突入開始。
大人三人が並んで余裕で通れる幅の通路は、あちこちに段ボールや荷物が置かれているせいで実際よりかなり狭く感じてしまう程雑多としていた。
足元に注意し、死角にも気を払い、数メートル程進んだところで大型の業務用エレベーターを発見する。
通路はまだ先にも続いており、そちらが一階フロアへと繋がっているのだろう。
「どうするであります?」
「気持ち的には一階からしらみ潰しで行きたいところでござるが……」
「外から見てきた感じだと、一階はゾンビでごった返してる可能性が高いぞ」
「三階は屋上駐車場見たいであります」
「なら二階からでござるか?」
「だな、一階よりはマシだろ。ただエレベーター前にゾンビが溜まってない事を祈っておこう」
そうして三人は壁にあるボタンを押しエレベーターの扉を開くと中へと乗り込んだ。
扉正面に木刀を構えた山田が待機し、その左右で佐藤と鈴木が身構える。
「二階、押すぞ」
鈴木が内部にある"2"と書かれたボタンを押すと、大人二人が通れるほどの大きさの扉がしまりエレベーターは上昇を開始する。
体が重力を感じるがすぐに解放され、チーンと馴染みのある音と共に扉がゆっくりと開き出す。
扉にガラス窓が付いていない為に外を確認出来ず、未知への不安でエレベーター内の緊張が高まる。
三人が三人とも生唾を呑み込み緊張で手汗を掻きつつも、扉が開くのを静かに待った。
金属製の分厚い扉がスライドするように開いていき、生温い風がエレベーター内へと入り込んでくる。
そして視界が開けると三人は少し安堵した。
そこは一階で見た景色と同じ様な二メートル幅の通路のようで、一先ずゾンビの群れが居ることはなかった。
山田が恐る恐る顔だけを出して左右を確認し、そして直ぐに顔を引っ込める。
「右は行き止まりであったが扉が見えたでござる。
左は一階と同じ様に通路でござったが、先の方に人影が見えたでござる。恐らくゾンビでござろう」
顔を突き合わせ山田の話を聞いた三人は各々が黙想し、そして作戦をたてる。
「どっちに行くにしろ先ずはそのゾンビを片付けておくか」
「小生もそれがいいと思うであります。安全確保が一番」
「後々の為にもそれがいいでござろう。で、誰がやるでござる?」
「俺がやる。狭く、足場が悪い場所での接近戦は何が起こるか判らん。だから出来るだけ遠距離からやろう」
「ゾンビは後ろを向いてござったから、一応の確認の為にも此方を向かせる必要がござるな」
「それなら小生がスコップで壁を叩いて注意を引くであります」
「それでいこう」
頷き合い、三人はエレベーターから静かに出る。
左を向けば、十メートル程先で背中をこちらに向けて棒立ちしているこのショッピングモールの制服であろうシンプルな青のシャツとスラックスを着た髪の短い人物の姿があった。
「いくでありますよ」
「いつでもオッケイ」
「後方問題なしでござる」
三人の真ん中でスコップを構えた佐藤が、コンクリートで出来た壁にスコップの金属で出来た刃先を打ち付ける。
カンカンカンと軽く甲高い音が通路内で響き、そしてスリングショットを構える鈴木の前方で佇んでいた人影が反応した。
ゆっくりと振り向いたその人影は案の定、生きた人間ではなくゾンビ。両目とも眼球が抜け落ち、窪んだ二つの空洞が三人の方を漠然と向いていた。
「目標視認、ゾンビ確定!黄泉送りだぜ!南無三!」
振り向いた姿勢で足元の段ボールに引っ掛かり大した動きも見なかったゾンビは、鈴木が放った金属弾をその額に受け呆気なく倒れた。
「相変わらず鈴木氏は凄いであります、百発百中!」
「ある種の才能でござろうな、頼りになり申す」
「へっ。こ、このくらい何て事はない………………じゅ、じゅじゅジュースでも奢ろうか?」
「ツンデレ(笑)」
「照れてるでござるな」
「う、うっさい!」
と、三人は緊張を解すように会話をしつつも倒れたゾンビが動かないことを近付いて確認し、その死体を邪魔にならないように壁にもたれ掛けさせる。
そしてその奥にある曲がり角の先を確認する為に、三人は縦に並んで静かに覗き込んだ。
「げ……結構いるであります」
「三……四……五……六体はいるな」
「同じ様な作業着姿でござるから、何かの業者さんご一行でござろうなぁ」
「……ここは取り敢えず放置でいくか」
「賛成」
「意義なし」
曲がり角から顔を引っ込めた三人は少し戻った所の壁に並べてある荷物の詰まったカーゴを二台並べて、即席の壁を作ってその道を簡単に封鎖した。
これで少し動かせば人は通れるけど、知能のないゾンビは引っ掛かりこちら側へはこれないだろう。
そして三人はエレベーター前を通り過ぎ、十メートル程先の行き詰まった所にある扉の前へと進んだ。
エレベーターからすると向いの壁側に設置された両開きの鉄の扉には小窓が付いており中を確認出来るようになっていた。
誤って客が居るときに開けてぶつけない為の処置であろうが、三人にとっては都合のいい覗き窓だ。
三人が顔を寄せ合って覗き込めば、そこは明るく清潔感のある小さいフロア。ベンチや自動販売機、観葉植物等が置いてあり、エスカレーターや更に奥に通路も見える。
ここはどうやらショッピングモールの端辺りに位置する簡易休憩所のような所だろう。
三人は覗き窓から見える範囲を念入りに見渡し、そして肝心のゾンビらしき人影を三体発見した。
あからさまに頭部の皮膚が抜け落ちている奴や眼球が垂れ下がっている奴が混じっている為、三体ともゾンビと認定した。
その三体はこちらを向いている奴もいるがまだ三人には気付いていないようだ。
「こっちを向いている奴は俺が先にやる」
「それじゃ拙者は右奥の奴を狙うでござる」
「しょしょしょ、小生は、ひ、左手前の奴をヤるでありましゅ」
「ヤれるか?」
「や、やれる、やれないではなく、や、ヤるであります!」
「くくく、その粋でござるよ」
「しくじっても俺が直ぐにフォローする。気負わず行け」
不安と緊張で気負いすぎな佐藤に、鈴木と山田が佐藤の肩に手を乗せて優しく声を掛ける。
それでも鼻息荒い佐藤に二人は苦笑いしつつも、肩をポンポンと叩いて二人は離れた。
三人はそれぞれ目標のゾンビを定め、武器を握り締めた。
深呼吸をして息を整え集中する。
各々の目を見合せ、頷き合い、そして静かに扉を押し開け飛び出した。




