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交わるニートと物語。

 



「ふぅ……ふぅ…………失敗した……ひふぅ……欲張り、過ぎた……はふぅ」



 鈴木は両手の袋を一旦地面に置くと建物に背中を預け、左手で帽子を外し、右手の袖で額から溢れ出る汗を何度も拭った。


 今現在、鈴木はスーパーマーケットからの帰路、大通り手前の道程まで来ていた。

 当初考えていた以上に荷物の重さが仇となっており、行きの倍以上の時間を掛けて漸くここまで戻ってきたのだ。



「ふぅ……サイレンとあのアホのお陰で、ここいら一帯のゾンビがいないのがせめてもの救いか……………あ、これなんか行きにも同じような事言った気がする………まぁどうでもいいか…………ふぅ…………」



 深呼吸を繰り返し息を整えつつ、鈴木は建物の陰から顔を覗かせ大通りを探る。

 そこには行きの時と変わらずサイレンに群がるゾンビの群れの姿があった。



「ちっ……やっぱりまだ居やがるか……。

 だが、ここを抜ければ家までもう半分。

 注目がサイレンに向いているうちに一気に抜けてしまおう」



 よし、と気合いを入れ袋を手に持つと、辺りを警戒しつつ大通りをこそこそと横断し始める。

 無秩序に停められている自動車の陰に隠れつつ、物音をたてないように移動する。

 そして、丁度大通りの中心を通り過ぎようとしている段階で、鈴木はある異変に気が付いた。



 ガラガラガラガラガラ……



 と、何処か聞き覚えがあるような雑音が後方から聞こえてきたのだ。



「お~~いっ、そこにいるのは先程の小さいおっさんでありますか~??お~~いっこっちですぞー、こっちーっ」



 そして誰かは判らないがある程度予想がつく男物の大声も。

 鈴木は内心とても嫌な予感がし、後ろを振り向くのを躊躇(タメラ)った、幻聴かもしれないし。

 だがその雑音と大声は確かに聞こえており、尚且つ段々と近付いてきているのだ。



 これが幻聴ではないと確信した鈴木は、仕方なく、本当に仕方なく後方へと振り返り、そして嫌な予感が的中した事に思わず天を仰いだ。



 そこには満面の笑みで手を振りながらカートを押して近付いてくる先程のアホ、もとい佐藤の姿があった。


 鈴木はその男の余りの警戒心のなさに呆気にとられるも、直ぐに静かにしろと注意しようと男を睨み付け、そして自身の目を疑った。


 良く見れば、男の後方に山のような人影が(ウカガ)える。

 更に良く見れば、老若男女多種多様な人達だということが(ウカガ)える。

 更に更に良く見れば、普通にゾンビだった。


 それは住宅街をガラガラと音をたてながら歩き回った佐藤が気付かない内に集めたゾンビの大群だった。



「ちょ、お、お前、マジふざけんな!」



 それに気付いた鈴木はすぐに脱兎の如く駆け出した、勿論逃げる為に。



「え?なんであります!?何故逃げるでありますか!?

 …………って、ぴぇえええ!?

 何で後ろにこんなにもゾンビー!?

