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◎その8 桜散る

◎その8


 そのために高遠の街道筋一年のうちでももっともにぎわう時期を桜の開花と共に迎える。旅籠はこのときとばかりに一人でも多くの客に泊まってもらおうと趣向を凝らした客引きをする。


 近隣の土産物屋も高遠ならではの物産を用意し、お金を落としてもらうことに余念がない。街道には多くの茶店が並び高遠饅頭や最近名物となりつつある高遠そばが飛ぶように売れる。一年の売上のうち、七割程度を桜の季節のたったの二週間で稼いでしまうほどの大賑わいとなる。


 その天下一の高遠桜は花の勢いが近年衰えているのではないかとの噂が流れている。桜が年を追うごとに咲かなくなってきているのだ。


 原因はわからない。正之と静が高遠に来る数年前から花をつける桜の本数が少なくなっていたらしい。高遠桜は本数が多いために、多少花木の本数が減った程度では遠目にわからない。


 しかし、静が高遠に来て三年目、周囲から相談を受けて注意深く観察すると確かに半分ほどの桜が花をつけることなく葉っぱが茂りだしている。このままでは数年後には花が咲かない高遠桜になってしまう。それはそれで珍しいと思うのだが、高遠葉桜ではお客さんは来てくれないだろう。


 高遠桜が咲かなくなれば、高遠から旅人の足が遠のき、桜の季節の稼ぎが領民の懐に入らなくなる。そうなれば高遠藩は大ピンチである。領民が稼げなければ年貢にも影響がでる。しかし、どうすれば解決できるのか、皆目検討がつかない。


 こんな現象は桜の木が多く植えられている江戸や京でも例がない。正之は困ってしまった。桜が咲かない高遠はあまりにも寂しい。


 正之は静に相談した。静はしばらくなにやら考えているようであったが、


「静がなんとかしましょう。」

 と静かに力強く正之に宣言した。


 お願いがございます、静は庭に庵を作って欲しいと正之に願い出た。静が描いた簡単な図面の通りに正之は庵を設えた。


 やがて静はその庵に一人で入ると、籠もってしまった。静は正之に絶対に中を見ないで欲しい言った。


 その日から静は庵の中で見慣れぬ白い割烹着のようなものを羽織り、なにやら作業をしている。朝早くから夜遅くまで庵の中は昼間のように明るい。もしかすると、夜通し作業しているのかもしれない。


 三日目、がまんできなくなった正之はとうとう障子の隙間から中を覗いてしまった。


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