★Koharu’s point of view
お母さんと駅前で待ち合わせをしていたけど、約束の時間になっても一向に姿を見せない。
スマホのアプリで頻繁に連絡を入れているのだけど、既読の表示にもならない。時間が経つにつれて、もしやお母さんに何かあったのかもしれないという不安と初めて来た見知らぬ街にいる不安が重なり、私は憔悴していた。
辺りはすっかり暗くなり、もうすぐ21時になろうかという時、見知らぬ男から声を掛けられる。
「君、まだ21時前ではあるけど、暗くなってきているから早く帰宅した方がいい」
一瞬警察が声をかけてきたのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
「人と待ち合わせをしているのでお構いなく」
私はここで待っている様に言われているのですぐに男を無視する様に決めたのだが、この男はずっと私を見ていたと恐ろしいことを言ってきた。教師と言っているが正直信用ならない。
すると何の前触れもなく名前を尋ねられた。私が拒絶したにも関わらず、この男は私の肩に手を置き再度名前を尋ねてくる。
怖い・・・助けてお母さん。声では平静を装うものの私は恐怖に耐えきれず、警察に通報しようとすると男は焦り始める。
「待ってくれ、本当に君が僕の知っている人に瓜二つだったんだ。その人は名取雪って名前でこれは嘘じゃないんだ」
知っている人に似ていると何度か言われていたが全く信用しなかったのだけど、お母さんの名前が出た事に驚いてしまった。
冷静な判断力を失った私は不用心にも自分とお母さんの関係を漏らしてしまった。
「私の娘に何か用ですか」
お母さんが男に声をかけた。やっと来てくれた、これでもう安心だ。早くこの場を立ち去ろうと思っていた私の耳にお母さんの驚いた声が飛び込んでくる。
「え・・・嘘。もしかして優君なの・・・」
本当にこの男はお母さんの知り合いだったようだ。二人の会話に割り込むのは憚られたので私は大人しくしていたのだけど、この男はあろうことか『元気そうですね』とお母さんに言った。お母さんは元気なんかじゃない、困惑した表情を浮かべながら同意するお母さんを見ているのが辛くて私は男を糾弾した。
だけど、お母さんはそんな私を叱る、なんで私が叱られないといけないのよ・・・。
その後のやり取りで私がお母さんに働くと伝えたがその提案は却下された挙句、この男の家に向かう流れになった。
男の家に向かう道中、古びたお弁当屋さんに寄り道した。私は呼ばれることもなく店の前に置き去りにされた。仮に店に入る様に促されても拒否するつもりだったから悔しくも何ともない。
注文が終わったのか二人がお店から出てきた。男がすぐに私に声をかけてきた、どうやら移動するらしい。お弁当屋さんに入ったのに、なぜ手ぶらで出てきたんだろう。
別に私はお腹なんて空いてないからどうでもいいんだけど・・・。
少し歩いたら、少し古びたマンションの前で男が止まった。男の家の前で少し待たされ中に通された。
どうやら一人で暮らしているようだ。男の一人暮らしというものを知らないけど、部屋は綺麗に片付いてた。
男は冷蔵庫から出した水をコップに注ぎ、テレビをつけて外に出て行った。
私はお母さんにあの男との関係を聞き出すべく質問を始めた。
「ねえお母さん。あの男は一体何なの?お母さんとどういう関係なの?」
「小春にはまだ話した事はなかったわね・・・。彼は・・・優君は私の幼馴染なの」
お母さんに幼馴染がいるなんて初めて知った。だけど、ただの幼馴染にしては先程のあの男の態度もお母さんの態度もおかしいと思った。
「お母さん?幼馴染の割には二人がよそよそしく感じたけど、私の勘違い?」
そういうとお母さんはバツが悪そうな顔になった。
「勘違いしないでほしいから最初に言っておくわよ。悪いのはお母さんだから」
そう前置きしてお母さんは話し始める。あの男との昔話を・・・。
話を聞き終えた私は茫然としてしまい何も耳に入ってこなかった。私の生まれが特殊なのはもうだいぶ昔に聞かされていた。
私のもう一人のお母さんは子供が産めない体だった。もう一人のお母さんとお母さんは親戚関係で仲も良かったらしく、もう一人のお母さんはどうしても旦那さんの子供を諦めれなかった。
そこでお母さんに代理出産をお願いしたらしい。国内では法律の整備も十分ではなく何かと弊害も多いことから、国外で行う事となったらしい。
私は産まれたら、もう一人のお母さん夫婦に引き取られる予定だったのだけど、そこで不幸が起きた。お父さんともう一人のお母さんが乗った車が事故に巻き込まれ二人とも亡くなってしまったのだ。
お母さんは、それでも私を産んでくれた。お母さんは常々私に言っている事があった。
『私はあなたにたくさん幸せをもらっているわ。これ以上ないぐらいにね。あなたは私以上にもっとたくさんの幸せを掴んでね』
それを言う時のお母さんが少しだけ寂しそうなのがいつも気になっていた。
でも今、私はその意味を理解した。お母さんがあの男の事を話す時の嬉しそうな顔が全てを物語っていた。
お母さんは私は関係ないと言っていたけどそれは絶対に違う。私がお母さんの幸せを壊してしまったんだ・・・。
あの男を信用した訳ではないけど、お母さんの為に私が出来る事があれば力になろう。今度は私がお母さんに恩返しをする番だ。
申し訳なさと固い決意をした私は拳を握り俯いた。あの男が帰ってくるまで、私とお母さんの間にそれ以上の会話はなかった。
やっと設定部分が終わりました。この内容で始めていこうと思います。感想・ブクマ・評価下さった方ありがとうございました。設定に抵抗がないようでしたらこれからも宜しくお願い致します。