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家なきオッサン。

 


「冷食は偉大である」



 徐に立ち上がり、前衛的かつ斬新なポーズを決めたままそう断言したのは先程冷凍食品のナポリタンを貪るように食べ、口回りをケチャップで真っ赤に染めた鈴木である。

 何故か無駄にテンションが上がっているようで本人的にはかなりのキメ顔でやっているみたいだが、口の回りが派手に汚れていて色々と台無しである。

 因みに彼は自身の口回りが汚れていることに気付いてはいない。



「意義、なし」



 両肘をテーブルに着き組んだ掌の上に顎を乗せてドヤ顔でそう呟いたのは佐藤である。

 本人的には大好きなアニメのキャラクターのポーズを真似しているつもりなのだが、オリジナルは手に顎なんて乗せていないので、その姿はグラビア撮影をしてるオネエっぽい。

 因みに彼は冷凍食品のお好み焼きを食べて口回りをソースで盛大に汚しているが、やはり本人は気付いてはいない。



「世の中、進歩してるでござるな…」



 最後に感慨深そうにそう呟いたのは山田である。

 冷凍食品の炒飯を食べていた彼だが、例に漏れず彼も口回りに大量のご飯粒を着けている。

 本人は至って真面目な表情だが、如何せん着いている米粒が多過ぎてボケているようにしか見えない。

 勿論本人は気付いてはいない。



 程無く三人の視線は自ずとお互いの口元に集中し、なんとも気まずい沈黙がその場を支配した。

 だがその沈黙も数秒、堪えきれなかったのか三人が三人とも同時に噴き出すとともに他の二人を指差して嘲笑った。



「ぷっ!なんだお前らのその顔!子供かおい!飯くらい綺麗に食えよなー!」

「プークスクス!二人とも酷い顔であります!口回りが凄い汚いでありますよ!」

「くくく、二人は食べ方がなってないでござるなぁ。いい歳した大人でござろうに」



 明らかに他の二人も自分以外の二人を交互に指差して笑っている。

 自分も自分以外の他の二人を指差して笑っている。

 笑い、笑われ、そしてお互いがお互いを指差し合ったまま三人は固まった。



「「「……………………え?」」」



 お互いのその行動の意味に気付き、各々が自分自身を指差して他の二人の顔を見やった。

 目があったら頷いて、視線をずらし、目があったら頷いて。

 そして、三人は漸く事態を理解し、三人とも無言のまま洗面所へと向かった。



 ━━━━━━━━………………。




「さて、腹も膨れたことだし、取り敢えず置いといた山田の話でも聞いてやるか」



 何事もなかったかのように普通に席に座り上から目線で話し出す鈴木、その口回りは綺麗になっていた。



「そういえばそうだったでありますな。

 確か、昨日から歩きずくめ、とな?」



 佐藤が何食わぬ顔で会話を繋げる、その口回りは綺麗になっていた。



「う、それが恥ずかしい話でありますが…………」



 二人から話題を振られ恥ずかしげに指で頬を掻く山田、やはりその口回りは綺麗になっていた。


 この三人、無言のまま洗面所で口回りを洗うと、そのまま意志疎通を取ることもなくお互いの気持ちを理解しあい、満場一致で先程の事を無かった事で話を進めることにしたらしい。

 無駄に高度なコミュニケーションである、三人とも自称コミュ症であるが。



「実は……」



 と山田は昨日自身に起きた悲劇とそれに至って思い当たる節を語った。

 その後、勢いのままに夜中に家を飛び出した所まで話終え、そして最後に小さく付け足した。



「で……道に、迷ったでござる…」



 頬を染め恥ずかしげに俯くオッサン、すかさず残り二人のオッサンが突っ込みをいれる。



「そりゃ引きこもりが夜中に外に出たら迷うわな、唯でさえ土地勘も無いだろうに」


「近くに山なんて無い筈ですぞー?

 どこから来たであります?」



 二人からのここぞとばかりの突っ込みに山田は思わず言葉に詰まる。

 ニヤニヤした二人の顔をチラチラと交互に見つつ、意を決して絞り出すように呟いた。



「暗かったので何処からどう歩いて来たかも分からないでござる……。ひたすらずっと歩いてたのでここが何処かも分からないでござる……。家の住所も分からないでござるし……。ぶっちゃけ、何も、分からないでござる……。ただ一人、途方にくれて呆然と歩いていただけでござるよ……」



 どんよりした雰囲気を纏いつつ投下された山田の爆弾発言、その余りにもな破壊力に佐藤と鈴木も思わず言葉に詰まった。

 だがこのまま無言もあれだと思い、難とか場を繋ぐ為二人は取り敢えず適当に喋った。



「お、おう、ま、まぁあれだ、あれ、……」


「そ、そうでありますな。あ、あれでありますよ、あれ……」


 余りにも適当過ぎる、だが山田はそんな適当な返しにも反応した。


「……あれ、でござるか?」



 少々涙目な山田の瞳が佐藤と鈴木を捉えて離さない。

 二人はもう後戻りは出来ないと必死に頭をフル回転させ、どうにか自身が持てる最適な答えを導きだした。


「あれ、あれ……あっ、ぞ、ゾンビ……ゾンビであります!」


「あ?あ、そう、そう!よ、夜中にゾンビに出会わなくてラッキーだったじゃねえか!」


「そ、そうであります!夜中に遭遇した人がゾンビだったりしたら、最悪だったでありますよ!」


「た、確かにで、ござるな……」



 食い付いた!と感じとった二人は畳み掛けるように言葉を続ける。



「そ、それに、帰る家がないのは俺らも一緒だ!

 俺は家の鍵がなくて、閉め出された!」


「しょ、小生も帰る道が分からずに迷子になって鈴木氏と出会ったでありますよ!」


「ほ、ほんとでござるか?」



 山田が顔を上げ、すがるような瞳で二人を交互に見詰めてくる。

 佐藤と鈴木もここで一気に!と本人達もよく分からないテンションで言葉を続ける。



「お、おう!同じ家無き子だ!もう子ではないけども!」


「同じ同じ!ナカーマ!」


「同じ……仲間……」


「そうだぜ!オレタチナカーマナカーマ!」


「イエッ!カモッ!オレタチポンヨウ!ダ、ヨウッ!」


「ナ、ナカーマ……キ、キミタチモ同ジ、家ガ無イ フレンズ ナンダネ」


「ソウ!ナカーマ!」


「イエッス!ポンヨウ!」


「OH!フレンズ!」



 久方ぶりの外での活動による極度の疲労と、非現実的なイベントの数々による精神的なストレス、それらが安全な場所という安心感と満腹による満足感により変にMIXされ、彼等は徹夜明けのような変な超テンションに突入していた。

 こうして変な超テンション……もとい一種のトランス状態に陥ったオッサン三人による謎の儀式は、三人が疲れて崩れ落ちるまで何故か続けられた。

 そして冷静になった三人はまたしても無言意志疎通により、この事をなかった事にするのであった。



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