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マンションからの脱出作戦、その弐。

 


 駐輪場へと続く扉……非常用扉の近くで座り込んだ二人は一応の警戒も含めて小さい声での話し合いを始めた。

 見るからに知性がなさそうなゾンビではあるが、念の為である。



「此処から出るのはいいとして、どうするでありますか?

 此処から出たとこの道もゾンビで一杯でありますよ」



「そ、それを考えるんだよ……。

 幸いゾンビには弱点が一杯ある、そこを突く……」



「例えば……?」



「……一つ、あいつらは動きが遅い。

 二つ、あいつらは物音に反応する。

 三つ、あいつらは殆ど目が見えてない。

 四つ、あいつらは知能がない。

 ……どうだ?考え付くだけでもこれだけある、楽勝ゾンビだろ」




 自分で考える気が皆無である佐藤が右に左にと首を傾げながら鈴木に質問を繰り返す。

 そんな佐藤に対し鈴木は自身の指を一本ずつ折り曲げながら律儀に返答する、ぶっきらぼうであるが意外と面倒見がいいらしい。



「確かに楽勝ゾンビであります」


「だろ、だから作戦はシンプルかつ大胆不敵に行く」


「え?も、もう考えたでありますか?

 ど、どんなやつでありますか……?」



 ニヒルに片方の広角を上げてドヤる鈴木に、佐藤も素直に尊敬の眼差しを向ける。

 十分な溜めを取り、某大物司会者ばりに勿体振って鈴木は作戦名を上げた。



「………………」


「どきどき……」


「………………作戦名は……」


「どきどき……」


「………………」


「………………」


「音で囮でお取り寄せ!佐藤博ドタバタ大作戦!です!」


「…おぉ……お?………ちょっと待つであります。

 指摘しなければいけない単語が数点ほど聞こえたであります」


「どんどんどんどんぱふーぱふーっ!」


「いや、勢いでは流されないでありますよ?」


「ちっ…………そこまでお馬鹿じゃないようだな」



 鈴木のテンションの高い発表で、その勢いに乗せられ歓声をあげようとした佐藤だが直ぐにその作戦名に疑問を感じた。

 鈴木のらしくない高いテンションは罠だったようだ、それに気付かれたことに鈴木は小さく舌打ちし、聞こえないように毒を吐いた。



「まず囮という不穏な単語、それに作戦名に小生の名前が入ってるのはどう考えてもおかしいであります!」



 (モット)もな疑問である。佐藤は鼻の穴を膨らませながら身を乗り出して鈴木に詰め寄る。

 だが指摘された鈴木は至って冷静に、穏和な笑顔を浮かべ、落ち着いた優しい声音(コワネ)で佐藤に語りかける。

 説き伏せる気満々である。



「まぁまぁ、まずは落ち着いて下さい。

 まだ作戦名を言っただけです。

 怒るのは内容を聞いてからでも遅くはない筈です」


「む、確かに、であります………………で、なんで急に敬語であります?」


「それでは作戦内容ですが」


「そこはスルーなのでありますね……」


「…………にこにこ」



 鈴木の能面のような張り付けられた笑顔に、佐藤はそれ以上の言及をやめ、大人しく話を聞くことにした。

 一応鈴木の胡散臭い笑顔に警戒心を抱きながら。



「作戦内容は簡潔に言えば、このマンションにゾンビを誘い入れ、私達は扉から外へ、手薄になった通りに出て後は臨機応変に脱出となります」


「ふむふむ」


「それにはまず、ゾンビに気付かれないように玄関扉の鍵を開ける必要があります。

 私はこのスリングショットでゾンビが襲い掛かってきても対処出来るように警戒しておきますので、開けるのは佐藤さんにお任せします」


「ふ?……ふむふむ?」


「次に、佐藤さんは気付かれないようにゆっくり静かに後退してもらい、私もそれに合わせて援護できる射線を取りつつ扉近くまで移動します。

 移動が終わると佐藤さんには物音を立ててもらいゾンビをマンション内に誘ってもらいます、これは出来るだけ派手に五月蝿くお願いします」


「ふ、ふむふむ」


「それに合わせて"私"が扉を開けて外への脱出口の準備をしますので、佐藤さんはなるべくゾンビを惹き付けつつ扉まで逃げてきて下さい。

 その際"私が"佐藤さんにゾンビが近付きすぎないように守りますのでご安心を」


「……ふむふむ」


「後は"私が"佐藤さんに近付くゾンビをスリングショットで牽制しつつ、佐藤さんが通ったタイミングで"私が"扉を閉めます。

 ゾンビは一匹たりとも通しません、任せて下さい」


「ふ、ふむ、な、なるほど、であります」



 と、最後は何と無く悪くない作戦だと思ってしまった佐藤。

 守ってもらえるなら問題はないだろうと。


 だが此処で鈴木から語られた作戦内容を要約すると……


 一、鈴木は見守ってるので、佐藤が玄関扉の鍵をこっそり開ける。


 二、鈴木は見守ってるので、佐藤が物音を立ててゾンビを誘い込む。


 三、鈴木は先に扉を開けて待ってるので、佐藤は物音をたてながらゾンビを出来るだけ引き連れて扉まで逃げてくる。


 四、佐藤が出たら鈴木が扉を閉める。


 である。

 完全に鈴木の思う壺であった。

 だが、佐藤に異論はないみたいなので作戦はこのまま修正を加える事なく認可された。



「もう夕方ですぐに暗くなるだろうから作戦は明日の明朝に開始ということで。

 それまではしっかり寝て英気を養おう」


「了解でありまーす」



 こうして穴だらけの作戦は決まった。

 後は決行あるのみである。


 


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