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文明レベルを上げよう、その弐。

 


「飯も食べた事だし、準備に取り掛かろう」


「何が必要でありますか?」


「ここはアニメや映画を思い返し、参考にするのがいいでござろう」


「だな。テンプレ通りで行くと先ずは感染の確率を減らすために防御を固める必要がある」


「アレでありますな」



 朝食を済ませた三人は外出準備をする為に行動を始める。

 鈴木を先頭にまず向かったのは山田の私室、そこで鈴木は真っ先に押し入れを開けた。



「やはり、あったか」


「な、鈴木殿!こ、これだけはご勘弁を!!」


「ゾンビ対策に防具は必須、そしてテンプレと言えば雑誌等を体に巻き付ける!でありますな」


 二人の足にすがり付く山田の必死の抵抗も虚しく、鈴木と佐藤は小棚に綺麗に納められていたお目当ての品を手に取り、表紙に目を向ける。



「十八禁の某魔法少女物か………このロリコン」


「こっちは十八禁の某妹物でありますな………この変態」


「あ、ああああああ、ご勘弁をぉぉ!拙者がなけなしの金で集めた同人誌がぁぁあ!」


 未だ足にすがり付いている山田をゴミでも見るかのように見下しそう言い放つと、それぞれが十数冊の薄い本を両手に抱え、悲痛の叫びを上げる山田を放置し部屋を後にした。



「ああは言ったが、なかなか良いラインナップだったな」


「であります。良いセンスしてたであります」


「かなり多目に獲ってきたわ、残りは俺のコレクションに加えておこう」


「鈴木氏エグいであります……まぁ小生も多目に獲ってきたでありますが!ふはは」



 と、二人は中々ゲスい会話をしながら荷物を置いている道場へと戻ってきた。

 二人は持ってきた本を床に置くとそのまま座り込み、自身の手足に先程持ってきた本を巻き付けガムテープで固定し始める。



「ダブってる奴を重点的に巻いていこう」


「同人誌に罪はない、せめて表紙だけでも綺麗に見えるように固定するであります」


「それな」



 こうして自身の手足に薄い本を巻き付けた二人は、ジーンズのベルト部分にも数冊程薄い本を挿し込み防御力を底上げした。

 そして残った薄い本を自分の陣地に隠し、動作に支障がないか二人で確認していると、同じように薄い本で防御を固めた山田が姿を現す。

 その表情は怒りと悲しみと悔しさがない交ぜになったような、鬼のような形相だった。



「スベテ ゾンビノセイ

 スベテ ゾンビガワルイ

 ゾンビ ユルサナイデゴザル……」


「お、おう、頼りにしてるぞ」


「き、気合い入ってるでありますな…」



 何故か片言でそう繰り返し呟く山田に思わず圧倒される鈴木と佐藤。

 山田が木刀で素振りを始めると、本能的にこれ以上刺激するのは不味いと感じ、いそいそと準備を急いだ。

 佐藤はリュックを背負うとスコップを片手に持ち、鈴木はリュックとウエストポーチを装着した。



「これで一応の防御面はオッケー」


「ふむ、次は何するであります?」


「フシュルルルル……」


「武器も……良さそうだな。それじゃ最後は目的地を決めるか」


「それじゃ山田氏のパソコンで調べるであります」


「フシュルルルル……」



 二人は何かに変貌しそうな雰囲気の山田を取り敢えずスルーし、山田の私室のパソコンで周辺の地図を調べ上げる。



「こことかよさそうだな」


「大型ショッピングモール……田舎ならではでありますな」


「ゾンビも多いだろうが、その分広くて遣りようもある。

 品揃えも間違いないだろう」


「片道二時間程掛かりそうでありますが……」


「問題ない、帰りは車だ」


「問題しかないでありますよ……」


「フシュルルルル……」



 難なく近くのショッピングモールまで地図を調べた二人だが、山田の家にはプリンターがなかった為、鈴木が持っていた紙の地図の内の一枚に新たに道を書き足した。


 地図を手に入れ準備が整った三人は靴を履き道場を後にする。

 時刻はまだ十時前、道中何事もなければショッピングモールにはお昼頃に着く予定だ。



「よし、気合い入れていくぞ」


「周辺確認も怠らないでありますよ!」


「ゾンビ ユルサン」


「ま、まだ言ってるのか山田」


「と、取り敢えず、落ち着くまで放置であります…」



 木刀片手に目をギラギラさせて歩くのは、赤色のチェックのシャツを着たガリガリノッポの山田。


 スコップを両手に挙動不審に辺りを警戒して歩くのは、緑色のチェックのシャツを着たデブメガネの佐藤。


 スリングショットの入ったウエストポーチを腰につけ地図を拡げて歩くのは、青色のチェックのシャツを着たチビハゲの鈴木。


 こうして三人のオッサンはショッピングモールを目指して歩き始めたのだった。





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