All's right with the world.
「フォーカードだ」
無精髭の生えた中年の男が、そう言ってよれたカードを木製のテーブルに放り投げた。
そのカードを覗き込んで、テーブルを囲む男たちが嘆息する。
「まぁたロビンか!」
男の一人が手を伸ばし、カードを回収する。
他の男が、テーブルの上の小銭を数えて、ロビンの前に移動させた。
男たちは皆同じくらいの年頃で、同じように無精髭を生やし、小さくなった煙草をくわえている。髪は短く刈り込まれ、農作業をする服は清潔に洗われているが落ちない汚れがこびりつき、擦り切れていた。彼らの本業は、ギャンブラーではない事が窺われる。
ここは、開拓村だ。
かつてだらしない若者だったロビンが親に愛想をつかされて送り込まれた森の中で、不憫に思ったのだろう、父の弟である叔父のケンが家の作り方を教えてくれた。
とりあえず雨風をしのげるようになり、さてどうしたものかと悩んでいると、ケンの息子で従兄弟のジョンがロビンの元を訪れた。
「なぁロビン、ブドウ畑を作ろうぜ!
今街ではワインが流行ってるんだってさ。俺たちもワインを作って、一儲けしようや!」
そううまくはいかないだろうと思ったが、ロビンはジョンのその提案を受け入れた。
他にやりたいことがあるわけでもないのだから、まあ、それでいい。
ロビンはいつもそうだ。ジョンだけじゃない。幼馴染のケリーや妹のマリー、兄のウィルなんかの提案を、いつもただ、受け入れてきた。
ここは森の中なので、幸い土地はある。だから二人は肩を並べて、ブドウ畑を作る場所を探した。あまり水場が遠くない方がいい。しかし川の真横はよくない。ブドウ畑を作るのに適した土地に関する知識は、ジョンが街で仕入れてきてくれていた。
ブドウ畑によさそうな場所にあたりをつけると、翌日二人は町へと向かった。
畑を作るには種が必要である。というのもあるが、その前に農機具も必要だった。畑を作ろうにも、鋤も鍬もシャベルも如雨露も何もかもがないのだから。
二人がこれまで住んでいた村からなら、一番近い町はそれほど遠くはない。大人の男の足なら小一時間ほどで到着するが、いかんせん今二人が住んでいるのはそれよりも森の奥だ。朝には家を出たというのに、町に着いたのはちょうど昼時だった。
「一休みするか」
「ああ」
二人は町に来た時にたまに寄る食堂に入った。
ドアを開けると、むわっとした熱気が二人を迎えいれる。安食堂のわりに高い天井ではシーリングファンがきしんだ音を立てながら回っていた。十はあるだろうテーブルのほとんどは埋まり、さらにその内のほとんどはがやがやとお喋りに興じながら昼食をとっていた。
「定食二つ」
「あいよ」
カウンターに並んで腰かけようとしながら、ジョンはカウンターの中にいる女将にそう声をかけた。こちらをちらりとだけ見て、女将は返事をする。
木製の椀に注がれるのは、薄い塩味のスープ。運が良ければジャガイモかニンジンかキャベツかなにかそういった野菜の切れ端と、ベーコンやウィンナーといった肉の切れ端が食べられる。木製の皿に、たっぷりのトマトで煮詰められたベイクドビーンズと何かのパテを薄く切ったものが数枚。それから堅く焼かれた黒パンがスライスされたものが数切れ。
取り立てて美味くもないが、食べられないほどに不味くもない。値段を考えれば、まあ、こんなものだろう。黒パンをスープに浸して食べたり、ビーンズを乗せたり、パテと共に食べる。少なくともそれで腹は膨れるのだから、まあ、文句はない。
もちろんそれなりの値段がする店に行けばそれなりのものは食べられる。小さいとはいえ、ここも町だ。けれど二人はこの店を好んだ。安いからだ。
そんな食事を流し込んで、二人はさてこの後どの店から回るかと相談を始めた。ブドウの種を今日買ってしまうか、それとも今日は農機具だけにするか。ブドウの種を買ってしまえばもう後戻りはできないと自分たちを追い込もうとするジョンに対し、ロビンはとりあえず現在の所持金についてジョンに問う。
まあつまり、全部買うだけの金はあるのか、と。
まずは安い種イモあたりを買って、畑を作る練習からした方がいいのではないかとジョンの父親であるケンは言っていた。ロビンもジョンも、畑仕事はこれまでしてきていないのだから。
