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弁当に隠された真実

翌日になっても僕は気持ちを切り替えられずにいた。

周りに落ち込んでいる事を悟られまいと努力したつもりだったが、神谷先生にはすぐに気づかれてしまった。


「優先生、元気ないですね。はは〜ん、さては彼女さんと喧嘩でもしちゃいましたか?」


喧嘩ね・・・そんな大層なものじゃない。僕が一人で勝手に落ち込んでるだけだ。

僕はその問いに答える事なく彼女を無視した。


「もう、何があったか知りませんが生徒の前でそんな辛気臭い顔しないでくださいよ」


神谷先生の正論に僕は苦笑いを浮かべるしか出来なかった。




「それじゃ、今日も張り切って勉強しましょうね」


そう言って授業を始める神谷先生を教室の後ろから見守る。


一限目は小春ちゃんのいるクラスだったのだが、彼女は時折後ろを振り返り僕を気にしている。

昨日から僕の様子がおかしい事に気づいていたから、それでそういう行動を取っているのだろうが今は授業中である。


そんな彼女の態度に既に気づいている神谷先生が厭らしい笑みを浮かべていた。

まずいな、と思ったが時すでに遅し。


「名取さん、後ろにはノートに書く様な事は何も書いてないわよ」


小春ちゃんは、いきなり名前を呼ばれて咄嗟に前を向く。


「それは失礼しました。退屈な授業だったのでつい余所見をしてしまいました」


笑顔のまま固まる神谷先生。こちらから小春ちゃんの表情は伺えないが、多分こちらも笑顔で言い放ったのだろう。


「退屈な授業でごめんなさいね。だからと言ってそれが余所見をする理由にはならないわ。まあ、いいわ。お昼休みに先生とお話ししましょうか。少し長くなるかもしれないからお昼ご飯持参で来る様にね」


