さて、どうしようか。
冷静になった三人はふと視線を感じ、道路側の大きな窓ガラスの方を見た。
「あー……まぁ、あれだけ騒いでたらなぁ……」
「しかも小一時間程やってたでありますからなぁ……」
「最後の方とか叫びっぱなしでござったからなぁ……」
そこに見えたのは想像通りのゾンビの群れ。
自分達が恰も動物園の動物にでもなったかのような感覚に陥るほど、窓ガラスに張り付くように埋め尽くされたゾンビ達にガン見されていた。
幸いにもゾンビ達は窓ガラスの存在に気付いていないのか、パントマイムでもしてるかのように動くだけで、ガラスを割ろうという素振りはみせていない。
三人はゾンビから数メートルという近距離にも関わらず、無防備にだれるように深くソファーへと座り込み、ぼーっとテレビでも見るかのようにそのゾンビ達を眺めた。
「また閉じ込められたな……」
「これは正面から出るのは無理でありますなぁ……」
「また…でござるのか?……まぁここは裏口から出るしかないでござろう」
「はぁ……もう、マジでこいつらうぜぇ」
「本当に面倒臭いであります…」
「まだそう思えるだけ拙者達は恵まれてるでござるよ」
「そうはいってもよぉ………」
適当にだらだらと会話をしながら三人は無意味に時間を過ごしていく。
だが、ちょっとした会話の切れ目にふと鈴木が思いたったように立ち上がった。
そしてそーっと窓ガラスに近付いて、ゾンビが群がる窓ガラスへと恐る恐る指を近付ける。
「指には反応しねぇな……」
鈴木のその呟きに一番近いゾンビがピクリと反応するが、近付けた指に興味を示すゾンビはいない。
「やはり見えていないみたいでありますな」
そう言いながら佐藤も窓ガラスに近付き指を近付ける。
「成る程、このゾンビの生態を調べてるのでござるな……どれどれ」
二人の行動に感心しつつ窓ガラスに近付いた山田は、その窓ガラスを軽くノックする。
う?うばぁあううう゛あ゛あ゛ぁ
すると、そのノックの音に数体のゾンビが反応し、窓ガラス越しに山田の拳に噛み付こうと口を開閉させつつ群がった。
「やはり、音、だな……」
「で、ありますな」
「他には何か分かっている事はござるのか?」
ノックを続けながら、山田は二人の方を向く。
佐藤と鈴木もノックの音に集まってくるゾンビに興味を覚え、窓ガラスをノックする。
「まぁ後はゾンビの半径五メートル程に近付いたら音をたててなくても捕捉されるとかあるけど、動きは鈍いし力もそんなに強くないから逃げるのも倒すのも簡単だ」
コンコンコン
「知能も殆どないみたいでありますし、頭を潰せば活動も停止するでありますよ」
コンコンコン
「ふむふむ、聞くだけであれば大層甘い仕様のゾンビでござるなぁ」
コンコンコン
「楽勝ゾンビだな」
「楽勝ゾンビでありますな」
「楽勝ゾンビでござるな」
「「「ぷっ……あっはっはっは!」」」
コンコンコンコンコンコン
三人は群がるゾンビを横目に、思ってたよりも楽勝そうだと顔を見合わせて大笑いした。
その笑い声に必死に反応するゾンビ、ノックの音にも懸命に反応するゾンビ。
そんな滑稽なゾンビを手玉にして、三人は更に気分をよくし軽快なリズムでノックを続けて笑い声を上げた。
━━━━━━………………ピキ
「「「はっはっは…………え?」」」
ピキピキピキ……
「「「え?」」」
だがそれは楽観視過ぎたのだ。
一体一体の力は弱くとも、その重さは健康な人間の体重と大して違いはない。
それが群れて窓ガラスに殺到すれば、後は力など必要ないのだ。
三人の笑い声が木霊する店内に突如響き渡った小さな亀裂音。
その小さな音は徐々に、徐々に拡がっていき、段々と嫌な想像を掻き立ててくる。
三人は動きを止め、全身から大量の冷や汗を噴き出しつつ、顔を見合わせたまま現状の把握に努めた。
