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鈴木、初スニーキング。

 


 玄関扉から出た鈴木の数メートル眼前には二車線の道路、その更に向かいに並ぶマンションやビル等の建物の前をチラホラとゾンビらしき人影が佇んでるのが見えた。


 向こうがまだこちらに気付いていないのに少しの安堵を抱きつつ、鈴木は近くの街路樹に身を寄せ隠れるようにしつつ辺りの様子を注意深く観察した。



 自身が出てきたマンションの左右の歩道には見渡す限りにはゾンビの姿が見当たらず、向かいの歩道にはスーツ姿の人影や奥様っぽい服装の人影等が伺える。



「近いやつで十メートル程……これぐらいの距離なら見付からないのか……?

 こちらを向いていたゾンビも居たし、視覚に頼ってるわけではないのか……?」



 と、注意深くゾンビの動きを観察している鈴木は(オモムロ)に足元に落ちていた石ころを拾い上げると、其をスリングショットで撃ち放った。


 放たれた石は向かいの建物の一階の窓ガラスを撃ち抜き、盛大に甲高い音を響かせ割れ落ちる。

 すると辺りにいたゾンビ達がわらわらとその音の発生源へと向けて移動を始めた。



「ビンゴ……やはり聴覚は残っているのか」



 ふらふらと歩くゾンビ達を横目に、鈴木は出来るだけ目立たないように目的地への移動を開始する。

 目指すは先程地図に出したスーパーマーケット。

 鈴木のマンションから右方向に進み高級住宅地を抜け、更に大通りを通りすぎたその先にある。

 徒歩で大体四、五十分といった所だ。



「ふむ、やはり十メートルそこそこでは視界に入っても襲ってこないみたいだ……動きも遅いし、楽勝ゾンビだな」



 と、一応ゾンビから出来るだけ距離をとってこそこそ移動する鈴木は辺りに注意しつつ、更なる思考を巡らせる。



「眼球が白濁してたり飛び出してたりしてたから、視覚は殆ど機能してないみたいだ。

 ふむ……後は聴覚がどれだけ機能しているのか……それに嗅覚やその他の機能についても要検証だ。流石に人型のやつにピット器官とかはないだろうが、未知の生物だけに謎機能があっても可笑しくないしな」



 そしてゾンビに襲われる事態になることもなく歩を進めていた鈴木だが、大通りに近付くにつれ聴こえてくるある音に警戒心を強めた。



「これは……サイレンの音……?パトカーか?それとも救急車?……わからん。百聞は一見にしかず」



 鈴木は素早く建物沿いに移動し、大通りに面した建物に背中を預け、そこから顔だけを覗かせる。

 そしてそこに見える光景に、思わず固唾を呑んだ。



 大通りに乱雑に停められた数々の自動車。

 大型のトラックやパトカー等の姿も見受けられるが、その何れもが無事な様子ではなかった。

 相当な速度で事故が起きたのであろう、横転してたり、潰れていたり、重なりあっていたり……燦々たる有り様である。

 そして辺りに立ち込める焦げた臭いと、一面に煤けた後が見受けられることから、既に鎮火しているがかなりの規模で火災も起きていたみたいだ。


 そんな壮絶たる事故現場、それだけでも鈴木にとっては未知の光景であり驚愕ものなのに、潰れたパトカーから未だに発せられ続けているサイレンの音によりその周辺には数百体にも及ぶだろうゾンビの群れが集められていた。



「おいおい……なんだよこれ。

 こんな数に襲われたら人溜まりもないぞ。

 ……まぁせめてもの救いは、あのサイレンが鳴り響いてる内は下手な物音ぐらいじゃ此方に注目が向くことはないって事か……」



 鈴木はこの光景に大量の冷や汗を掻きつつ、恐怖で思うように動かない体に難とか鞭を入れ、その群れを遠巻きにするように大通りを慎重に横断した。


 何度も後ろを確認し気付かれなかった事に少し安堵しつつも、早くこの場を去りたい一心で歩を進める。

 幸いこの周辺のゾンビが粗方あのサイレンに呼び寄せられているようで、あの集まり以外のゾンビは見受けられない。

 その現状に少し警戒を緩めた鈴木は近くの建物の角に身を潜め、その壁にもたれ掛かった。


 知らず知らずのうちに緊張し、いつの間にか早歩きになっていたようで僅かに息を切らしていた。

 深呼吸を繰り返し、漸く落ち着いた鈴木はポケットから地図を取り出し、目的地の場所を再確認する。



「ふぅ……もうすぐ其処だな……。

 既にサイレンの音も聞こえなくなってきてるし、此処からまた慎重に……と」



 地図を折り畳み、ポケットに捩じ込む。

 手汗を拭い、スリングショットを軽く構え、辺りを警戒しながらスーパーマーケットがある住宅街の方へと向かう。



 比較的死角が多い住宅街、門や曲がり角などに注意を払いつつも慎重に進む。

 だが何故かゾンビに会うこともなく拍子抜けのまま進むと、中々広い駐車場に、その奥に派手な看板を掲げる建物が見えてきた。

 間違いなく目的地であるスーパーマーケットだ。


 此処からは更に死角が多い。

 慎重に、静かに、警戒して進む必要があると自身に言い聞かせる鈴木。


 だがゆっくと駐車場に近付いていく鈴木の目前に予想もしていなかった光景が現れた。



「あちょー!死にたい奴から掛かってくるであります!

 あ、既に死んでるか!まぁーこの名槍物干し竿では命までは奪えないでありますけども!そいーっ!」



 と、自動車の上で仁王立ちし、群がるゾンビ達を物干し竿で突いては押し倒し、大声を張り上げ大立ち回りをするオタク……もとい男の姿。



「何だあいつ、死にたいのか……?つか、この辺でゾンビを見掛けなかったのはあいつのせい……いや、お陰か…………アホだろ」



 未だに大暴れしてゾンビを集めている男を尻目に、鈴木はすたすたとスーパーマーケットを目指した。

 楽勝で店内に到達し、店内をざっと見渡すも、やはりと言っていいのかゾンビの姿は見受けられない、全部駐車場のあの男が集めているから。



「今のうちにっと……」



 赤の他人を助ける気なんて更々ない鈴木は、悠々とお目当ての品を物色しに行くのだった。



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