佐藤は主人公だから問題ない。
鍵が掛かっていないチャチな作りの門扉を開け、佐藤はずかずかと他人の家の敷地内へと入っていく。
パッと見、築数年ぐらいのどこにでもありそうな外観の二階建ての洋風の家。
だが佐藤はそんな家なんてどうでもいいと軽く一瞥し、庭があると思われる方へと向かった。
砂利が敷き詰められた庭を慎重に踏みしめ、一応辺りを軽く気にしながら奥へと進む。
そして、佐藤の目にお目当ての物が姿を表した。
「よしよし、どうみても倉庫でありますな」
百人乗っても大丈夫?って感じのこじんまりとしたプレハブの倉庫。
佐藤は近付くと「ひらけごま!」と徐に扉を開け放った。
少し埃っぽい倉庫内に、ごちゃごちゃと色々な物が置かれている。
勿論全てが赤の他人の所有物、だが佐藤は躊躇せず我が物顔で物色を始めた。
「ゴルフクラブ……これは脆いからもう使わないであります」
練習用なのか無造作に置かれていたドライバー、一度手に取るも佐藤はポイっと後ろに投げ捨てた。
「スコップ……これは対ゾンビ戦でよく聞く武器でありますな……重さは軽くて使いやすい、ですが意外と持ちにくいのと振り回しにくいのが難点であります。軽いのと先端の形が歪なせいで威力はでなさそうであります。これではゾンビを一体倒すのにも苦労しそうでありますな…………でもキープ」
と、手に取った先が少し尖った剣スコップを倉庫の壁に立て掛ける。
「お、道具箱……ふむむ、このバールと金槌はサブ武器として使えそうでありますな」
と、赤色の金属製の道具箱から片手用の長さ30センチ程の金属製バールと金槌を取り出し、腰のベルトにその二本を差した。
「ふーむ、うーむ……やはり大したものはないでありますな。
チェーンソーとか、何かカッコいいやつを期待してたでありますが……」
倉庫の中を粗方ひっくり返すも、これ以上の収穫はないと判断し物色を切り上げる。
そして立て掛けておいたスコップを手に取り、「うーん、リーチがなぁ……不安であります……」とぶつぶつ呟きながら倉庫を後にし歩きだそうとしたところで、ふとあるものに視線が止まった。
「物干し竿…………ゾンビの動きも大したことなかったでありますし、それに…………わざわざ全部倒す必要はないでありますよ。だからこれは使えそうであります!」
洗濯物を干すように庭にセットされていた二メートル程の金属製の丈夫な物干し竿、それを発見した佐藤は「これは使える」と眼鏡をキラリと輝かせた。
手に持っていたスコップを背負っていたリュックに適当に固定し、両手で物干し竿を構える。
そして両手に力を込め引き絞り、一歩前に足を出ながら物干し竿を突き出した。
「お国のためにー!やー!」
と、以前見た映画かなにかで竹槍を突いてた人の真似をする。
そんなに鋭い突きではなかったものの、佐藤は満足そうに数回頷き物干し竿に視線を向けた。
「ふむ、少々太いせいで握りにくいでありますが、問題なさそうでありますな」
と、一人呟きながら移動を開始する。
門から顔を覗かせ、左右確認、そして手にいれた武装を一通り再確認し、その他人の家を後にした。
「いい拾い物をしたでありますな。
さー、ゾンビ、どこからでもかかってくるであります!」
他人の家から盗んだ物を拾ったと豪語する佐藤、もう彼の中ではゾンビ蔓延るこの世界は無法地帯であり、ゲームやアニメ、映画の中の世界とかわりない。
アイテムとは見つけた人の所有物になるのが当たり前なのであった。
鼻歌を歌いながら調子に乗って進む佐藤。
この先、待ち受けている数々の困難を彼はまだ理解していないのであった。