「ようお二人さん。難しい話をしてないで、こっちで遊ばないか。遊んでくれたら、お礼はするぜ」
父親であるケンに言われたときは反発したジョンだったが、仲の良いロビンもそう考えるならその方がよいかと考えを翻そうかとしたちょうどその時、酒臭い息を吐く男が二人の肩に腕を回した。
「所持金が乏しいなら、一稼ぎしたらいいじゃねぇか」
このあたりで賭博といえばトランプがポピュラーである。まず元手がかからない。トランプが一組あればいいのだから。それにトランプなら、摩耗してもすぐに安価に取り換えることができた。それに賭博に使われるゲームは家庭で遊ぶことができるポピュラーなものを使用することが多いため、ある程度のルールを誰もが知っている、というのも強みとされていた。もちろんローカルルールが盛りに盛られている場合もあるが、まあ、基本はオーソドックスなものを用いることが多い。
それが発端で喧嘩が起きるのも、何なら殺人に発展するのさえ、面倒じゃないか。大体のメンツの目的は遊ぶことだ。新人をだまして金を巻き上げるのを目的とはしていない。大体は。
ロビンとジョンが振り返れば、食事を取っていた客の大半は午後の仕事に向かったのだろうか。あれほど埋まっていた店内はもぬけの殻でこそないが、随分と人の数は減っていた。ゆっくりとお茶をすするもの、食堂に置いてある新聞を広げるもの、カウンターに代金を置いて立ち去るもの。様々ではあるが、半分以上は空いただろう。もちろん、ロビンたちの後から来て、今食事をしているものもいる。
「ルールは」
「おいロビン」
「使い切らない程度にするさ」
ジョンは一応止めるが、それは抑止の声ではない。本当に止めるときはもっと強く言う。そうじゃないのは、ロビンの賭博癖を知っているからではなく、ロビンがトランプ賭博に強いから、というのが理由の大部分を占める。
「今日はポーカーだ。レートは1でどうだ?」
誘ってきた男は、親指でテーブルを指した。そこには三人の身なりの良くない男たちが座っている。別に不潔なわけではない。饐えた臭いがするとか、襤褸切れになっているとか、そういうことはないが、決して裕福そうななりはしていなかった。しかし負けたからといって、暴力に訴えそうには見えない。が、まあ、昼間から酒を飲んだいるというのを、どう見るべきだろうか。
「それじゃあ十まで参加しよう」
「俺はパスで」
ジョンは首を横に振って、誘ってきた男に辞意を伝えた。
「ロビンが参加するなら、遠慮しておくよ」
ジョンはロビンほどトランプ賭博が好きではないし、強くもない。だから隣のテーブルで、水でも舐めながら観戦するつもりだった。ロビンが勝てば勝っただけ、軍資金が増えるのは確かだからだ。
「よろしく。コーシーだ」
「よう兄ちゃん、楽しもうよ。バードって呼んでくれ」
「バジルだ。悪いね、稼げるレートじゃなくてよ」
軋む椅子を引き、ロビンはテーブルに着く。言葉少なく挨拶をすれば、めいめいに挨拶を返された。歯が抜けているもの、煙草の臭いをさせているもの、紙のほとんどが抜けて落ちているもの。それから誘った男がアーサーと名乗り、カードの山を手に取った。
メンツの中ではロビンがただ一人、若年だった。
ロビンはじょんから小銭を十枚もらって、テーブルに積み上げる。この十枚が無くなったら、ポーカーはおしまいだ。
「それじゃあ配るぜ」
アーサーが慣れた手つきでカードを五枚配る。交換は一回。
トン、トン、トン。ロビンはテーブルに伏せてあるカードを手に取る前に三回指でテーブルを叩いた。おまじないのような、癖のようなものだ。こういった仕草は誰にでも何かしらあって、そっと服の袖をめくるもの、上唇をなめるもの、耳の後ろをなでるもの。様々に、自分に配られたカードがいいものであることを祈る。誰にだろう。賭博の神にだろうか。
カードを手に取る前に、そして祈りを終えた後に、誰からともなくコインを一枚場に出した。それからゆっくりと、カードを自分にだけ見えるようにオープンにする。これも様々だ。一枚ずつ開くもの、まとめて手に取るもの。一つの山にしてから開くものもいる。
ロビンは五枚まとめて手に取って、ざっと一瞥した。
ハートのクイーン、クローバーの八、スペードの二、ダイヤの三、クルーバーの十。なにも揃っていない。豚だ。
