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コードネームは…

 


 ショッピングモールの裏手、そこには優に四、五台の大型トラックが並列して停められる程の広さがある搬入口があった。


 搬入出用の大きなシャッターは殆どが完全に開けられた状態で放置されており、照明等も付いたまま、作業用のBGMだったのだろう聞き覚えのある曲が何処からか静かに聞こえてくる。


 外から見受けられる内部にはまだ仕事の途中だったのか、カーゴとよばれる金属製の檻のような台車や手押しの台車に乗せられたままの荷物などが無造作に放置されていたり、地面に散らばっている荷物も所々に見受けられる。


 平日の一コマの風景から人だけを抜き取り、そのまま保存したかのような、現実なのに非現実的なもの寂しさがそこにはあった。このゾンビパンデミックが本当に唐突に始まったのだなと実感させられる。




 現在搬入口に停車しているトラックは二トンの箱車が二台だ。

 因みに箱車というのは、引っ越しや荷運び用で日本中を走り回ってる後部に箱形の荷台が付いたトラックの事である。



「こちらアルファ、箱車近辺に敵影はなし、繰り返す、敵影はなしだ、オーバー」



 停車しているトラックに近付きクリアリングしていた鈴木が何も持っていない手に向かって話し掛ける。

 鈴木のすぐ真後ろ、両手でスコップを構えて鈴木の後ろに着いていた佐藤は、それを聞くとわざわざスコップを片手で持ち直し空いた片手に話し掛ける。



「こちら007(ダブルオーセブン)、アルファの背後は安全であります、どうぞー」



 佐藤のすぐ真後ろ、二人の後を着いてきていた山田も苦笑いを浮かべながらも二人の真似をする。



「こちらスネーク、後方にも敵影はないでござるよ」



 山田がそう言うと、直ぐ様前方の二人が振り返り非難の視線をぶつけてくる。

 山田が自分の何処が悪かったのか首を傾げてると、佐藤がその疑問を解消してくれた。



「無線は基本的に一方通行なので、最後はどうぞとか、オーバーとかで終わらせないと駄目でありますよぉ」



 成る程と納得する山田。

 だが鈴木が言いたかった事は別にあるらしく、佐藤と山田の二人の顔を交互に見やり迫りながら話を切り出した。



「つかお前ら、俺がアルファで始めたんだから、そこはブラボーとか、チャーリーで応答してくれよ……。

 何で二人共伝説の人名乗っちゃってんの?これじゃ隊長の立場なくない?いじめ?新手のいじめですかこれ?」



 と、二人に無表情で詰め寄る。

 そんな迫ってくる鈴木に、佐藤と山田の二人は仰け反り、焦りながらも答えた。



「だ、だって、モチベーションが上がるであります、よ?」


「そ、そうでござる。す、好きなキャラに成りきるのが一番いいでござるよ?」


「まぁ…………確かに」



 二人の言い分に納得してしまう鈴木。

 そして暫し考え、そして顔を逸らして小さく呟いた。



「それじゃ俺は…イーサンハント、にする……」



 某スパイ映画に出てくるイケメンの主人公、その名前を聞いて佐藤と山田は思わず真顔になった。



「無理があるであります。何処がと言われれば主に顔が」


「千歩譲って、外見的特徴は置いとくとして。イーサンハントは役名であってコードネームではないでござるよ?」



 ある程度予想していた通りの二人の反応に鈴木は即座に言い返した。

 顔を真っ赤にして、唾を盛大に飛ばしながら。



「そんなん判っとるわボケぇ!つか、俺の顔が駄目ならお前ら二人も駄目に決まっとるだろうがい!コラぁ、目ぇ逸らすなぁ!それと!俺が名乗れば本名じゃない限りはそれがコードネームだ!これからはイーサンと呼べいぃぃ!」



 息を切らしながら捲し立てるように言い切る鈴木、だがそんな鈴木とは裏腹に二人は既に冷めていた。



「え、まだ無線ゴッコ続けるのでありますか?

 疲れるので普通でいいと思うであります」


「で、ござるな。

 それとあまり大声を出すとゾンビが集まってくるでござるよ?」



 二人の正論にぐうの音も出ず、余りの恥ずかしさに鈴木は顔を真っ赤にしてプルプルと震えだす。

 そして、二人の視線に堪えきれなかった鈴木は逃げるようにして搬入口の方へと走り出した。

 慌てて佐藤と山田も後を追う。



「ま、待つであります!言い過ぎたでありますよ!

 ドンストップ!イーサンンンン!」


「ちょ、佐藤殿!今イーサン呼びは逆効果でござるよ!煽ってどうするでござる!?それとドンストップだと、止まるな!になるでござるから、それも煽ってるでござるよ!面白いけども!」


「え、そ、そんなつもりは!?う、え、どん、と……どんとむーぶ?」


「動くな、でござるか。確かに間違ってはいないでござるが、ここは普通に、ストップでいいと思うでござるよ?」


「な、ななるほど!す、すすすす鈴木氏ぃすすすすスコーップ!」


「確かにそれはスコップで間違いないでござるな」



 後方から二人のそんな会話が聞こえてきた鈴木は、気になって後ろを見るとスコップを両手で掲げてこちらに向かって必死に叫びながら追ってくる佐藤の姿があった。

 因みにその隣の山田は苦笑いを浮かべながらも周りの警戒をして走っている。


 鈴木はそんな二人の馬鹿みたいなやり取りが少し面白くて笑えてしまい、ふとして冷静になれた。

 そしてこんな状況で恥ずかしがって暴走している段でもないかと、搬入口の入り口である大型のシャッターの前で減速して立ち止まった。

 そして追い付いてきた二人に向き直り、少し照れながらも自分から声を掛けた。



「あー、えっと、し、仕切り直して、慎重に行こか……」



 そんな急変した鈴木の態度に、佐藤と山田は少し面を食らうも提案に乗る事にする。

 ニヤニヤとしながら。



「了解でありますよ、ふひひ」


「くくく、御意にござる」


「わ、笑うな!」



 こうして先程までより落ち着いた三人は冷静に搬入口からの潜入を開始した。

 


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