三人寄れば…
「……と、言うわけだ」
「そういう訳でありますよ」
鈴木と佐藤は難しい顔でそう締めくくり、手に持つコップをテーブルに置いた。
それを聞いた山田は少々困惑した表情を浮かべ、だけれども強くしっかりと言葉を返す。
「いや、まだテーブルに着いただけで、自己紹介すらまだでござるからな?
そんなんで話が終わったような雰囲気出されても流されないでござるよ?」
「「ちっ」」
「な!露骨に舌打ちしたでござる!?
"何コイツめんどくせーな"みたいな表情はやめるでござるよ!?」
「実際、面倒臭い」
「話が長くなりそうで面倒臭いであります」
「露骨に言ったでござる!?」
まぁそんなこんなで初対面であるおっさん三人の話し合いは和気藹々(ワキアイアイ)としたムードでゆるっと始まった。
決して険悪なムードではないことを明記しておく。
先ず、仕方ないでありますなーと、佐藤が自己紹介をし、鈴木も渋々ながらそれに続いた。
山田も漸くまともに始まったと一安心し、二人の顔を交互に見ながら話し出す。
「拙者は山田十兵衛と申す。
歳は三十三。今は実家の道場を受け継ぎ、代々続く山田流活人剣を後世に残す為に邁進してござる。
残念ながら門下生も跡継ぎもおらぬので、日々唯唯修行に明け暮れる毎日でござるよ」
山田はしれっと見栄を張る。
実際は剣術修行などとうの昔に辞めていて引きニート生活に勤しんでいるのだが、初対面の相手は自身の素性など知らない、言ったもん勝ちである。
ニートは相手に凄いと思われたいのだ。
だが佐藤と鈴木には通じない、二人は山田から醸し出される引きニート臭を初対面で感じ取っていた。
だから山田の自己紹介に感服したりなどしない。
「何それ、自分設定?キャラ造りしてんの?その体格じゃ無理あるぞ?」
「十兵衛って本名であります?名前負けしてるでありますなー」
と結構、辛辣である。
この二人、先程山田に助けてもらった恩など着るつもりはないらしい。
一方の山田はいきなりのこの返しに咄嗟の言葉も出てこない。
内心二人がニートと聞き同じ土俵に立ちたくないと思っていた山田だが、どうやら二人にはすでにバレているようで動揺を隠せない。
数秒の後、ぎこちない笑みを浮かべながら、「本当でござるよ、ははは…」と棒読みで返すのが精一杯だった。
気まずい沈黙が流れ、その居心地の悪さに山田は取り繕ったかのように笑みを浮かべ直し話を変える。
「そういえば、先程の集団は何でござる?
どう見ても普通には見えなかったでござるが…」
その質問に佐藤と鈴木は顔を見合わせ、首を傾げて答える。
「あー、なんだ、ゾンビ?」
「多分、ゾンビ、でありますな」
「ぞ、ぞんび……?」
多分ゾンビである、該当する事は多くある。
だがそれは二人の主観であり、政府や専門家が言っていた訳ではない。
だから二人は曖昧にそう答えた、確かな答えを持っているわけではないのだから。
「小生も外がこうなってたなんて知らなかったであります。
ずっと引きこもっていたので、いつからこうなのかも分からないであります」
「右に同じ、俺も詳しいことは分からん。
ネット上では世界中がゾンビパンデミックと騒がれてたな。
理由も原因も分からんがいつの間にか大半の人間は皆あんな感じだ」
「俄には信じられないでござる…が。
現にああいう存在を見てしまったのだから、信じない訳にはいかないでござるな……」
山田はある程度予想はしていたが、こうして言葉にして他者から言われるとやはり現実として受け入れ難いようだ。
うーむ、と腕を組み、目を瞑り眉間に皺を寄せる。
それに習うように佐藤と鈴木も腕を組み、眉間に皺を寄せて唸る。
先程までと打って変わって重い雰囲気が漂うが、その空気を思いっきりぶった斬るように突如辺りに重低音が鳴り響いた。
ぎゅるるるるるおおお……
三人の腹の虫による三重奏である。
三人は各々腹を抑え、店内に設置されている時計を見やる。
「もう昼か、早いな」
「よく走ったので、お腹空いたであります」
「拙者も昨晩から歩きずくめで、流石にお腹が空き申した」
「山田の発言は取り敢えず置いておいて、先に何か食べるか」
「それがいいであります、先ずは腹拵えであります」
「一応置いておいてくれるのでござるか」
三人は立ち上がると、先に歩き出した鈴木に着いていくように残り二人も歩き出す。
「あー、ファミレスだから何か食べるのあるだろ」
「小生はもうお金ないでありますよ?」
「佐藤殿は真面目でござるなぁ。
もう世界が崩壊しているとすれば、法も秩序もないでござろうに」
「そういうこった。金なんて馬鹿正直に払う必要はねぇよ」
「えぇ!?でもさっき鈴木氏は驕りだって…」
「拙者も話を聞くまでは騙されてたでござるよ……」
「恩に着ってていいぞ」
「NOOOOOOOOuぶふっ」
佐藤の叫びは鈴木と山田の激しい突っ込みにより直ぐに阻止された。
いくら原因は鈴木にあるとはいえ、大声は厳禁、即静粛である。
蹲る佐藤を尻目に、鈴木と山田は何事もなかったかのようにカウンター内へと入っていった。




