欲望に忠実に。
三十分後、店の前には見るからに疲弊した様子の三人の姿があった。
「あぁ…何か、色々と凄かったな……」
「つ、疲れたであります…。まだ目がチカチカしてるでありますよ」
「思ってた以上に混沌とした魔境でござった……」
そう思わず言葉を洩らしながら三人は振り返り、改めて雑多な店構えに視線を移す。そして、先程まで自分達が探索していた店内を思い返し、三人は気怠げに話を続けた。
「魔境か…言い得て妙だな。探索するだけでこうも疲れるとは思ってなかったぜ」
「人がいなかっただけ助かったであります。こんな魔境に普通に人がごった返してたなら、小生では無事に生還出来てなかったと思うでありますよ…」
「それは言い過ぎ……とまでは言えないでござるなぁ…。拙者も人混みは苦手なゆえ、その状況は考えただけで気疲れするでござるよ…」
はぁ…と三人揃って心底疲れたように溜め息を漏らす。
そして、そのまま暫し無言で店構えをボーッと眺めていた三人だが、いち早く気持ちを切り替えた山田が自然に話題を切り出した。
「で、店内はどうでござった?何か気になった物とかはあったでござるか?」
「んー、なんか、ちょっと興趣がそそられるけども、金を出してまで買おうとは思えないような絶妙なラインナップが多かったよな…」
「確かに、よくこんなの集めたなって変わった物ばかりで興味はそそられたであります。ただ、どうしても欲しいかと言われるとなんとも……」
「ふふ、拙者も同意見でござるよ」
微妙な表情で首を傾げる二人の反応を見て、同じ気持ちだった山田も思わず笑みを溢す。
だが山田の視線は目敏く二人の変化を見抜いていた。
鈴木のポケットとウエストポーチ、そして佐藤のリュックが、店に入る前より明らかに膨らんでいるのだ。
しかし、山田は敢えてその事には触れなかった。
なぜなら山田もまたこっそりと二人には言いづらい物を何品か物色していたのだから。
興味はそそられるけど金を出してまで買おうとは思えない物、それらが今は無料で手に入るのだ。なら手に入れないわけがない。
そしてもう一つ、『今』が彼等にとってとても重大な『好機会』でもあったと言う事。
誰しもが一度は体験したことがあるだろう──欲しい!けど、店員が異性で買いづらい!とか──こんな物を買ってる姿を他の人に見られたくない!とか。
即ち、その好機会とは『人目につくことなく物が手に入る』という機会。
そういう羞恥心に苦悩する事も、変に世間体を気にしたりする事もない、今までではあり得ない機会だったのだ。
それが一般人達より色んな事に対して過剰に敏感なお年頃の引きこもり達なら尚更の事この機会を逃す訳もなく。彼等は今までの鬱憤を晴らすかの如く、欲望の赴くままに様々な品を物色してきたのだ、それはもう色々と。
だから三人はそんな自分の要望の詰まった戦利品達を自慢することなく秘匿することを選んだ。
なぜなら彼等はまだ出会って間もない、赤の他人に毛が生えた程度の関係。自身の恥ずかしい趣味趣向を打ち明けれるほど仲良くなれてはいないのだ。
そんな内情もあってか、それ以上踏み込まれたくない一心で他の人の詮索もせず、三人は誰からとなくその場を切り上げ、店前を後にした。
鈴木のウエストポーチからはみ出している用途不明の赤と銀の縞模様の筒も、佐藤のリュックに収まりきれていない用途不明のお尻の形をした艶かしいオブジェクトも、山田のリュック内から聴こえるウィンウィン、ヴヴヴヴと響く謎の駆動音も、誰も突っ込みはしない。
何故なら突っ込んだら最後、自分の事も突っ込まれるのが判ってるからだ。
取り敢えず他の人の視線を感じ取った三人は、各々が無言のままそれぞれのポーチやリュックを今一度確かめて整理した。
そして三人はそのまま何事もなかったかのように行動を再開する。
目指すは電器店、こんなところでちんたらしていられないのだ、と三人の顔は至極真面目でやる気に満ちている。
よくよく見れば何故か三人とも鼻の穴をひくひく膨らませ、早くお家に帰りたそうにそわそわしているように見えるのは気のせいだと思いたい……。




