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エスカレーター作戦。

 


「先に行け!上の安全を確保しといてくれ!」



 エスカレーター前まで来た鈴木が叫ぶ。その手には既にスリングショットが構えられていて通路の先の曲がり角に狙いを定めている。



「拙者が先に!佐藤殿は着いてくるでござるよ!」


「りょ、了解であります」



 昇り用エスカレーターに到着した山田が先に駆け上がり、佐藤が後へと続く。するとそのタイミングで曲がり角の奥からゾンビが続々と姿を現した。



「鈴木氏!?」


「大丈夫!俺もすぐに上がってくる!」



 通路の距離は十五メートルもない、そこから姿を見せた段階で既に鈴木の射程圏内だ。

 よたよたと先頭を歩いてくるイケメンゾンビの頭に狙いを付けて金属弾を解き放つ。そして流れるような動作で拳に数発握り込んでいた弾を直ぐ様構えて連続で解き放っていく。


 お洒落なイケメン、調子乗ってそうな男子学生、チャラけたDQN…………イケメン、DQN、イケメン……歩いてくるゾンビを次々と打ち倒していく。

 主婦や女子高生等のゾンビも混じっているのに男ゾンビばかり狙っているのは鈴木の個人的な恨みつらみなので見て見ぬ振りをしてあげよう。


 鈴木に撃たれたゾンビは後続を捲き込み倒れていく、倒れたゾンビは更なる後続に踏まれて呑み込まれていく。

 そうして迫ってきたゾンビとの距離が五メートルを切った辺りで鈴木はエスカレーターに乗った。


 一歩一歩段を昇り、ゾンビが押し寄せる頃には既に鈴木の体はゾンビの手の届かない所まで上がっていた。



「くそゾンビ共!悔しかったら上がってこいや!」



 鈴木が叫び、更なるゾンビの注意を引く。

 するとゾンビは少しでも鈴木に近付こうとエスカレーターへと殺到し、自身では階段を昇る事は出来ないものの、一、二体ずつエスカレーターの段に収まり運ばれて昇り始めた。



「よし!そのまま全部昇ってこいや!」


「ぶっ。ゾンビがエスカレーターで運ばれてくるでありますよ(笑)」


「鈴木殿!?どうするでござるか?!」



 一足先に鈴木が三階へと到着する。

 そこはエスカレーター、自動販売機、ベンチ椅子に観葉植物、そして屋上駐車場へと出る為の硝子扉があるのみの簡素な場所。

 良く見ればゾンビが一体倒れている、山田がやったのだろう。


 鈴木は室内をぐるりと見渡すと、すぐに指示を飛ばす。



「佐藤は出来るだけ派手に音を立てて、下のやつが昇ってくる様に惹き付けてくれ!」


「は、はいさ!」


「山田は俺とベンチを動かす!一人一台ずつ引き摺って運ぶぞ!」


「御意!」



 鈴木の指示を受け、佐藤はエスカレーター下を注意しながらスコップを床に叩き付けて派手に音を立てる。

 鈴木と山田はそれぞれ木製のベンチ椅子を手に取ると反対側の下り用エスカレーター前へと引き摺って行った。



「す、鈴木氏!もう昇ってきたでありますよ!?しょ、小生はどうすれば!?」


「そのまま音を立てながらこっちにこい!こっちの準備もすぐに終わる!」



 佐藤が音を立てながら鈴木の方へと走っていけば、そこでは下り用エスカレーターの前を塞ぐように二台のベンチ椅子が重なって置かれていた。



「こ、これからどうするでありますか!?もうゾンビもこっちに来てるでありますよ!?」



 焦る佐藤の視線の先、昇り用エスカレーターからは続々とゾンビが運び上げられており既に三人を目指して迫ってきていた。



「よし、山田と佐藤は先にこれを乗り越えて下に降りろ!昇りと交差するところは注意しろよ!」



 指示に従いエスカレーターの横から乗り込み下へと降りる山田と佐藤。乗り越える際佐藤がもたつき鈴木がお尻を押して手助けし、何とか二人が乗り込んだのを確認した鈴木は、またしてもゾンビに捕まるギリギリの所で自身もエスカレーターへと乗り込み難を逃れた。


 しゃがみ、音を立てないように下へと運ばれる三人。

 交差する所では接近した為に気付かれゾンビが手を伸ばしてくる場面もありはしたが、山田と佐藤が木刀とスコップで押し返して事なきを得た。


 そうして二階へと戻ってきて見れば、そこには既にゾンビの姿はなく、鈴木が撃ち倒した十体程が倒れているのみだった。


 三階へと視線を上げれば、ベンチ椅子に塞がれたエスカレーターに引っ掛かっているゾンビ達。

 昇り用エスカレーターで運ばれていく最後のゾンビ達も鈴木達三人の方へと来ようとしているが、次第に三階へ続く天井へと吸い込まれるように消えていった。



「ふぅ……う、上手くいったな……」


「す、鈴木氏、スッゲー……」


「さ、策士でありますなぁ……」


「ふっふっふっ。まぁこれで二階のゾンビも結構減った筈だ。少しは安全になっただろ?ピンチはチャンスってな」



 尊敬と畏怖の念を込めて鈴木を見やる佐藤と山田。

 鈴木は思いの外上手くいった自身の作戦にドヤ顔を浮かべつつ、内心心臓バクバクの冷や汗掻きまくりだったのを悟られない様に済まし顔でメインフロアへと続く道を歩き出した。



「おそろしい子……」


「ウホッ!いい男……」



 そんな鈴木の姿を追いつつ二人は思わず某作品の名言を呟く。

 なお、若干一名の視線がお尻に集中していた為に、鈴木の尻がキュッとなった。



「は、早くいくぞ!気を抜くなよ?」

(な、なんか妙にお尻に視線を感じる…………気のせいか?)


「ぶ、らじゃーであります!」


「くくく、御意にござるよ」


「こ、ここから先は音を立てるなよ?声も出来るだけだすなよ?」



 こうして三人はメインフロアへと続く曲がり角の奥へと歩を進めるのだった。











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