「全部」
五枚のカードを一つにまとめて、ロビンは札を場に返した。
「俺は三枚」
「俺も全部だ」
「俺も全部」
「俺も三枚」
「はいよ」
一人あぶれていたジョンが、こちらも手慣れた仕草でカードを回収して山にする。そしていかさまはしないことを示すために袖をめくり、カードを配った。
五枚、三枚、五枚、五枚、三枚。
ロビンを含めて実に三人も豚がいた。この調子なら養豚場でも開けそうだ。
受け取ったカードに目をやって、ロビンは拳でテーブルを叩いた。二回。
「ベット」
「待ってくれ」
ロビンとジョンに声をかけたアーサーが、ふと、といった体でストップをかける。全員の視線が、彼に集まった。
「ああいや、ベットそのものを止めるわけじゃない。なあ、ベットは一枚ずつにしないか。レイズもだ。そうすれば、長く楽しめるだろ?」
「なるほど、そりゃあいい」
「そうしようそうしよう」
「なあ、兄ちゃんもそれでいいか?」
テーブルの上、各人の前にはロビンと同じように十枚のコインが積み上げられていた。誰かが持っている数より多くかければ確かに勝てるが、それは品がない。成金どもが行くようなカジノではよくある光景かもしれないが、町で顔見知り相手にプレイする際は品がないと敬遠される。それに何より、プレイできる回数が少なくなる。
だからこうしたローカルルールができることもよくある。
「わかった。じゃあ、一枚ベット」
ロビンは微かに頷くと、コインを一枚山の上からとって、場に出ているコインの上に重ねた。残りは八枚。
「俺はコールだ」
「俺は降りるよ」
「同じくフォールド」
「じゃあレイズ」
ロビンの右隣に座るコーシーが、二枚のコインを追加で場に出した。
「コール」
躊躇なく、ロビンは一枚積んだ。
「フォールドだ」
コールしていたバードが降りたから、場札を公開することになった。
さっさと降りたアーサーとバジルの二人の手札は豚だった。何もかすっていやしない。スートが一枚だけかぶっているが、あとは美しいほどにばらばらだった。せめてもう少しはそろうだろうと、二人は笑いながら文句を言っていた。
ロビンの左隣のバードの手札はスペードの九とクローバーの九のワンペア。
コーシーはクローバーの四とハートの四のワンペア。
ロビンの手札はハートの九、スペードの九、クローバーの九。ダイヤの一、ハートの二。スリーカードだ。
場に出ていたコインがすべてロビンの元に集められた。ロビン自身が場に出していたものも含めて、合計十枚。ロビンはそれで新しく山を作り、最初の山の隣に並べた。最初の山は三枚減って、あと七枚だ。
「俺がこのままディーラーしますか?」
ジョンはカードをすべて集めて、山にしてから問うた。まだシャッフルはしていない。
ロビンは現在、ジョンが配ったカードでスリーカードを出しているように見えるから、いかさまを疑われても仕方ない状況である。だからジョンは、確認を行った。
男たちは顔を見合わせた後、一つ頷いた。
「そうだな。頼むか」
「シャッフルはこっちでしてってのも考えたが、どっちかっていうと俺たちがこの兄ちゃんを食い物にしたって疑われそうだしなあ」
「嘘つけお前ら、ディーラー兼任するのが面倒なだけだろ」
男たちは屈託なくゲラゲラと笑って、ジョンにディーラーを任せた。
じゃあ、と声をかけてから、ジョンはカードをシャッフルする。カードの山の右手で持ち、左手の指の腹で押す。数枚を抜き取り、上に重ねる。また左手の指の腹で押し出し、その数枚を下に重ねた。それを何度も繰り返してシャッフルし、ジョンは五枚のカードを配った。
ロビンはトントントン、と、指で三回テーブルを叩いて、場にコインを一枚出した。それから、カードを手に取る。他の男たちもそれぞれに祈り、場にコインを一枚出し、カードを手に取る。
クローバーの三、クローバーの七、クローバーのジャック、スペードのキング、スペードの七。七が二枚ある。ロビンはそれ以外の三枚を引き抜き、場に捨てた。
「三枚」
「俺も三枚」
「俺も三枚だ」
「同じく三枚」
「俺は一枚だけ頼むぜ!」
嬉しそうなバジルを除いて、全員同じ三枚。おそらくペアが一つはそろっているのだろう。
ジョンはカードを回収して山にし、手元に残っていた山から配る。三枚、三枚、三枚、一枚。さっきとは違い、養豚場計画は早くも頓挫しそうだった。
