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やっぱ噛まれると感染する…?

 


 佐藤がまだゾンビ化してないことを確認できて安心した二人だったが、取り敢えず様子を見ることにした。


 二人の視線の先では、今だにうつ伏せのまま何やら喚いている佐藤の姿。

 噛まれた事で半ば自暴自棄に陥っているように見えるが、時折チラチラと視線を二人の方に送っているので、意外とまだ余裕があるのだろう。



「……ゾンビ化って、どれぐらいでなるんだろうな」


「う~む、どうでござろう。噛まれたら本当に感染するのか、そういうのすらまだ謎でござるからなぁ…」



 だが鈴木と山田は雑談しながら佐藤の視線を完全にスルーである。

 いつゾンビ化しても可笑しくない佐藤に近づく気は毛頭ないようだ。


 流石にこのままでは二人が心配してくれる事も駆け付けてくれる事もないと判断した佐藤は露骨に訴えることにした。



「あー、このまま小生はこんなところで一人寂しく死んでしまうのでありますかぁ…」


「「………」」


「あぁー、…寂しいであります…せめて最後ぐらい人の優しさに触れながら死にたいでありますなぁ…」


「「………」」



 絶対不干渉を貫く二人、佐藤の訴えは続く。



「あー、痛い、噛まれた所が凄く痛いであります、絶対致命傷であります」


「「………」」


「こんなに痛いなら血だってドバドバ出てもう……ドバドバでて……あれ?血が……あれ?」


「「……?」」


「血が……出て、ない、であります」



 痛みを訴えていた佐藤だが、首元を触り血の感触が無いことに気付いた。

 むくりと起き上がり、しきりに首元を触って手のひらを見ては頭を傾ける。



「血が出てないとか言ってるでござるな…」


「罠かもしれんぞ」



 佐藤の不審な言動に傍観していた二人も無意識に腰が浮く。

 山田はどうすればいいのか悩んでいるが、鈴木なんて手にスリングを握り締めてこっそり臨戦態勢だ。

 さっきまでの仲間だろうと、ゾンビになろうものなら躊躇なく撃つつもりである。

 そんな二人の心情なんて露知らず、佐藤は首を掲げながらも二人に視線を向けると手招きしながら普通に声を掛けた。



「ちょっと傷口を見て貰いたいであります」



 その言葉に顔を見合わせる鈴木と山田。

 佐藤に聞こえない程度に意見を交わす。



「どうでござろう…」


「罠かもしれんぞ」


「拙者には正常に見えるでござる…」


「罠かもしれんぞ…」


「それでも、ちょっと、行ってくるでござるよ」


「……」



 と、山田は覚悟を決め、ゲーム筐体の陰から出ると平静を装って佐藤の方へ向かう。

 一方鈴木は相変わらずの傍観を決め込むようだ。


 気持ち遅めの足取りで山田が近付いてくると、佐藤は後ろを向き少し頭を傾けて噛まれた所が見えやすいように山田へと向ける。

 そんな佐藤の首元を山田は少しへっぴり腰で覗き込む。

 そして、そこにあるであろう傷痕を見て、山田は呆けたように呟いた。



「おろ…本当に血は出てないでござる。むしろ、少し赤く腫れているではござるが、歯形とかないでござるよ。傷になってないでござる」


「お、おぉー!?」


 その言葉を聞いて佐藤は少し希望の表情を浮かべ、鈴木はしれっと筐体の陰から出て二人のとこに近付いてくる。鈴木の中での安全基準がクリアされたのであろう。



「しかし、何故あんなに強く噛まれてたのに傷がないのでござろう」


「うーん、分からないであります」



 首を傾げて唸る佐藤と山田。

 そんな二人に鈴木の声が掛かる。



「ちょっとこっち来て、これ見てみ」



 二人がそちらを向けば、鈴木はさっきまで佐藤に組み付いていた子泣き爺の横に立って、横倒れしているその顔を覗き込んでいた。

 なになにと二人も近付き、同じ様に顔を覗き込む。


 そして納得がいったとばかりに、大きく頷いた。


 三人が覗き込んだ子泣き爺の顔、大きく開かれたままのその口には、なんと、歯が一本もなかったのだ。重要なことなのでもう一度、歯が一本もなかったのだ。



「「歯がない」」



 納得である。

 歯が一本も生えてないのだ。

 確かにそんな殺傷力ゼロの歯茎ならどんなに強く噛まれても傷にはならないだろう。

 痛いは痛いだろうが。



「ゾンビもので歯が生えてなかったから無傷だったとか斬新だよな」


「佐藤殿は悪運が強いでござるなぁ~」


「これ、本当に大丈夫でありますか?小生はゾンビになったりとか…」


「まぁ、大丈夫だろ、多分」


「で、ござるな、多分」


「多分て」



 心配したぞーと佐藤の背中をバシンッと叩きこっそり安堵する鈴木、よかったでござるなーと山田もぽんと背を叩く。

 そんな二人の反応に今度こそ佐藤は安堵した。



 しかし、一見和気藹々とした三人のやりとりだが、その表情に笑みはない。

 皆の顔は、凍り付いたように子泣き爺の顔に固定されたままだった。


 その視線の先は口ではなく、目。


 ぽっかりと空いた右目、ではなく、怪しく光る"赤い"左目に注がれていた。



「赤目…であります」


「子泣き爺じゃなく、グールだったか」


「通りで力が強かった訳でござるよ」



 モールに入って、早速の二体目。

 三人の懸念が現実となったのだ。



「やっぱり、グールは他にもいるでありますか…」


「みたいだな」


「厄介でござるな」



 グールは一発屋ではなかった。

 此れから先も出てくる可能性がでたのだ。

 一難去ってまた一難、折角一難乗り越えたのに、三人は全く笑う気にはなれなかった。

 皆一様にその赤い目を見詰めながら、三人の瞳はこれから先の不安で揺らいでいた。




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