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鈴木、ハジメの一歩。

 


 玄関から外に出た鈴木は、外から差し込む日射しに思わず手をかざして顔をしかめた。

 時刻は既に正午を回っている。

 昨日より一睡もしないではっちゃけていたおっさんには、お昼の日射しは少々きつかったようだ。



「太陽が、黄色く見える……」



 と、お決まりの台詞を吐きつつエレベーター前までダッシュした。

 何処からか通り抜けてくる冷たい風に文句を言いつつ、エレベーター横のボタンを連打する。


 数瞬と待たずに開くエレベーターの扉、その隙間に滑り込むように入った鈴木は前日と同じく深く息を吐いた。


 そして前日と同じ"R"のボタンを押そうとしてその動きを止める。



「ん、待てよ……これじゃ昨日の二の舞だ。

 Rが地下駐車場なら、出入り口は…………1、一階か?」



 と、鈴木は首を傾げつつ"1"と書かれてあるボタンを押した。


 すぐに動き出すエレベーター、段々と"1"に近づいていく表示を見ながら鈴木は今一度気を引き締め、ウエストポーチからスリングショットとゴム弾を取り出し、いつでも撃てるように軽く身構えた。



(4……3……2……)



 チーン


 とよく響く音をたててゆっくりと開くエレベーターの扉。


 鈴木はスリングショットを水平に構えたまま、そこから見える景色を注視した。



「明るく照らされた開けたフロア……人影はなし……。正面には自動ドアと更に奥にもドア……そこから見えるのは外の景色か……?

 間違いない、ここから外に出れそうだな……」



 と、一般人なら当たり前の事なのに、然も、迷宮の出口見つけちゃいましたドヤァ、とでも言いそうなドヤ顔で鈴木はニヒルに口角をつり上げた。



 そしてスリングショットを視界の先に向けつつ注意してエレベーターから出た鈴木は、すかさず左右を素早く確認した。


 これはFPS(ファーストパーソンシューティング)というジャンルのゲームで重要なクリアリングという行為である。

 簡単に言えば安全確認をしたのだ。



「左右に敵影なし…………ふぅ…………そして、見渡す限りにも……なしと」



 そして、ゆっくりと一つずつ、物陰や通路を確認していく。

 自身を落ち着かせるように深呼吸をしながら、たまに手汗を拭いつつ、一階玄関フロアの隅々まで見て廻る。



「…………よし…………よしよし、何も居ない………………ふぅぅ~……よかった……取り敢えず一階は安全みたいだ」

 


 一階フロアの安全確認を終えた鈴木は深く息を吐き額の汗を拭う。


 そして何ヵ所かあった閉じられた扉に目をやり「扉は、開けない、絶対開けない……」と強く決意した。


 ゲームなどでは未知の物事にも大胆不敵に立ち向かい、どんな怪しい扉でも躊躇なく開けてはマッピングしていく鈴木だが、現実世界では別だった。


 開けた所でクリアリングしていくのでさえ内心ビクビクで小便チビりそうになっているのに、用もない未知の扉など開けれるものではない。

 百害あって一利なし、触らぬ神に祟りなしである。



「あのゾンビに扉を開けれるような知能はなさそうだったし…………態々扉の中を確認する必要はない。何か有用なアイテムでもあるわけじゃないだろうし……」



 と、謎の扉はスルーし、正面の自動ドアへと向かう。

 透明な全面ガラス製の自動ドアは、鈴木が近くまで来ると音もたてずに問題なく開いた。



 鈴木がキョロキョロしながら潜ると、その背後で自動ドアが閉じる。


 鈴木は閉じた自動ドアには目もくれず辺りを見渡しながら歩を進める

 。

 横にあった電卓が付いたような謎の機械のオブジェクトに首を傾げつつ、部屋番号のようなものが書かれた小さいロッカーのような棚を横目に、正面の重厚な造りの両開きの扉の前までやってくる。


 そこから見えるのは久方ぶりの外の世界。

 それもゾンビパンデミックが起こってるであろう混沌とした世界だ。


 全てが未知数のこの世界で、土地勘も、生活力も、体力も、技術もない引きニートが生きていかなければならないのだ。


 鈴木はこれからの不安と恐怖に、思わずゴクリと生唾を呑み込んだ。

 今一度ズボンで手汗を拭き取り、ウエストポーチの中のスリングショットの弾の位置を確認する。


 何度も深呼吸をし、 そして"よし"と小さく気合いを入れ、やたら重い玄関の扉を体で押すように開けて外に出た。



 一歩二歩と足を進め、体が完全にマンションから出る。

 そこで鈴木が最初に感じたのは、冷たく吹き付ける風、少し強めの日射し、そして何処からか香ってくる腐敗臭だった。


 近くにゾンビがいる。


 と鈴木は鼻でその存在を確信しながらクリアリングを始めた。





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