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マンションからの脱出作戦、その壱

 



「これより、作戦会議を始める」



 鈴木は徐にその場に座ると、真剣な表情で唐突にそう宣言した。

 この男、先程までの痴態を無かった事にしたらしい。


 その変わり身の早さに佐藤は"この人面白い"と瞬時に感じとり、早速鈴木を弄る事にした。



「此処でお別れでは?」


「これより、作戦会議を始める」


「お前はお前で勝手に生きろ?」


「……これより、作戦会議を始める」


「死ぬな「シャラーーーップ!!」



 突然大声をあげて佐藤の言葉に被せる鈴木、その言葉は言わせたくないらしい。

 それに反応して玄関扉にゾンビが体当たりするが、二人は普通に見向きもしない。


 鼻の穴を膨らませながらキッと佐藤を睨み付ける鈴木の瞳は"これ以上の言及は許さない"と暗に物語っており、佐藤もある程度楽しめたのでこれ以上弄るのをやめた。


 取り敢えず話を合わせることにして、会話を進めることにする。



「と、いうでありますと?」


「ま、先ずはお互いの自己紹介と情報交換。

 それに持ち物の確認と、こ、このマンションからの脱出作戦の立案だ」



 漸く話が逸れたことに満足そうに頷いた鈴木は、此れからの事を話し合いたいらしい、佐藤も異論はない。



「そうでありますな。お互いの事を知るのはこんな状況であっても大事な事でありますし、色んな情報は生存に必要不可欠であります」


「そう言うこと。

 そ、それじゃ、先ずは俺からいこうか。

 んっん………お、俺は鈴木一(スズキハジメ)、……四四歳…………ニートだ」



「ふむふむ、歳上でありましたかー、若く見えるでありますな、頭以外は!

 ……ごほんっ、んでは!

 小生は佐藤博(サトウヒロシ)であります!

 歳は多分三十七、職業は同じくニートであります!

 あ、先程は助けてもらって感謝感謝でありますよ!」



 こういう事に慣れていない鈴木は若干噛みながらも自己紹介をする、最後の方は恥ずかしいのか尻すぼみだ。

 それに対し満面の笑みで元気に返す佐藤、"頭以外は"と堂々と言えるあたりコミュ力は高くないみたいだ。

 幸い久し振りのちゃんとした会話に一杯一杯である鈴木は、聞こえててもしっかり認識出来てなかったみたいでスルーである。

 因みにお互いのニート発言も華麗にスルーである。



「お、おう、気にするな、き、気紛れで助けただけだ。

 …………よ、よし。そ、それじゃ次はゾンビに対しての情報交換をしておこう。

 た、例えば、あいつらは目が殆ど見えていないとか。

 音に反応する、とか?」


「つんでれ(ぼそ)……。

 ふむふむ、確かに音に反応してたでありますなー!

 目が見えてないってのは初耳であります、確かにあの眼では見えてなさそうであります!

 んー、小生が確認したことといえば…………ふむ……頭を叩いたら動かなくなった、でありますな……」


「お、おまえ……いや、こんな状況だ、仕方ない事も、ある。

 し、しかしいい情報だ、やはりセオリー通り頭部が弱点で間違いないか」


「み、みたいでありますな!

 あ、後は後方から近づいたでありますが、五メートル程近付いたら気付かれたであります。

 音は出してなかったので、何か他の方法で気付かれたと思うでありますよ」



「ま、まじか……異常に聴覚がいいのか、はたまた嗅覚か、他の謎器官の可能性もあるな……。

 つか、お、お前は中々アグレッシブだな……」



 と、二人の話し合いは思いの外順調に進んでいく。

 そのままわいわい話し合いながら流れは荷物の確認に移り、お互いの所持武器やスーパーマーケットで手に入れた食材を見せ合っていく。



「お、お前は近接主体か……ど、度胸あるなぁ」


「おー、パチンコ!カッコいいであります!」




 ━━━━━━…………




「お、お前は馬鹿か!な、生肉とかすぐに完全に腐るぞ!早く冷凍しないと!」


「鈴木氏こそ!冷凍食品が既に溶けてきてるでありますよ!

