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神は言っている…

 


 現在鈴木と佐藤がぐーすか眠っているのは脱出に使う扉の前の通路だ。

 通路は扉から五メートル程伸びていて、幅も二メートル程ある。

 この通路の自動ドア側にはポストが所狭しと並んでいて、そこを過ぎると直ぐに開けたエントランスに出る。


 右側にはインターホンらしい金属盤と自動ドア、左側には長さ八メートル程幅四メートル程の通路があり、その先に両開きの金属製の玄関扉があるのだ。

 因みにポストがある通路の反対側には管理人用の部屋みたいなのがあり窓口もあるのだが現在は閉まっているようだ。


 これだけの広さしかない、走ればすぐに扉まで辿り着く。

 それはゾンビにも言えること、勝負は一分と掛からないだろう。

 掴まれば確実に殺される、それに作戦が思うように上手くいかなければエントランスも通りもゾンビで塞がれ逃げ場すら失う。


 今まで生きてきた中でも一番の賭けになるだろう作戦を前に、それなのに二人は気持ち良さそうに爆睡していた。


 イビキをかき、涎を垂らし、色々と残念な表情を晒して眠っている。

 だがそんな呑気な二人の至福の時間も窓から射し込んでくる朝日によって終わりを告げる。



「ん……もう、朝か……朝に普通に起きるとかどれだけ振りか…………」


「んあう……おはよう、であります……」



 もぞもぞと起き出す二人、寝惚けながらも昨日のうちに出しておいた残りの菓子パンをジュースで流し込み、身仕度を整える。



「今のうちに荷物類は外に出しておくでありますよ」


「お、おう、頼む……」



 先に覚醒した佐藤が非常用扉を慎重に開け、ゾンビがいないことを確認してから、自分達の荷物を外に纏めて出していく。

 鈴木も遅ればせながら目をきちんと覚ますと、通路から顔だけを覗かせ玄関扉前の状況を確認する。



「ふむ、大分ゾンビも疎らになってるな。玄関扉の直ぐ近くにはゾンビの姿もないし、やるなら今のうちか……」



 そこで荷物を出し終わった佐藤も合流した。

 二人は顔を見合わせて、最後の確認を取り合う。



「準備はいいか?」


「大丈夫であります」



 やる気をみなぎらせる佐藤、その手は強く握り締められている。

 一方の鈴木は若干キョドり気味だ、手汗の量が半端ないのか忙しなくズボンで拭っている。



「す、素手で大丈夫か?」


「ここにあるであります!」



 状況確認に余念のない鈴木の質問に、佐藤は腰のベルトに刺さっている金槌とバールを見せる。

「そんな装備で大丈夫か?」と心配する鈴木だが、佐藤の「大丈夫、問題ないであります!」と言う自信満々の様子に、何故だか言い知れぬ不安が過る。



「まぁ、本人がいいのなら……」


「大丈夫大丈夫、モウマンタイであります。

 それじゃ行くでありますよ」



 と鈴木の心配を余所に佐藤は気負うことなく玄関扉の前へと移動を開始した。

 鈴木もそれに合わせてウエストポーチから出しておいたスリングショットと、ステンレス製の金属弾を構えて静かに事の行く末を見守る。


 現在は一番近いゾンビで大体六、七メートル程離れている。

 下手に音をたてないように忍び足で近付いた佐藤は、ゆっくりと慎重に鍵を開け始める。


 ガチャ……


 鍵を開ける小さな音がやたらと辺りに響く。

 ゴクリと生唾を呑み込みじっと動かずにゾンビの様子を伺う佐藤。


 一瞬ゾンビが反応したように見えたが、気のせいだったようで特に動きはない。

 それ以降も目立った動きもなく、二つ目、三つ目の鍵も難なく開けることに成功した。


 佐藤は玄関扉の取っ手を両手で握り静かに引っ張り、やたら重い扉の片方を開いた。

 そしてもう片方も開けようとしている時にそれは起こった。


 扉を開く際、やたらと重いため力を入れるよう腰を少し落とした佐藤の太腿が、腰に差していたバールを押し上げたのだ。



 あっ……という鈴木の声が後方から聞こえた後、佐藤の足元からガチャン!と金属が石を打つような音が鳴り響く。


 そこで佐藤も、あっ……と声を漏らして自身の足元を見た。

 足元に転がるバールが目に入り、そこから視線を上げると、近くのゾンビと目があった。



「お、おい!何やってる!逃げろ!!」



 焦ったような鈴木の声に、漸く現状を理解できた佐藤は急いで扉を開き終わると後退り、そして先程落としたバールを踏んでしまう。



