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装備追加。

 


 曲がり角から縦に並んで顔を覗かせた三人は、誰からともなく感嘆の声を上げる。


 優に二百メートル程続く明るく照らされた広大なフロア、そしてその両脇に建ち並ぶ多種多様な店舗の数々に三人の視線は奪われていた。



「すっげぇ……何だこれ……」


「小生は産まれて初めてこんなところに来たであります……」


「拙者もこんな巨大な所は来たことないでござるよ……」



 三人は思わず身を乗り出し、吸い寄せられるように一番近い店へと近付いていく。

 フロアに出て直ぐ右手にある広々とした入り口の解放感のある店舗だ。



「おー、スポーツ用品店……デカイな」


「ふむ、こっちは楽器屋であります」


「凄い品揃えでござるなぁ……」



 フロアの最も端に位置する二店舗、某スポーツ用品店と某楽器屋のテナント。

 三人はそれらの入り口から店内を見渡し中を確認すると、店先で顔を寄せて話し合いを始めた。



「見る限りにゾンビはいない……チャンスだな」


「装備の補充にはスポーツ用品店はテンプレであります」


「先に進む前にまずはここで各々装備を固めるのもありでござるな」


「意義なし。んじゃ、各々警戒しながらも好きに見回ろう」


「いえっさー!」


「御意にござるよ」

 


 そして三人は子供のように目を輝かせ、おのぼりさんの如くキョロキョロと辺りを見渡しながらスポーツ用品店の方へと入っていった。




 ━━━━………………それから十分後。


 店の入り口で待ち合わせた三人は、各々の姿を見せ合いながらお喋りに興じていた。



「佐藤……ここぞとばかりに揃えてきたな……」


「フルアーマー佐藤って感じでござるな……」


「ふっふっふっ。小生は前衛でありますが、避けるのは得意ではないのでいっそのこと防御力を高めてみたであります」



 鈴木と山田の視線の先には、両手を腰に当てて自慢気にふんぞり返る佐藤の姿があった。

 声の調子から大分得意気な感じでドヤ顔でも決め込んでいるようだが、現在その顔は野球のキャッチャーが被るようなフェイスガードに覆われていて確認できない。

 そしてそこから視線を下げていけば、胸から腹にかけてはキャッチャー用のボディアーマー、肘にはエルボーパッドに膝にはニーパッド、腕と脛は相変わらず同人誌が巻かれている。


 少し目を離した隙にキャッチャーっぽい姿をした変態が誕生していた。


「まぁ……ありだな」


「ありでござるのか!?」


「ふふふ、武器はスコップを止めて金属バットにしてきたでありますよー。何かジェラルミンとか書いてあって、超硬いでありす」


「ジュラルミンな」


「ふむ、確かに振りにくいスコップよりは振りやすくて硬いバットの方がいいでござるかも」


「そうであります。スコップは今一振りにくいし、綺麗に当てるのが難しいであります」


「軍用の奴なら兎も角、一般用のスコップじゃあな」



 そんな感じに話をしているうちに佐藤の話題も落ち着き、次に山田へと視線が集まる。すると山田は一度二人へと背を向けて自ずと説明を始めた。



「拙者はまず二人のようにリュックを選んできたでござるよ。アウトドア用品も置いてあったので、そこで大容量かつ、肩と腰で固定できてあまり動きを阻害しない奴を選んだでござる」

 

「まぁ、ありだな」


「バイオでも所持品枠を増やすのは重要であります」


「そして次に木刀に巻ける滑り止めで、バット用のグリップテープ。後はタオルを二枚ほど取って、それだけでござるよ」


「敢えて防御を捨てて攻撃しか考えないその姿勢、俺は好きだな」


「プレイヤースキルがものをいうセッティング……小生には無理でありますな」


「……やられる前に、ヤる……でござるよ」



 山田の背中に担がれている登山用であろうか大容量のリュックは肩に担ぐタイプでありながらも腰の所でも幅広の紐でしっかり固定されていた。


 二人にリュックを見せ、そしてグリップテープを取り出した山田は、自身が持ってきた木刀の持ち手の部分にその白いグリップテープを確りと巻きながら、笑顔で物騒な事を呟く。


 だが、笑顔な筈なのにその目はヤバイくらいに据わっていて、まだ同人誌の事を根に持っているのかと鈴木と佐藤は上手く笑えず話を続ける事はできなかった。


 苦笑いを浮かべながら鈴木と佐藤はアイコンタクトをとり。

 すかさず佐藤は鈴木の話へと話題をシフトチェンジする。



「す、鈴木氏は、何を取ってきたであります?」



 話を切り替えたのはいいが傍目で目立って変化のないその鈴木の姿に、佐藤は首を傾げる。

 だが、そこで山田も上手く釣られて、続けて問い掛けた。



「ふむ……何が変わったでござるか?」



 山田の表情が元に戻り、鈴木は上手く話題が移った事にほくそ笑みつつ、黙ってウエストポーチを開けてその中身を取り出す。


 その鈴木の右手、指の間に一つずつ挟まれているある物に佐藤と山田は目を凝らし、そしてまたしても疑問を漏らした。



「五百円玉…………?」


「それがどうしたでござるか?」



 予想していた通りの反応だったのか鈴木はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべつつ、勿体振りながら喋る。



「ふふふ…………これは、俺の新しい━━弾だよ」


「弾……?っていうとスリングショットの、でありますか?」


「そう言えば、金属弾がもう残り少ないと言ってござったな」


「そう言うこと。だから新しい弾をどうしようかってずっと考えててね。最終的にコレが重さ的にも一番いいかなって」


「確かにコレが当たったら凄く痛そうであります……」


「ふむ、これならゾンビの脆くなった頭蓋骨ぐらい一撃で粉砕できそうでござるな」


「まぁ形が今までと違うから慣れが必要だろうけど」



 鈴木のウエストポーチの中、そこには数十枚の五百円玉硬貨が入っていた。

 佐藤と山田が装備を物色している間にスポーツ用品店と楽器屋、そこにある全てのレジから五百円玉を回収していたのだ。


 ジャラジャラと硬貨を鳴らした後ウエストポーチを閉じ、続いて鈴木は自身のポケットへと手を突っ込みあるものを取り出した。

 


「そして何故か楽器屋にあった、指、貫、グローブ!装、着!」



 黒革の指貫グローブ━━第二間接より先が剥き出しの黒革手袋を流れるような動作で両手に嵌めた鈴木は、天高く両手を掲げてポーズをとる。


 そしてその姿を見た佐藤と山田は、称賛の声をあげつつ純粋に羨望の眼差しを向けていた。



「黒革の指貫グローブ…………ゴクリ」


「か、格好いいでござる……」



 どうやら、この三人漏れ無く中二病であるようだ。


 中二病には色々な症状が存在するが、これは機能性とか実用性とか関係なしにそういうアイテムが何故か無性にお洒落に感じてしまうという症状だ。

 例を上げるなら包帯とか眼帯とかのアイテムが有名である。


 まあそんなこんなで、思ったより好感触だった反応に鈴木は気をよくし、ニヒルな笑みを浮かべてフロアの先の方へと振り返り、歩き出す。


「行くぞっ」


 そして鈴木の言葉に、ヒーローに憧れる子供のような表情を浮かべて、佐藤と山田はその後へと続いて行くのだった。



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