 ちょ!ちょっと、待ってでありますぞー!!」



 佐藤は鈴木が自分の方を見ながら逃げる事に疑問を抱き、何と無く気になって後ろをチラ見し、そして奇声を上げた。

 そこには自身のすぐ後ろを追いかけてくるゾンビの大群、その存在に佐藤は今まで気付いていなかった。

 ガラガラと五月蝿いカートの音が辺りのゾンビを集めつつ、忍び寄る足音を掻き消していたのだ。


 取り敢えず状況を理解した佐藤は、急いで鈴木の背中を追い掛けた。



 沢山の荷物を抱えた鈴木は、そんなに早く走れないながらも懸命に走り大通りを渡り終える。

 後はサイレンに集まるゾンビの群れに見付からないように自身のマンションがある通りに入り込むだけ。


 鈴木は後ろから大きな音をたてながら近付いてくる佐藤との距離がまだあることを確認しつつ、ここだけは慎重に抜けようと警戒を強め忍び足で歩を進める。



 だが、そこで更なる悲劇が鈴木を襲った。




「おいおいおいおい、嘘だろ、おい。

 何で今なんだよ……」




 思わず呟いた鈴木の声が静かに辺りに響く。


 マンションのある通りの角まで残り十メートルもないといった所で、そんなタイミングで辺りに鳴り響いていたサイレンの音が唐突に消えたのだ。



 突如消えたサイレンの音、静かになった辺りに小さく響く鈴木の声と、後方より聞こえるガラガラ。


 先程までサイレンの音に集まっていたゾンビ達が、一斉に鈴木の方へと振り向いた。



「マジ、勘弁……」



 思わず少しチビってしまった鈴木を、誰が責める事が出来ようか。

 数百に及ぶゾンビの視線に晒され、腰が抜けなかっただけでも大したものだろう。


 思わず茫然自失となり足が止まる鈴木、そこで鈴木の背後へと佐藤が追い付いた。

 鈴木の肩に手をやり、揺らしながら焦ったように声を掛ける。



「な、何をしてるでありますか!?は、早く!逃げるでありますよ!!」



 その佐藤の大きな声に鈴木は勿論の事、ゾンビの大群も反応し、二人に向かって一斉に移動を開始した。




 その差し迫る光景に鈴木は直ぐ様意識を戻すと、深く考えるより先に体が動き出しマンションの通りに向かって駆け出した。

 前方のゾンビまでは三十メートル程、ゾンビに詰められるより先に曲がり角に辿り着けるとの判断だ。


 鈴木の後ろでは佐藤が奇声を上げながらそれに追従し出す。

 その事に鈴木は直ぐ様突っ込んだ。



「お、おまっ、こっちくんなしっ!

 そのガラガラ押して、あっちに帰れよ!」


「だ、だって、家までの、道が、分からないで、ありますし!ふひ!いつの間にか!後ろにも!ゾンビがいるで、ありますしー!」


「ちっ!」



 佐藤の返答に鈴木は思わず舌打ちで返す。

 今は争っている暇すら惜しいと、それ以上の問答を止めて走ることに集中した。

 両手に荷物をぶら下げながら走る鈴木は、なんとかゾンビが来る前に勢いのまま角を曲がる。

 そしてそれに追従するようにカートをガラガラと押して走る佐藤もドリフトでもするかのように曲がりきった。


 その後直ぐに通りの左右の角からゾンビが雪崩れ込んでくる。


 ゾンビの足は腐っているせいかすこぶる遅い。

 しかし、大荷物を抱える鈴木や運動不足で運動音痴な佐藤も同じように遅かった。

 僅差で鈴木達二人の方が早いといったぐらい、それでもその僅差が二人の命を繋いでいた。


 前方にチラホラいたゾンビ達を勢いでスルーしつつ全力疾走する二人は、息も絶え絶え、既に限界に近い脚をもつらせつつも、なんとかマンションに辿り着いた。


 鈴木がマンションの玄関扉を押して入ると、その隙間に捩じ込むように佐藤がカートを押し入れて追従する。


 そして二人は直ぐ様その玄関扉に張り付くと、急いで中央についている鍵を掛け、その上と下に付いていた鍵も掛け、両開きの扉をそれぞれ倒れ込むように押さえ付けた。


 瞬間、それとほぼ同時に大量のゾンビが扉へとぶち当たり弾き飛ばされていく。


 金属製の重厚な造りの扉は思った以上に頑丈に出来ているようで、腐った人間が体当たりしたくらいじゃびくともしないようだ。



 ゾンビの群れが体当たりをしては弾き飛ばされる様子を扉に嵌め込まれた小さなガラス越しに確認した二人は、漸く安全になったと、此れで安心出来ると、崩れ落ちるようにその場へと座り込んだ。




 


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