「あうっ」


「なっ!ばかっ!!」


 バランスを崩しお尻から倒れ込む佐藤、それとほぼ同時にゾンビが動き出す。


 佐藤は酷く慌てていて立ち上がることも出来ずにお尻で後退るが、ゾンビは直ぐに佐藤の所に到達し勢いのまま覆い被さってきた。


 目前に迫る腐った中年男性の顔に、佐藤は短い悲鳴をあげながら咄嗟に手に当たった物を握り、突き出した。


 手に握ったのは先程落としたバール。三十センチ程しかないバールが佐藤を襲うゾンビの口の中へと突き刺さっていた。

 後数センチ程で佐藤の拳に届くくらいゾンビの顔は迫っており、その分だけバールは奥へと突き刺さっている。


 だが、それだけ。

 ただそれ以上の接近を止めただけで、そのゾンビは死んでいなかった。



 それでも佐藤を食べようと口を動かし、口に突き刺さっているバールをカチカチと噛む。

 ゾンビの涎がバールを伝い、佐藤の拳を濡らす。



 きゃ、きゃぁああぁああぁぁあああぁぁあああ!



 その生暖かく臭い粘液の感触に、佐藤は思わず乙女のような悲鳴を上げた。

 そのやたら甲高い悲鳴は辺り一帯に響き渡り、外にいたゾンビを更に誘い集める。

 佐藤は集まって来るゾンビを視界の隅に捉えながらも、一心不乱にバールを突き出すが、ゾンビの涎で握りが滑り思うように力も入らない。


 もうだめだ、食われると内心諦め掛けた時、後方より勇ましい声が上がった。



「必殺!鉛星!!」



 それと同時に佐藤の眼前に迫っていたゾンビの頭が鈍い音を響かせながら軽く後方に流れ、そのまま佐藤の体の横へと倒れ込んだ。

 佐藤は何が起きたのか状況を理解できず、呆然と倒れ伏すゾンビを見た。

 そして何と無く見やったその額の真ん中に、二センチ程の窪みが出来ており、その中に鈍く光る金属製の丸い玉が埋め込まれていた。

 ゾンビはピクリとも動かない。



「え、助かった、であります……?」



 それでも未だ状況を理解できずにいると、自身に迫っていた他のゾンビも同様に頭を後方に流しながら倒れていくのが見えた。


 そこで漸く状況を理解し後方を振り返れば、そこにはやたらカッコいいポーズでスリングショットを放つ鈴木の姿があった。



「す、鈴木、氏!」


「鉛星!鉛星!!なーまりぼしっ!

 大丈夫なら!早く!逃げろ馬鹿!!鉛星!」



 次々にステンレス弾を撃ち放つ鈴木の勇姿に、佐藤は身を震わす程の興奮を覚え、感極まって叫び声をあげた!



「うおぉぉおお!鈴木氏かっけぇえええであります!!

 あ、その技知ってるであります!最近流行ってる海賊の「あああああ!!いいから先に!その場から離れろ!」


「因みにそれはステンレス製なので、鉛星では「いいから黙って!起って!動けや!ボケェエ!!」



 興奮覚めやらない様子の佐藤はいそいそと立ち上がると鈴木の隣まで移動し、腰の金槌を取り出すとそれを振り回しながら雄叫びを上げた。



「ヒャッハーーッ!掛かって来いであります!

 この鈴木氏が相手になるでありますよ!!」


「お、お前じゃねぇのかよ!」


「ぬはははははは!」



 そんな言い合いをしながらも二人は後退る。

 迫るゾンビを鈴木が撃ち倒し、佐藤は手に持った金槌をガンガンと壁やらポストやらに打ち付けながら騒ぎ立ててゾンビを集める。


 辺り一帯のゾンビが騒ぎを聞き付けてわらわらとマンション内に入り込んでくる。

 倒れ付したゾンビを上手く踏み越えて来る奴もいれば、そこで(ツマズ)き倒れて他のゾンビを捲き込みながらゾンビの群れに呑み込まれていく奴もいる。

 狭い通路ではお互いがお互いを邪魔しあい、後ろからどんどん押され、詰め込まれてぎゅうぎゅうになり、身動きがとれずに動きが遅くなっている。


 そんな様子を横目に、若干余裕を取り戻した二人は危なげ無く扉から外へと出た。

 一応の為ドアノブを強く握り締め何かの拍子に回らないようにし、二人係りでドアを抑える。


 一分が過ぎ、五分が過ぎ、十分が過ぎた頃、何も起きないと知ると、二人はどちらともなく力を抜き、その場にへたり込んだ。


 ドアを背もたれに座り込んだ二人は、そこから通りの方を見、昨日までゾンビに埋め尽くされていたそこに何も居ないことを確認し、漸く作戦の成功を実感したのだった。




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