 それじゃ冷凍しなおしても日持ちしないし、美味しくなくなるであります!」




 ━━━━━━…………

 



「はぁー?!お前は分かっていない!

 至高はケンプファーだろ、常識!

 あのフォルム!あの武装!最高だろ!」


「確かにケンプファーもいいでありますが!ここはデンドロビウムを推すであります!あの機体には何者も勝てないであります。あれはロマンの塊でありますので!」




 ━━━━━━…………




 中々白熱した会話が繰り広げられる中、突然鳴り響いたお互いのお腹の音により会話は一時中断となった。



「……取り敢えず、何か食うか……。

 直ぐに食べれるやつあるか……?」



「そうでありますな……ここは一時休戦であります。

 ふむ…………お菓子と菓子パン、それにジュースがあるでありますよ。はい、どうぞであります」



「さ、さんきゅ」



 途中から話が脱線して全く関係ないことを言い合ってた二人は黙々と腹ごしらえをしながら漸く冷静になった。

 そして、肝心の脱出計画が全く進行していない事実に気付く。



「あー、どうやって此処から出るか……もぐもぐ」


「んー。自動ドアを壊して、中に入らないでありますか?……むしゃむしゃ」


「あー、それは、何と無くだがやりたくないというか……一応自宅でもあるわけだし……もぐもぐ」


「んー、何と無く言いたいことはわかるであります。

 壊したらもう元には戻せないでありますしね……むしゃむしゃ」


「そうそう……やるとしたら最終手段。

 ……あー、どうするか……もぐもぐ」


「んー、どうするでありますか……玄関前にはまだ大量のゾンビがいるでありますよ……むしゃむしゃ」


「あー、お前どうにかしてくれよ……ごくごく」


「んー、無理であります……ぐびぐび」



 ぷはぁ…………げぷっ



 ━━━━━━…………




 先程まで白熱した会話を繰り広げていたのが嘘であるかのように、盛り上がらない会話が続けられる。

 そして、何気なしに視線をさ迷わせていた二人はある物に気付いた。



「あー、あの扉なんだ」


「んー、位置的に外に繋がってそうでありますが……」



 二人の視線の先、小さなロッカーのような棚が並ぶその先。

 奥まった所にひっそりとある金属製のシンプルな一枚扉。

 二人は無言でアイコンタクトを交わすと立ち上がり、静かにその扉に近付いていった。



「………………」



 鈴木が佐藤に更なるアイコンタクトを送る。

 だが佐藤はわからなかったのか首を傾げた。

 今度は分かりやすいように、鈴木は顎をしゃくって扉を示す。

 今度こそ理解出来た佐藤は、一応鈴木が歳上なのもあり渋々ながらも従う。金属製のドアの丸いドアノブをゆっくりと握り静かに力を込めた。


 微かな抵抗はあれど、問題なく回るドアノブ、鍵は掛かってないようだ。

 二人の視線が交差する、鈴木は無言で顎をしゃくる。

 佐藤は一瞬嫌そうな表情を浮かべるも、どっち道自分がやることになるだろうと仕方なく割り切り、ドアに対してゆっくりと体重を掛けた。



 隙間が空き、そこから冷たい風が流れ込む。

 その空いた隙間から見えたのは自転車だった、辺りにはゾンビの姿は見受けられない。

 そこで佐藤はもう少し体重を預け扉を開く、安全そうだったので鈴木も顔を覗かせる。


 完全に開いた扉からは駐輪場が見え、その横には駐車場、そしてその奥に通りが見え、そこには大量のゾンビの姿もあった。



「玄関前の通りに繋がってるのか……」


「でも、どうにかすれば此処から出れそうでありますね」



 短く言葉を交わした二人はそっと扉を締め、お互いを見合う。



「よ、よし。ここからの脱出を主体とした計画を立てるぞ」


「意義なし!であります」



 力強く頷き合う佐藤と鈴木。


 こうして二人のマンション脱出計画は漸く動き始めるのであった。






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