「お断りさせていただきます」


素直に応じるとは思わなかったが、流石にこの状況はまずい。


「名取さん、神谷先生の言う通りにしてください」


横槍を入れてしまった事でクラス中の視線を集めてしまった。

そんな僕の頑張りも虚しく、小春ちゃんからの返事もない。


「名取さん、神谷先生の言う通りにしてくださいね」


「分かりました・・・」


二回目でようやく渋々ながらも納得してくれた。

小春ちゃんの返事を確認した神谷先生は何事もなかった様に授業を再開した。




昼休みになり小春ちゃんが職員室に入ってきた。

すぐさま神谷先生が席を立ったところからするに、どうやら空き教室に移動するらしい。

僕は無関心を決め込み昼食の弁当を鞄から出した。


「優先生?ちゃっかりお昼にしようと思ってるみたいですけど、先生も来て下さいね」


「いや、僕は関係な「優先生、生徒に対する指導も大事な職務の一つです。私がきちんと出来てるか監督してて下さい」」


そう言われてしまっては返す言葉が見当たらない。僕は小さく溜息を吐きつつも二人の後について行った。


職員室からほど近い空き教室に入った僕らは、長テーブルに備えられた椅子に座る。

僕の隣に神谷先生、神谷先生の正面に小春ちゃんという布陣だ。


心なしか神谷先生の距離が近い。テーブルはそれなりに大きいのだから、もう少しゆとりをもって座って欲しい思ったが、口には出せずにいた。


「神谷先生、瓜生先生と近くないですか?」


僕が思ってても言えなかった事を小春ちゃんが躊躇いもなく指摘する。


「そうかしら?細かい事は気にしないで、まずはお昼にしましょうか」


小春ちゃんを注意するのが先なんじゃないだろうか?そんな疑問を抱いた僕だが、それよりももっと重要な事に気づいた。


神谷先生の前で僕と小春ちゃんが弁当を食べる危険性についてだ。


どう考えても小春ちゃんと僕の弁当に入ってるものって同じだろう。流石にそれを見られるのはまずい。

前を見れば、同じ事に気づいた小春ちゃんがこちらにアイコンタクトを送ってきていた。


「どうかしたの優先生?二人して見つめ合ったりして」


「いや、そういう訳じゃないないのだけど・・・」


歯切れの悪い返事をする事しか出来ない僕。


「もう、さっさと食べないと話が先に進みませんよ。名取さんも早く早く」


そう言って僕達を急かしてくる神谷先生は訝しげな表情浮かべている。


どうしたらいいのだろうか。これ以上何もしないでいると余計怪しまれる。

バレるのを覚悟で弁当を食べるか?いや、それはダメだ。だが、このままという訳にもいかない。


「瓜生先生、神谷先生もそう言ってますので先にお昼にしましょうか」


僕の堂々巡りの思考は、思いもよらぬ小春ちゃんの一言に遮られた。

僕が悩んでいる間にどうやら彼女は腹を括ったらしい。


僕は観念して弁当を袋から取り出して蓋を開ける。同じ様に蓋を開ける小春ちゃん。

二人の弁当は想像していた通り、同じ種類のおかずが入って・・・いなかった。

同じおかずは一つとしてなく、それぞれの弁当は別々の人が作ったと言って誰もが信じるであろう出来栄えだった。


小春ちゃんを見れば、同じ様に驚愕した表情になっている事から、彼女も今日まで知らなかったのだろう。


「あら、二人とも美味しそうなお弁当。どちらも凄く手がかかってますね」


「ええ、そうですね。本当にありがたい話です」


雪さんが毎朝早起きして弁当を作ってくれていたのは知っていた。

彼女は二人分も一人分も変わらないと言っていたので、その言葉を鵜呑みしていた。

そんな自分に怒りを覚えるとともに、彼女はどうしてこんな事を?という疑問も湧いてきた。

今日帰ったら、聞いてみようと心に決め弁当を食べ始める。いつも通り今日の弁当も美味しかった。




「さて、お昼も食べ終わったし単刀直入に聞くわね。名取さんあなた優先生のことが好きでしょ?」


お昼を済ませた途端、何の脈絡もなくそんな質問を投げかけてくる神谷先生。


「「なっ!?」」


あまりの突拍子のなさに二人揃って小さく声を上げてしまった。


授業態度が悪かった事を注意するって話だったはずだ、なぜこんな事になっている?僕は状況についていけなかった。


「あらあら、二人ともリアクションが寸分の狂いもないと。これはもう手遅れかしら?」


「神谷先生いい加減にして下さい。名取さんも僕の事は気にせずはっきり言ってあげて下さい」


小春ちゃんが僕を好きだとか、ありえない事を言う神谷先生。

流石にそれは聞き捨てならなかった。


「優先生はそう言ってるけど、名取さんどうなの?私はあなたに聞いてるのだけど?」


僕を無視して更に小春ちゃんに追求する神谷先生。もう一度注意しようするよりも早く小春ちゃんが口を開いた。


「そんな事をいちいちあなたに言う必要はありません。何も・・・何も知らないくせに。これ以上瓜生先生に近づかないでください!!」


そう言って小春ちゃんは神谷先生を睨みつける。

神谷先生はおそらく昔の自分を小春ちゃんと重ねているのだろう。だが、僕達は彼女の思っている関係ではない。

ここは僕が二人の間に入るしかない。


「神谷先「優先生、すいませんが席を外していただけますか?」」


「流石にこ「席を外して下さい、これはお願いじゃありません」」


「瓜生先生、私からもお願いします」


小春ちゃんにまで言われてしまっては、これ以上ここにいる訳にもいかない。


「分かりました・・・」


そう小さく返事して僕はその場を後にした。

どうか大事になりません様に。僕はそれだけを祈りながら職員室に戻っていった。

先日、この作品で初レビューをいただきました。素敵なレビューありがとうございました。何度も読ませていただきニヤニヤしておりました。



読んでくださってありがとうございます。ブクマ・感想・評価、とても励みになっております。誤字脱字報告ありがとうございます、本当に助かっております。皆様、これからもどうぞ宜しくお願い致します。

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