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更なる喜……悲劇。

 


 暫く貪るように深呼吸を繰り返し呼吸を整えた二人は、ゾンビが群がる扉を背に漸くお互いの顔を認識しあった。



(うあ……典型的なザ引きニート、眼鏡でデブでオタクなおっさんとか、需要ないだろ。後、汗かきすぎ、眼鏡曇りすぎ、服パッツンパッツンしすぎ……マジワロス)



(ふむー、そこら辺にいそうな普通の小さいおっさんでありますな。ぶふふ、帽子を何処かに落としてきたみたいでありますが、見事に荒れ果てた大地が剥き出しになってるでありますぞ…)



 と、お互いの評価は中々のようだ。

 暫く無言で観察しあった二人だが、言いたいことがあるのか不服そうな表情でチビハゲの鈴木の方が先に声を掛けた。



「お、おい、助けてやったのにゾンビトレインしてくるとか、どういう了見だ。危うく死にかけただろ」



 それに対し眼鏡デブの佐藤は本当に申し訳なさそうに肩を落として返答する。



「う、その節は本当にすまなかったであります……。久方ぶりのスーパーマーケットに少々浮かれてたみたいであります……。反省するであります……」



 ゾンビに追い掛けられた鬱憤を晴らそうと身構えていた鈴木だが、佐藤が醸し出す叱られてる犬のようなシュンとした雰囲気に、流石の鈴木もそれ以上追求する気が起きなかったようだ。


 ムムムと唸った後、ただ「もうやるなよ」と小さく呟き、話を切るように立ち上がった。


 袋を手に持ち移動しようとする鈴木を、佐藤の視線が追う。

 それに気付いた鈴木は佐藤のほうを向くこともせず、少しぶっきらぼうに言い放った。



「此処でお別れだ、俺は家に帰る。

 お前はお前で勝手に生きろ……………………死ぬなよ」



 少し格好つけすぎたと自覚している鈴木は頬を赤く染めながら、それを悟られないように歩き出した。


 佐藤の視線を背中に感じながら、鈴木は閉じられた自動ドアの前まで来ると立ち止まる。




 ………………………。




 自動ドアが反応しない。


 鈴木は少し体を動かして、自動ドアを開けようとする。




 ………………………。




 だが自動ドアは反応しない。


 鈴木は両手の荷物を地面に置いて、両手を振って自動ドアにアピールした。




 …………………………。




 それでも自動ドアは反応しない。


 折角カッコつけて去ろうとして、それに失敗した鈴木はどうしていいか分からず混乱した。

 そして取り敢えず自動ドアに八つ当たりした。



「おまっ!ふざけんな!開けろよ!あくしろよ!ふざけんな!コラ!ふざけんな!おまっ!」



 と、自動ドアにガンガン蹴りを入れながら語彙の乏しい言葉を吐きかける。


 後ろからその様を見ていた佐藤は流石に居たたまれなくなったのか、立ち上がり鈴木の側に寄って声を掛けた。



「あ、あの、これで開けるんじゃないでありますか?」



 と、佐藤が指差したのは自動ドアの隣に設置されている金属盤。

 電卓のように数字や記号が書かれているボタンが並んでいたり、鍵穴やスピーカーのような穴まで空いている。



 指摘されたことに、ムッと佐藤を睨む鈴木だが、直ぐに金属盤に視線を移して暫く悩み、そして小さく呟いた。



「こ、これは何だ」



 自身の無知さに少々頬を赤らめつつも佐藤へ問い掛ける。

 その質問に腕を組み、首を傾げながら佐藤も自信なさげに答える。



「んー……見た感じ……電話?であります?」



「で、でんわ……」



 電話という単語に少々尻込みする鈴木、若干腰が引けつつもその金属盤を観察しだした。

 鈴木がそんな行動を取っている間、佐藤はポケットから出した自身の携帯電話(ガラケー)に何かを打ち込んでいた。

 暫くそのまま携帯をいじり、そして「あ、ありましたぞ」と声を上げた。

 どうやらこの金属盤をどうにか調べていたらしい、その言葉に鈴木も佐藤を注目した。



「これはインターホンみたいでありますな!

 Wikipediaによると、来訪者がエントランス(共同玄関)に設置された玄関インターホンから訪問したい住戸を呼び出し、居住者は住戸側のインターホンの操作で電気錠を遠隔開錠する。

 居住者は各戸の鍵または相当物により開錠、入館できる。

 建物から外に出る場合は、押しボタンや自動ドアのセンサーなどにより開錠できる。

 出入りが済みドアが閉じると、自動的に施錠される。

 と、あるであります!」



 と早口でWikipediaを読み上げる佐藤。

 言われたことに理解が追い付かなかった鈴木は首を傾げた。



「……要約すると?」



「出るのは自由、出たら自動ドアが閉まる。

 入るにはカギ持参か、用がある部屋の住民に呼び掛けて遠隔で開けてもらう必要があるみたいであります」



 その判りやすい説明に、鈴木は何か思うところがあったのか分かりやすく絶望の表情を浮かべ、地面に両手両膝をついてorz(オーアールゼット)した。


 その光景に、粗方察しがついた佐藤だが、一応確認のつもりで鈴木に問いかけた。



「つまり、カギがない…………でありますか?」



 鈴木は自身の肩に優しく置かれた手を払いのけ、静かに立ち上がると、徐に叫び声を上げた。



「くぅぅろぉぉさぁぁきぃいいいぃいいいぃい!!!」



 鈴木はなかまをよんだ。


 しかしだれもあらわれなかった。




 鈴木の魂の叫びはエントランスに虚しく木霊し、その背中には佐藤の哀れみの視線が向けられる。

 玄関扉の前では大人しくしていたゾンビが鈴木の叫びに反応して無駄な体当たりを再開した。



 こうして鈴木は帰る家を失った。



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