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11/11

◎その11 玉川涼子、再び

◎その11


「そんな、もったいないお言葉でございます。それだけで、十分と言いたいところですが・・」「が・・?・」


「正之様。」

「なんだ。」


「正之様はあれほど静が”覗いてはいけません”と念を押しましたのに、覗かれましたね。」

「なんだ、やはりばれていたのか。」


「当然です、静はなんでもお見通しです。」

「静はどこか遠いところから来たおなごなのだな。」


「そうです、正之様は静の正体を知ってしまったのです。知られたからには静はもう元いた場所に戻ることはできません。静はどうすればいいのでしょうか。」


「そうだな、ずっとこの正之の側にいてもらうというのはどうだろうか。」

「まあ、うれしい。静もおなごですから、本気にいたしますよ。」


 数年後、桜を手当したときにつけた御印は花の季節になるとごく一部の木に現れる、そしてその御印を見た者には幸運が訪れる、と評判になった。


 そんな評判もあり、高遠コヒガンザクラはますます天下随一の桜として日本中にその名を轟かせるのである。


 正之と静が守り通した高遠コヒガンザクラは二人が会津藩に移封して、しばらくすると随分と少なくなってしまった。しかし、江戸時代末期から消滅の危機を感じた高遠藩士の活躍により徐々に増やすことに成功した。


 明治維新後、お城の周囲に植栽を進めた結果、今の城址公園の満開の桜の原型が形作られことになった。静達が薬剤を塗布した高遠コヒガンザクラはまだ公園内に原種として残っていると言われている。


 高遠コヒガンザクラが満開になる頃、木の幹に御印である”♡”ハートマークを運良く見つけることができるかもしれない。


 自分を育て高遠を救った静に敬意を表した正之は、静が絵を書き、自分が言葉を書き添えて一服の掛け軸を完成した。掛け軸に描かれた見事な満開の高遠コヒガンザクラの幹に、桜が満開になると静が施した薬液の御印がうっすらと浮かび上がると噂になったのは後日のことである。


 保科正之の傍らにはいつも若い側室が侍っていた。その側室は正之に比べるとずいぶん若く見えた。


 正之が老年になっても侍る女性は若かった。そのために、正之は「あのように堅物そうに見えても殿は実は若いおなごが好きなのじゃ。」と影で言われていた。


 その女性は不思議なことにいつまでも若い見た目であったという。


〇玉川玲子


「これ、どう見ても、”♡”ハートマークだよね。」


 涼子は四百年以上前に書かれたと言われている保科正之書の掛け軸の前に仁王立ちになり、じっと掛け軸の書を見ていた。そして、見事に描かれた桜の幹にうっすらと浮かび上がっている”♡”を発見した。


「きっとこれは大発見になるわ。」

 涼子は独り言をつぶやきながらうなずいた。


「保科正之の周囲には現代の知識を持った女性がおり、側近として活躍していたと思われる。」


 涼子は自信を持って社会科新聞の結論とした。そして夏休みの宿題として意気揚々と提出したのである。


 涼子の珍妙な結論を記した社会科新聞は秋の校内文化祭において同級生の作品とともに展示された。衆目にさらされることとなったが、その結論に誰も注目することはなかった。なぜならば、掛け軸に浮かび上がった”♡”ハートマークは涼子以外誰も見ることができなかったからである。


 涼子の社会科新聞をじっと見つめる男がいた。我が子のために文化祭を訪れた保護者にしてはやや若いように見える。


 その男は現代に蘇った女神様をサポートする内閣総理大臣直属特務機関、通称M機関に所属している。

 男は涼子が目をつけた掛け軸は高遠藩に女神様が降臨していた証拠ではないかとの情報を得て調査に訪れた。しばらく観察を続けた男は掛け軸が本物であることと、掛け軸の御印を見抜いた玉川涼子が女神様に連なる系譜の女性であることを確信したのである。


 男は女神様降臨の証拠と女神様に連なる系譜の女性発見という実に何十年ぶりかの二つの大発見に興奮し密かに身をたぎらせた。


 静は現代より時間遡行した伝説の女神様御鏡静奈その人である。そして今、女神様はあなたの隣に現代人として暮らしていることが確認されている。


隣の女神様5 ~信州高遠藩の女神様 水鏡静奈と保科正之~ 全11話

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