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赤目と赤い部屋。

 


 必中の距離にあった金属弾は確りと額を捉え、いつもより少し高い打撃音を響かせ赤目の頭部を大きく後ろへと仰け反らせた。



「や、やったでありましゅか!?」


「………………いや、まだだ!佐藤!気を抜くな!音が軽かった!」



 鈴木は発破を掛けながら次なる弾を取り出した。

 その捉えたままの視線の先では、仰け反った頭をゆっくりと持ち直し、淡く光る赤い瞳で睨み付けるように鈴木を真っ直ぐと見やる赤目の姿があった。


 赤目は鈴木を視線に捉えたまま佐藤の体から腰を浮かせて立ち上がる。

 そして未だに弾を構えきれていない鈴木に向かって飛び掛かった。


 赤く濡れた口を目一杯かっ開き、淡く光る赤い瞳は尾を引きながら鈴木を捉えて離さない。


 鈴木が、あ、これはヤバい、死んだ、と半ば諦め掛けた時、鈴木のすぐ目前で赤目の接近が唐突に止まった。



「す、鈴木氏!い、いまのうちにぃぃ!」



 チラリと見えた赤目の後方、倒されていた筈の佐藤が必死に赤目の脚にしがみつくように抱き着いて引き止めていた。



「ぐ、グッジョブ佐藤!」



 そう叫んだ鈴木は直ぐ様転がり赤目との距離を取る、そして流れるような動作でスリングショットに金属弾を構えると赤目の額へと狙いを定めた。


 そこには初撃で撃ち込んだ弾の後だろう綺麗に弾の形に窪んだ凹みがあった。



「弐撃……决殺!」



 再度放たれた決死の弾丸は導かれるように初撃の後に吸い込まれ、お馴染みの鈍い破砕音を響かせた。


 何故だか他のゾンビより頑丈な赤目だったが、一度目の射撃で脆くなっていた額の頭蓋骨を、二度目で全く同じ場所に衝撃を与えることにより完全に粉砕し脳に損傷を負わせる事に成功したのだ。


 力なく前のめりに倒れ伏す赤目、漸く動かなくなったその姿に鈴木と佐藤は思わず肩の力を抜いた。



「あ、危ない所だった……」


「死ぬかと思ったであります……」



 ところが、そんなもう終わった感満載の二人の耳にふとか細い声が届いた。



「お、落ち着いた所、申し訳ないで、ござるが……こ、こちらの方も、対処してくれないで、ござるかな……?」



 二人がそちらを見ると山田がプルプルと震える両腕で覆い被さるゾンビに何とか耐えていた。

 ゾンビの顔は山田の顔紙一重の所まで迫っており、かなりギリギリの様子。

 顔を横に背けて何とか距離を稼いでる山田だが、その顔はゾンビの涎に濡れていて悲惨な状況だ。


 鈴木はうっかり忘れていた事は顔には出さない様に素早く立ち上がると、丁度いい高さにあったゾンビの顔をサッカーボールかのように爪先で蹴り飛ばした。


 吹き飛ぶゾンビ、すかさず佐藤が謝罪の言葉を口にしながらその頭部にスコップを振り下ろし止めを刺した。


 袖で必死に顔を拭う山田に鈴木が手を差し伸べる。



「間に合ってよかった」



 鈴木の手を掴み立ち上がりながら、山田が苦情を述べる。



「ひ、ひどい、普通に助けてほしかったでござる!

 靴底が耳を擦っていったでござるよ!?しかも、絶対、拙者の存在を忘れてたでござろう!?」


「しょ、小生は覚えていたでありますよ?ただ、ちょっと、余裕がなかっただけであります」


「お、俺も覚えてたし。ちょっと思考が追い付いてなかっただけだし……。蹴ったのは、金属弾が残り少ないから節約だ」


「ふむ……まぁ無事だったからいいでござるが……。

 それより、皆怪我はないでござるか?」



 三人は各々が自身の体を触って確かめ、怪我がないことも確認した。

 そして、落ち着いた所で三人の視線はある一体に向けられる。

 俯せに倒れ伏す人とそう変わらない外見をしたゾンビに。



「赤目……」


「走ってたでござるな……」


「力も強かったであります……」


「それに硬い……」


「行動に知性のようなものもござったな……」


「「「………………」」」



 そのまま各々思うところがあったのか暫く無言で立ち竦む三人。

 だが、ふと、佐藤があることを思い出した。



「こいつ、口の回りに血の後があったであります……」


「そういえば、そうだったな……」


「と、言うことは……そういう事で、ござろうな……」



 三人の視線は自然に詰所の方へと向けられる。

 赤目が出てきた場所であり、赤目がしゃがんで何かをしていたであろう場所。



「確認しておく、必要はあるよな」


「で、ござるな」


「う、うぅぅ」



 生唾を呑み込む鈴木と山田、佐藤は何かを想像して口許を抑えて吐き気を催した。


 大体想像通りの光景がひろがっているだろう。

 誰が進んでそんな場所を見たいと思うだろうか。

 だが、未知のゾンビ、その行動を少しでも把握するためには必要な行為なのだ。


 そして視線でお互いの意見を今一度確認しなおして頷き合い、気乗りしない脚を動かし、ゆっくりと慎重に詰所へと歩を進めた。


 ゆっくりゆっくりと近付き詰所の出入口まで到着した三人は、またしてもお互いに無言で確認を取り合うと頷き、意を決して詰所の中へと入った。



 真っ先に目に入ったのは室内を染める異様なまでの"赤色"だった。

 真っ赤に染まった床、壁や机等に飛び散った赤、この室内でどんな惨状が起こったのか想像に難しくない程の有り様だった。


 狭い室内には横たわる一体の男性の死体。


 死体と判ったのはそのお腹が開かれ、中の内臓が剥き出しだった為だ。


 腹部より飛び出している食べ掛けの内臓、辺りに散乱している肉片や血、余りの非現実的な光景、そして更に鼻に突く濃厚な血の香りと腐臭が三人の精神をガリガリと削る。


 佐藤は耐えきれなかったのか、外へと走っていき壁に寄りかかると直ぐ様嘔吐した。


 鈴木と山田も精神がどうにかなってしまいそうな程の悲惨な光景に何とか耐えながら、袖で鼻と口を抑えつつ状況の把握に急いだ。



「うぅ、こ、こいつを食ってたのは間違いない、か……」


「うぐぅ、酷い有り様でござる……」


「しかし、この死体……ちょっと可笑しくないか?

 まるで━━


「す、鈴木殿!待つでござる!」



 そう言って死体の顔を覗き込もうとした鈴木の肩を掴んだ山田は後ろへと引っ張り寄せると、入れ代わる様に自身が前に出て、そして片手に持つ木刀を突き出した。


 な!?と驚く鈴木を尻目に突き出された木刀は、今まで死体と思っていた男の額を捉えて弾き飛ばしていた。


 "上半身をお越し、大口を開けていた男"は体ごと詰所の壁に叩き付けられ、頭蓋骨を完全に粉砕されてその動きを止めた。



「な、なにが起こったでありますか?」


「な、なんだよ、マジで……」


「ただ、この死体が動いた……ゾンビだったって事でござろう……」



 駆け付けた佐藤、後方に引っ張られて体勢を崩したまま固まる鈴木、そして木刀を突き出したまま警戒を切らさない山田は、暫し先程動いた死体だった者を凝視して立ち竦んだ。



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