「な、なんかヤバくね?」
「ま、窓ガラスから何か嫌な音が聞こえてくる気がするであります……」
「拙者もそんな気がするでござる……」
「こ、これ、窓ガラス割れるんじゃね……?」
「ま、間違いないであります」
「は、早く逃げた方がいいのでござらんか……?」
現実なんて見たくない、だが見ないことには始まらない。
だから三人は意を決し、壊れたロボットのような動きで窓ガラスの方を確認し、そして予想通りの光景に息を呑んだ。
「あ、あ、かか各自速やかに撤退準備!」
素早く状況を把握した鈴木の叫びに残り二人も反射的に反応し振り向き様に走り出す。
鈴木も 徐々に大きく広がっていくひび割れを見つつ後退り、割れるのにそう時間が掛からない事を確信する。
「も、もうカートは置いていけよ!」
「わ、わかってるであります!リュックだけにするであります!肉を出来るだけ詰める!」
「せ、拙者は……」
「山田は適当に持てる袋を取れ!殿は俺がやる!ふ、二人は裏口の安全を確保しろ!」
鈴木はリュックを背負いつつ的確に指示を飛ばす、その手には袋は持たず、ウエストポーチからスリングショットを取り出した。
佐藤は肉を詰めたリュックを急いで背負い、片手にスコップを握り締めると裏口の方へと走り出す。
山田も缶詰やカップ麺が入った袋を手に持つと佐藤の後に続いた。
一足先に裏口についた佐藤がドアノブを回そうとするが、左右どっちに回そうがいくら力を込めようがビクともしない。
「か、鍵がしまってるであります!?」
焦り、テンパり、ただ闇雲にドアノブを押したり引いたり回したりとガチャガチャする佐藤の元へ山田が不安そうな表情を浮かべ駆け付ける。
両手の塞がっている山田は忙しなく辺りを見渡し鍵を探す、だがそれらしき物は見付からない。
ガシャァァン
フロアの方から聞こえるガラスが盛大に割れ落ちる音。
そして続けて騒々しい呻き声が耳へと届く。
無遠慮にガラスを踏み締める音が聞こえてくる中、鈴木がフロアの方をチラチラ確認しつつ走って二人の所にやってきた。
「な、なにやってる!?」
「そ、それが鍵がしま閉まっててありまする!」
「ど、どこ、何処にも、かかき鍵がないでござるのよ!」
テンパる二人を横目に鈴木は冷静に辺りを見渡す。
そして、ある一点に目を止め、深く溜め息を吐いた。
「おい、アホかお前ら……。
内側なんだからドアノブ自体に鍵着いてるだろ……」
「「……あっ」」
佐藤が握りしめたドアノブの中央には主張するように飛び出たサムターンという名のツマミ。
鈴木は呆ける二人を余所にそのツマミを摘まみ、グリッと回した。
ガチャッ
と、簡単に開く鍵。
「「あっ」」
鈴木は未だ呆ける二人の尻を叩き、通路の先から我先にと雪崩れ込んでくるゾンビに向かって独創的かつ斬新なポーズでスリングショットを構えて渇を飛ばす。
「ったく、ボサボサしてんな!早く出るぞ!
ん そ げ きっ! そ げ きっ!」
鈴木が発射した金属弾は迫り来るゾンビの額を的確に捉えては次々に撃ち倒していく。
そして鈴木に尻を叩かれ渇を飛ばされて漸く再起動した二人は佐藤を先頭に裏口へと急いだ。
スコップを構え慎重かつ迅速に外へ出ると、そこは思ってたよりも綺麗にされていて広々としている路地裏。
左右を確認し、ゾンビの姿がないことを確認すると二人に知らせる。
開いたままの裏口から山田が袋を引っ掻けつつもぞもぞと出て来て、鈴木がスリングショットを放ちながら後ろ向きに出てくると、佐藤は直ぐ様扉を閉めて押さえ込んだ。
数秒後、ガツンという音とともに扉に伝わる衝撃を感じるが、暫く待てど扉が開くような気配はなかった。
三人は一息吐く、そして誰とはなしに路地裏に小さく言葉が響いた。
「さて、どうしようか」




