にお任せあれ」
「噛まれないように注意でありますよ」
「お前が言う」
「草生える、でござるな」
話し合いを終え、軽口を言い合いながら三人は店内へと足を踏み入れる。
いつゾンビに襲われてもおかしくない状況、だが三人の表情には自然と笑みが溢れていた。
初めての電気屋でのお買い物、人目を気にせずに欲しいものが取り放題なのだ。まさに夢のようなシチュエーション、楽しくないわけがない。
「お、これとかいいな」
「いやいや、デカ過ぎでござるよ」
「こんなん持ち運べないであります」
─────………
「これはどうであります?」
「んー、どうせならもっと高いやつ選ぼうぜ」
「で、ござるな。最新の奴がいいでござる」
─────………
「これなんてどうでござる?」
「ないな」
「ないであります」
「せめて見てから言って欲しいでござる……」
─────………
そんな楽しげにショッピングを満喫する三人。
だが彼等はそんな楽しい時間を過ごすうちに、徐々に緊張感が失われ、警戒が疎かになっている事に気付いていない。
そんな時にこそ何かが起こる、それが物語の常なのである。




