更なる寄り道。
暫し無言のまま注意深く進んでいた三人。その歩みは遅くとも確実に目的の店へと近づいていた。
だが、縦に長く広いショッピングモール、それのちょうど中央付近を何事もなく通りすぎようとしていたその時である。
辺りを警戒していたそんな彼等の目前、いや正確には左側一帯に、彼等の行く手を阻む光景が待ち構えていた。
「こ、これは……」
「く、まさか、こんなところで……」
「避けては通れそうにない、でありますな……」
ゴクリと、生唾を飲み込みその光景に戸惑う三人。
そんな彼等の眼前には、光輝く色鮮やかな宝石を散りばめたような夢のような光景──もとい、アミューズメントコーナーが広がっていた。判りやすく言うとゲームコーナーである。
暫し夢見心地に呆気にとられていた三人、しかしここでいち早く回復した鈴木は思わずこう呟いた。
「……………………………寄ってく?」
「「寄ってく寄ってく」」
二人の返答は迅速だった、本能で反応したのだ。
こうして三人は速やかに一致団結し、流れるような勢いで二度目の寄り道へと逸れていった。
「「「ひゃっほーい!」」
いい年したおっさん達なのに、アミューズメントコーナーに走っていくその無邪気な後ろ姿はどこか少年のようであった。
△▼△▼△▼
「ここであまり時間を掛けるわけにはいかない、なので軍資金は五百円までとする!」
「「サー、イエッサー!」」
「よし!それでは軍資金を支給する!一人ずつ前へ」
「ありがとさ~」
「感謝感謝でござる」
「軍資金が無くなり次第、速やかにここに集合するべし!それでは解散!」
「「「ひゃっほーい!」」」
軍資金──五百円玉を大事そうに握り締めた三人は、それぞれお目当てのゲーム機を求め、散り散りに駆けていく。
その表情には、世界が滅亡しているという悲壮感など微塵にも感じられない程に晴れ晴れとした笑顔が浮かんでいる。
ここにきて彼等の警戒心など木っ端微に消し飛んでいた。
△▼△▼△▼
「ひゃっはー!汚物は消毒だぁ~!」
大きな箱形のゲーム機の前に立ち、二丁の拳銃を構えて目前の画面内から迫り来るゾンビの大軍相手に一人で無双するオッサン、鈴木一。
彼は拳銃形コントローラーでゾンビなどを撃って進むシューティング形式のゲームを一人楽しんでいた。
「二人プレイで双拳銃!俺様最強ー!」
彼が両手に持つ拳銃形コントローラー、その柄から伸びるケーブルはそれぞれ1P側と2P側へと繋がれている。そう、彼は一人で二人分の拳銃を操っていた。
他の二人には五百円しか渡していないのに、彼自身は一回のプレイで二人分、二百円ずつを使うお代官プレイを楽しんでいたのだ。
慣れないゲームの為、既に何回かコンテニューをしており、もう千円は軽く使っている。
もとより鈴木は五百円で納める気ゼロであった。
ニートは他人には厳しく、自分には甘いのだ。
△▼△▼△▼
「あ、あぁ…また、とれなかったでござる……」
透明なガラス張りの箱形機械の目前で、今しがた二本の爪形アームよりするりと抜け落ちた物を悲しそうな表情で見詰めるオッサン、山田十兵衛。
彼がやっていたのはクレーンゲーム、二本の爪で景品を挟んで目的の場所まで運んで落とす所謂UFOキャッチャーである。
山田は透明なガラスにべたりと張り付くと、先程まで軍資金全てを注ぎ込んで狙っていた物──緑のツインテールをした可愛い女の子のフィギュア(精巧な人形)が入った箱を食い入るように見詰めた。
そう、彼は軍資金、五百円を全て注ぎ込んでも目的の物を取れなかったのだ。
「ぐ、ぐやじいでござる……ほじいでござるぅ……」
暫し、恋い焦がれるようにガラスに張り付いていた山田。だが、ふと意を決した様に表情は変えると、側に立て掛けておいた木刀を握り締め、躊躇なく目前のガラスへと振り下ろした。
砕け散るガラス、派手な音をたてはしたが、幸いもともと喧しいこの場所では然程目立ちはしなかった。
「獲れないなら、盗ればいい、でござるよ……」
そう呟き、ガラスが割れた場所から手を突っ込みダイレクトに目的のフィギュアを手中に収める山田。満足そうに妖しい笑顔を浮かべるこのオッサン、超危険思考である。今一番この世界に順応してきているのは彼で間違いないだろう。
こうしてある意味一皮剥けた山田は味をしめ、次なるターゲットにその妖しい瞳を向けるのだった。
△▼△▼△▼
「どん、どん、どん!どどんがどん、でありまっす♪」
アミューズメントコーナーの一角に、両手に木の棒を握り締め、それはもう楽しそうに太鼓を叩くオッサン、佐藤博三十七歳独身がいた。
決してリズム感がいい訳もなく、それを明示するようにこまめにリセットされるコンボ数。
だが、佐藤はそんなこと気にすることもなくイージーモードの音楽に合わせて太鼓を叩く。
「じゅっこんぼ~♪」
と、まれにコンボが繋がれば嬉しそうに声を上げ、そしてすぐにタイミングを外す。だが彼はそれでもよかった。
今まで家に引きこもっていて外とは無縁の生活をしていた佐藤、だからこの手のリズムゲームをアーケードの大型機械でやるのを夢見ていたのだ。
それに、今なら公衆の面前で視線を集めて晒し者にされることもなく、自分の世界に浸って一人で楽しむことが出来る。
こんな楽しいことがあっていいのだろうか、あっていいのだ!と、佐藤は今まで出来なかった分を取り戻すかの如く楽しんでいた。
だがそんな楽しい時間も終わりを迎えようとしていた。
突如、ガシッと掴まれる佐藤の肩。
佐藤は皆が迎えに来たのだと瞬時に理解した。
夢のような時間ももう終わりなのだと。
「あ、待つで、あります!もう少しで終わるでありますので!」
出来るだけ長く楽しみたい、せめてこの最後の百円の分までは、と佐藤は画面に集中しながらも返事をし、優しく肩を振って、そこに置かれていた手を退かす。
だが今度は両肩をガシリと掴まれ、身動きが取れなくなってしまった。
「あぁ、少しは待ってくれてもいいのに…でありますよぉ。ゲームオーバーになってしまったでありま……」
と、画面に表示されたゲームオーバーの文字を名残惜しそうに流し見つつも、後ろを振り返ろうとした佐藤。
しかし、彼はここに至って漸く気付いたのだ──────その鼻に突く腐敗臭に。
だが時既に遅く、彼がその事を理解するよりも早く、その首元に鈍い衝撃が走った。