ロビンは受け取ったカードに目をやり、また拳でテーブルを叩く。
ダイヤのクイーン、クローバーのエース、スペードのクイーン。ツーペアだ。悪くはない。問題は残りのメンツに配られたカードだろう。
「畜生、フォールドだ!」
バジルは早々にカードを場に公開した。みんなでそれを覗き込めば、彼が交換前は意気揚々とし、そして今しょげ返っている理由も簡単に分かった。
ハートのジャック、スペードの6、ダイヤの7、ハートの5、クローバーの4。
「あー……なんつーか、惜しいなあ」
「これは期待すんなっつうほうが無理だわなあ」
四人とも、いや、ディーラー役のジョンですら、バジルに同情的だ。
「まあそんなことより気を取り直してだ。ベット」
バジルの隣の、コーシーがコインを乗せる。
「コール」
ロビンもコインを乗せた。
「んー……悩むけどコールだ」
「同じくコール」
「レイズはないですか? コーシーさんどうします?」
ローカルルールになるが、コールが一周した後、再度コインを積むことができる場合もある。それを踏まえて、ジョンは念のため確認をした。コーシーはしばらく考え込んだが、レイズはしないことにした。
男とたちは手札を公開していく。
コーシーがスリーカード、バードがワンペア、アーサーがワンペア。
今度の場に出されたコインは、コーシーの元に集められた。コーシー自身も出したものを含めて合計九枚。ロビンの手持ちより、一枚少ない。
ロビンのコインは二枚減って、最初の山は残り五枚になった。
その次の回は、ロビンとバードはワンペア、コーシーが豚、アーサーがツーペア、バジルがスリーカードで勝利した。コーシーが最初に降りて、バードがベットし、バジルがさらにベットしたから、ロビンはそれで降りた。
バジルは自分の出した三枚と、場から六枚もらってコインの数はロビンと並んだ。ロビンのコインは一枚減って、最初の山の残りは四枚だ。
テーブル上のカードをすべて集めたジョンは、トランプの山をテーブルの上で二つに分けた。カードの端と端をはじいてかみ合わせ、一つにまとめた。ただシャッフルするよりも難しい。特によれたカードで行うのは、慣れたディーラーでも嫌がるだろう。
「おい兄ちゃん、どっかのカジノでディーラーやってたのか?」
「いやいや、昔町で手品師がやってるのを見まして、練習したんですよ」
「出来るようになったのは、ジョンだけだったな」
子供みんながはまったし、ロビンもあの頃は練習した。しかし手に持った状態でやるのも難しく、皆だんだんと飽きてやめてしまった。飽きずに練習を続けたのはジョンだけだったし、少し上達するとみんなで見て喝采を飛ばしていた。娯楽のない村ならではの光景だと二人は思っている。
そうして配られた札はとてもよくシャッフルされていて、あちこちからうめき声が上がった。
「一枚」
「おいロビン、無茶はするなよ。俺は五枚だ」
「俺も五枚だ。バジルみたいなことにならないようにな」
「うるせえぞ二人とも、俺は二枚だ」
「おいおい三人とも、ガキどもがおびえるぞ。あ、俺は三枚暮れ」
怯えるそぶりもなく笑いながら、ジョンはカードを配る。一枚、五枚、五枚、二枚、三枚。
それぞれが再度札を確認した。
「フォールド。豚だ豚」
「俺も降りよう。ムダ金はよくねぇな」
コーシーとバードが手札を公開する。コーシーのカードはクローバーとスペードに偏っていて、バードのカードはダイヤに偏っていた。いっそ全部ダイヤだったら、フラッシュになったのに。
「ベットするぜ。そろそろ勝たないと後がない」
アーサーの手持ちのコインは場に出ているものも含めて三枚。一枚場に出したから、手持ちはあと一枚になる。参加はできるが、といったところだ。
「悪いなアーサー、コールだ」
「同じくコール」
バジルもロビンも、カードを一枚ずつ足した。
アーサーはじっと自分の最後の一枚のコインと、それから手札を確認する。ブラフでレイズすれば、手持ちはなくなる。しかし残る二人の手札が自信のないものであれば降りてくれて、自分の手音には六枚追加が来て生き延びる。しかしブラフだと見破られたら手持ちが尽きて終わりになるが。
まあ、ここまで考え込んでいる時点でばれているようなものだが、と、アーサーはもう一枚コインを乗せた。
