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いきなり…

 


 左右に位置する佐藤と山田が静かに扉を押し開けて、視界が拓くとすぐに鈴木が中央の一体に向けてスリングショットを解き放った。


 金属製の弾は狙い(タガ)わず額を捉え、中央のゾンビは鈍い音を響かせて後方へと倒れていく。

 そしてその様を横目に山田と佐藤は飛び出し、鈴木はすかさず時点の金属弾を構えだす。


 ゾンビが頭部を地面に打ち付ける音が辺りに響き、反応した左右のゾンビがゆっくりと三人の方へと振り替える。


 だがその瞬間にも佐藤と山田はそれらとの距離を詰め肉薄しており、そのまま勢いを乗せて各々の得物を突き出した。


 山田の木刀はゾンビの後頭部を捉えて弾き飛ばし、その頭部を硬い床へと強かに打ち付ける。

 佐藤も山田を真似したのか、ゾンビの後頭部へと両手で持ったスコップの刃先を突き出し、その頭部を弾き飛ばしていた。



「…………」


「うぅ……なんとか、なったであります……成仏してくだしぁ……」



 残心し自身が打ち倒したゾンビがもう動かないか警戒を続ける山田、一方佐藤は自分が倒したゾンビに近寄り両膝をつき黙祷を捧げ出した。


 そんな二人の様子を扉の前の位置からスリングショットを構えて見ていた鈴木は、何やら軽い疑惑を感じていた。


(んー?……さっきの二人の一撃……佐藤の方の音……少し軽かったような━━「ぎぃぃゃぁあああああああ!!!」


 鈴木が疑惑の正体を思索してスリングショットの構えを解き警戒を弛めた次の瞬間、断末魔のような叫びが辺りに響き渡った。

 

 鈴木は直ぐ様思考を戻し叫びの方へと視線を向ければ━━


 そこには先程佐藤が倒した筈のゾンビが、佐藤に覆い被さりその腕へと噛み付いていた。


 佐藤のスコップでの一撃は、硬い後頭部を粉砕するほどの打撃を与えきれずに仕留めそこなっていたのだ。

 それなのに無警戒に近付き、あまつさえ黙祷の為に目まで閉じていた佐藤は格好の餌食。ゾンビが動き出したのに気付かず、そのまま噛み付かれてしまったのだ。



「うああ゛ぁあ!!うああ゛あぁあ゛ぁあ゛ぁ!!?」



 黙祷中、不意に腕に噛み付かれ思わずパニクる佐藤。必死に腕を振っているが既に覆い被さられている為に大した身動きも出来ずに振りほどけないでいた。



「さ、佐藤殿!?す、鈴木殿!早く援護を!」



 鈴木より先に事態に気付いた山田だが、佐藤とは向かった先が逆方向であり、距離が十メートル程離れている為に直ぐには対処出来ずに鈴木の名を呼んだ。


 突然の事態に思考が停止してしまっていた鈴木だが、山田のその声により何とか己の役割を把握し、直ぐ様狙いを定めてスリングショットを撃ち放つ。


 佐藤が腕を振っていたためゾンビの頭部がブレていたのだが、運も味方しその金属弾は一撃でその額を捉えて粉砕した。


 ゾンビは佐藤の腕を咥えたままその上へと力なく倒れ込む。

 変わらずパニクっている佐藤は大慌てでゾンビの頭を振りほどくと、そのゾンビの体を強引にひっくり返した。


 佐藤は仰向けの体勢のまま自身の腕を天高く突き出し、乱心したように叫び声を上げ続ける。


 山田は鈴木の名前を呼んだ後すぐに佐藤の所へと向かっていた。そして叫び声を上げ続ける佐藤の側に来て膝をつき、どうしていいかおろおろと狼狽えだした。


 そんな二人の様子をスリングショット放った体勢で見ていた鈴木は直ぐにあることに気付く。

 構えを解くと足早に二人に近付いて、佐藤の腕と山田の尻に流れるような足捌きでミドルキックからの廻し蹴りを打ち込んだ。



「あぁあ゛あ゛ぁあ━━痛っ!?ちょ、い、いたいでありますよ!?」


「痛っ、え!?は?何故蹴られたでござる!?」



 何故蹴られたのか理解できていない二人に、鈴木はジト目で二人を交互に睨むとある部分を指を差し、そして冷淡に言い放った。



「噛まれたのは同人誌の上からだから。どう見ても無傷」



 鈴木の発言に「へぁ?」と変な声を出して呆然とする佐藤と、山田。

 二人は天高く突き出されている佐藤の腕へと視線を向け、そしてそこに巻かれていた同人誌━━歯形が付いた魔法少女のイラストと目があった。



「あぁあぁあ!?拙者のキュアビューティーの顔に歯形がぁぁ!!!」


「ちょ!!い、今は小生のキュアビューティーでありますぞ!?」



 そんなズレた事を叫び出す二人に、更に軽快かつ体重の乗ったローキックをそれぞれにぶち込んだ鈴木は、顔と足を抑えて痛がる二人を尻目に至極真面目な表情で捲し立てる。



「お前ら馬鹿か……いや馬鹿だろ?状況を考えろ。……取り敢えずすぐに立て。お前らが騒いだせいで……主に佐藤の叫び声のせいで、お客さんが大量にお出ましだぞ……」



 鈴木の視線の先、ショッピングモールのメインフロアの方へと続く通路、その先から大量の足音と呻き声が聞こえ始めていた。



「へ?……あばばばばば……や、やばいでありますよ!どうするであります!どうするでありますか!?」


「せっ、拙者としたことが!くっ、この数をどうするでござる!?流石に一辺に相手するのは無謀でござろう!」



 取り乱しながらも立ち上がりまた取り乱す佐藤と山田。そんな二人をよそに鈴木は冷静に暫し思考すると、すぐさま指示を飛ばした。



「エスカレーターで屋上駐車場にでるぞ」


「え?でも……大丈夫であります?」


「戻った方がいいのではござらんか……?」


「ピンチはチャンス、ってね」



 そう呟きエスカレーターに走り出す鈴木を、佐藤と山田は不安そうな面持ちで追い掛けた。




 


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