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調理…調理ってナニかね?

 


「これは……電子レンジか?」


「で、ござるな。此方がコンロにフライヤー、それに炊飯器に、この下の奴がオーブンでござろう」


「此方には冷蔵庫と冷凍庫もあるでありますよ」



 いつの間にか復活し合流していた佐藤も合わせて三人で調理場を物色していく。

 粗方の調理器具が正常に動作することを確認し、三人は冷蔵、冷凍庫の前に集まった。



「んー、どれもまだいけそうでござるな」


「ふむ、変な臭いとかも特にしないであります」


「だな……で何食べる?」


「肉を食べたいであります、肉を」


「拙者も外食は久しいでござるから、肉食べたいでござる」


「意義なし。肉とか食べれる内に食べておかないと、今後またいつ食べれるかもわからんしな」



 三人はそれぞれ冷蔵庫の中から透明なビニールのパックに入った物体を取り出し繁々と眺める。



「これ、何?」


「多分、真空パックでござるな…」


「食べれるであります?」


「多分、調理すればいけるでござろう」


「調理って、何?焼くの?」


「チンする、であります?」


「……煮る、でござる?」



「「「………………」」」



 そして、三人はそれぞれパックを凝視して固まった。

 それから各々無言で顔を見合せ頷き合い三人別々に動き出した。



「俺は焼くぜ、肉といったらステーキだ」



 鈴木は牛の一枚肉らしき物が入ったパックを持ち、コンロ前へと向かった。

 コンロにフライパンをセットし強火で豪快に熱し、そしてサラダ油を手に取りフライパンへと注ぎ入れた。

 近くにあった包丁で肉の入ったパックの封を切ると、油がなみなみと注がれたフライパンにその肉を放り入れた。



「ふふふ、小生はチンするであります。この見るからに出来合いのハンバーグはそれで食べられる筈であります」



 佐藤はハンバーグらしき物が入ったパックを持ち、電子レンジの前へと向かった。

 レンジの扉を開け、ビニールパックに入ったハンバーグをそのままダイレクトに放り込む。

 扉を閉め、適当にボタンを押し、迷わずスタートを押した。

 表示された数字は1500W(ワット)で300秒。



「拙者は煮るでござるかな。肉だろうと野菜だろうと全て煮る、でござる」



 山田は鳥の胸肉らしき物が入ったパックを持ち、空いたコンロの前へと向かった。

 家庭にもありそうなサイズの寸胴鍋に水を張り、コンロにセットし火を掛ける。

 近くにあったハサミでパックの封を切ると、中身の鳥胸肉を鍋にそのままぶち込んだ。



「うお、あっつ!油跳ねた!あっぶねー!」


「何かレンジから変な音がしてるであります……」


「やることがないでござる。皿でも用意するでござるかな」



 三者三様、各々好きな材料で適当に調理し始め、そして調理場は直ぐに混沌と化した。



「うお、火柱あがった!なんだこれ!?ははは!すっげー!」


「あれ、何かレンジから変な臭いがしてくるでありますよ……」


「これどれだけ煮ればいいでござるのか…………皆の分の皿も用意しててあげるでござるかな」



 こうして三人の料理は無事に……とはいかないが難とか出来上がった。

 三人は各々の皿を持ち、テーブルへと戻る。

 因みにご飯等は誰も用意していなかったので無い、肉のみである。



「燃え尽きたぜ…………真っ黒にな」


「ビニールが溶けて………ハンバーグと融合したであります……」


「思ってたのと何か違うでござる………」



 そして、各々は厳しい現実を突き付けられていた。

 料理なんて簡単に出来るだろうと素人ながらに考えていて、甘く見ていたのだ。

 三人の目の前には料理と言っていいのか怪しい品々、まさしくアニメ等で出てきそうな程見事な失敗作である。



「取り敢えず……食うか…」


「そうで、ありますな…」


「食べないのも勿体無いでござるし…」



 そして各々はどうしても前向きになれない心に活を入れ、お洒落にナイフとフォークを両手に構え、自身が作った料理へと挑んだ。


 鈴木は真っ黒に焦げた分厚い元ステーキ肉を何とかナイフで切り離し、その切れ端を恐る恐る口へと運ぶ。



「ぐっ、に、苦い……か、硬い……それに思ったよりも中に火が通ってない……んぐぬ、咬み切れない……顎ががが……」



 佐藤はハンバーグの表面を削ぎ落とし、不格好な見た目のミンチの塊をフォークで突き刺し、意を決して口へと運ぶ。



「うぐっ、真っ先に口の中に広がるそこはかとなく有害なカホリ……そして、体に悪そうな苦味と……口に残る溶けたビニール片……」



 山田は漂白したかのような真っ白な見た目の鳥胸肉をナイフとフォークで細かく切り分け、その内の一つをフォークで刺して口へと運ぶ。



「……あじが、味が全くしないでござる……唯ひたすらに、パサパサした何かを、噛んで呑むだけの作業でござる…………」



 そして三人は口の中に入れた物体を難とか呑み込みジュースで一気に流し込むと、か細い声で絞り出すように呟いた。



「「「まずい……」」」




 作った料理が不味い。


 独り暮らしの山田は兎も角、佐藤と鈴木にとって自身の初めての料理が物凄く不味かったのは少なからずの衝撃を二人に与えていた。


 彼等はこれから自分達の力だけで生活していかなければいけない。

 その生活の中でも最も重要な事が"食生活"になるだろう。

 人は生きるためには何かを食べないといけない。

 そして殆どの人は唯食べるだけでは満足できない、美味しい食事でないと人は一日の活力を補充出来ないのだ。


 ただ調理する、それはある程度普通に自立出来ていた人達ならなんて事はないイベントだったのだろう。

 だがこれまで引きニートとして悠々自適に暮らしてきた彼等には調理なんてスキルはない。


 これは彼等に来るべくして来た苦難である。


 これからは嫌が応にも自分で調理した物を食べて生きていかなければならない、それがどれだけ大変な事かを身を以て理解した彼等だった。



「口直しに冷食でも食べよう……」


「しょ、小生も欲しいであります!」


「あ!拙者も!」


「山田のあの白いのはまだ食べれただろ?

 全部食ってたし。だからお前は駄目だ」


「ひ、酷いでござる!な、仲間外れでござるよ!」


「まだ仲間ではないでありますよ?」


「な、なななななななんごふっ」


「「うるさい」」



 五月蝿い奴は即静粛、蹲る山田を尻目に二人はスーパーで手に入れた冷凍食品を手に取り電子レンジへと向かった。



「説明、読む、大事」


「アレンジ、禁止であります」


「基本に忠実が一番でござる」



 いつの間にか復活した山田もちゃっかり冷凍食品を手に二人に加わる。

 三人は袋に書かれた説明を何度も読み直し、忠実に調理(チン)した。


 そして、それらを食べた三人は思わず声を揃えて呟いた。


「うまい……」と。


 この日彼等は調理の難しさと共に、食の有り難みを知り、そしてこんなにも美味しく簡単に作れる冷凍食品を造っている会社に感謝した。

 もうそれらの会社は無いのだけれども。

 


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