「もちろんレイズだ」
バジルはひょいと肩をすくめて、手札を置いた。
ダイヤの五とクローバーの五のワンペア。コールされても何とかなっただろうが、確かにこの手札なら俺なら降りる。アーサーはそう考えて、ロビンを見た。
「コール」
ロビンも最初のコインの山から最後の一枚をつまみ上げ、場に積み上げた。これ以上のコインはないから、必然的にここで場札の公開だ。
アーサーの手札はダイヤのクイーンとスペードのクイーンのワンペア。ロビンの手札がツーペアか、ワンペアでもキング以上だったらロビンの勝ちだ。
公開されたロビンの手札は、ダイヤの八、ダイヤの六、クローバーの八、スペードの六、スペードの四。ツーペアだ。
「ロビンの勝ち、アーサーの完敗で終了だな」
「最終結果はまあ一目瞭然か」
アーサーの前には一枚もコインがない。
バードの前にはたったの二枚。
ロビンとコーシーとバジルが分けた形になるが、バジルのコインは十枚。コーシーのコインは十一枚だ。二人とも一回しか勝っていない。
対してロビンは三回勝利していて、二十七枚のコインを積み上げていた。
「まあポーカーは負けたが、その勝ったコインは巻き上げさせてもらうとするか」
舌なめずりをするように、アーサーが務めて明るく言った。ジョンはカードを集めて、山にしている。
「安心しろ、暴力で奪ったりはしない。
俺はこの道をまっすぐ行ったところで道具屋をしている。で、何だったか。鍬と鋤とシャベルと如雨露だったか? 全部取り扱いがある」
「お、じゃあ俺も便乗するぜ」
ニコニコ笑いながら、バードもわざとらしい揉み手をして見せる。
「ブドウの種は今は店頭にならんじゃないが、いやこの辺りでブドウを育ててる奴はすでに種持ってるからな。新規で購入したりはせんのよ。そう遠くないうちに街まで行って仕入れてこよう。
それまでは畑を耕して準備するなり、もういったんそう遠くないところを耕して自分たちの飯のために芋を育ててみちゃどうだ。そのあたりの相談にも乗るぞ。最近の売れ筋とかな」
「助かります」
「やー、相談できる人ができるのは助かります」
たった二人だけの、森の中の畑の予定だ。ジョンの父のケンに相談できなくはないだろうが、彼は大工だ。納屋を作る相談はできても、農作業には明るくない。それは、ロビンの父や兄も同様である。
「俺とバジルはその後だな。ワインを作った後街まで運ぶのと、売るのも手伝ってやろうじゃないか」
「ただし一つ条件を付けさせてもらう」
もったいぶって、にやりとアーサーが笑った。
同じように、コーシーとバードとバジルも笑う。
「この町に来たときは、ここでポーカーの相手をしてくれ。いや、ページワンでもセブンブリッジでもいいがな」
ここは、森の中の開拓村だ。村に名前はない。
ロビンとジョンという二人の男が開いて、ブドウ畑を作った。この村で作られたワインは、一部でとても人気が出た。
たった二人でコツコツとブドウ畑を広げ、ワインを作る本数を増やした頃、幼馴染のケリーがやってきた。ケリーはロビンと結婚し、子を為した。ロビンの妹のマリーもやってきて、ジョンと結婚した。
移住したケリーとマリーが呼び水になったのか、不思議と軌道に乗ったワインづくりがうわさになったのか、少しずつ村に人が増えた。四人の生まれ育った近隣の村からくるもの、二人が取引をしている近隣の町からくるもの、その町でうわさを聞いたのか近くの村からも人が来た。
人が増えたから、リンゴ畑や、ミカン畑も作った。ジャムやアップルパイも村の特産品になって、また、村に人が増えた。
ロビンとジョンはたまに町に行って、アーサーやバジル、コーシーにバードとトランプ片手にテーブルを囲んだ。村に人が増えるたび、アーサーの店で農機具を買った。家は村人たちで手分けして作ったが、家具はアーサーの店で買った。
新しい畑を作るときは、バードに相談をした。
出来上がったものは、バジルが売ってくれた。運搬はコーシーのところで行っていた。最初のころ、道はロビンとジョンが踏み固めたものだけだったが、荷物が増えたある時、コーシーと共同で道を作った。彼らの生まれ育った村も協力してくれた。
全て世は事もなし。
なんか一本書き上げたかったのです。
書き上げるの大事。
あー楽しかった!