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19/30

★Koharu’s point of view3

新学期が始まり少し経った。夏休みに仲良くなった陽子ちゃん達と談笑するのが日課となった私の耳にクラスメイトの話し声が飛び込んできた。


「最近の瓜生先生っていいよね」


「それ分かる。最近爽やかになって私もいいなって思ってた」


私は陽子ちゃん達と話しながらもそちらに聞き耳をたてる。


「でも、聞いた話によると最近お弁当持参してるらしいよ」


「そうなの!?瓜生先生が自分で作る・・・とは流石に考えられないか。まさか彼女の手作りとか?」


「多分そうなんじゃないかなって噂だよ」


「最近いきなり爽やかになったのはそのせいか。はぁ、がっかりだよ」


「がっかりも何もあんたじゃ相手にされないわよ」


「もう、酷いな。そういう奈緒美だって相手にされないわよ」


優さんの人気が最近急上昇している。見た目が良くなったと評判で、それがお母さんの手によるものだと知っている私は誇らしい反面、余計な虫がつかない様に日々神経を尖らせている。


「小春?なんか怖い顔してるけどどうかしたの?」


「な、何もないよ。それより今日から教育実習の先生来るんだよね」


私は咄嗟とっさに話題を変える。危ない、顔に出てしまっていたらしい。


「うんうん、カッコいい人だといいね」


陽子ちゃんは笑いながらそんな事を言っている。


「そ、そうだね。楽しみだな〜」


本音としては全く興味がないのだが、一応話は合わせておく事にした。




朝のホームルームが終わり今日の一限目の授業が始まる。

優さんと一緒に見慣れない人が入ってきた。教育実習生は女の人か。それにしても凄く綺麗な人だ。

そして教壇に並んで立つ二人の距離が近すぎる・・・。

私は自分が不機嫌になっていくのを感じた。これはきっとお母さんという人が居ながらも鼻の下を伸ばしている彼に対して苛ついているのだろう。



「本日より二週間、教育実習で皆の授業を担当してもらう神谷先生だ。次回からは神谷先生に授業をお願いするから皆もそのつもりで思っていて欲しい。それでは神谷先生、自己紹介をお願いします」


神谷かみや夕凪ゆうなと申します。一応この学園の卒業生で皆さんの先輩になるわけですが、出来たら距離を置かずに仲良くしていただけると嬉しいです。至らない点もたくさんあると思いますが、宜しくお願い致します」


神谷先生の挨拶で、教室が色めき立つ。一人の男子生徒が余計な発言をしたせいで授業の前に神谷先生への質問大会となってしまった。


興味のない私は、どうでもいいとばかりに教科書に目を落としたのだが、質問の内容に驚いて思わず顔を上げてしまう。


「神谷先生、彼氏はいるんですか?」


「彼氏は居ないけど、好きな人は居るわ」


彼氏はいないのか。心の中で思わず舌打ちしてしまう。


「先生、その人は大学の先輩?同級生?それとも後輩ですか?」


「どれも違うわね。もっと年上の人よ」


そう言う彼女が一瞬優さんを見た。その行動を見ていた私は、この人はお母さん(私)の障害となる可能性があると思った。


「おい、これで質問の時間は終わ「神谷先生はなんで先生になろうと思ったのですか?」」


優さんが質問を終わらせようとしたがそうはさせない。

ここはしっかりリサーチしておかないと。


「ん〜、それはね。私って実は昔はそこそこ問題児だったのよ。そんなどうしようもなかった私が勉強の楽しさを教えてくれる先生と巡り会えてね。その先生の様に私もなりたいと思ったのがきっかけかな」


「神谷先生の好きな人って何してる人なんですか?」


「教師をやっているわね。その人に近づきたくて私も教師を目指してるの」


そう言って彼女は再び優さんを見た。その様子に教室が再び色めき立つ。

やはりこのひとを優さんに近づけてはいけないと私は心の中で強く誓った。



家に帰った私は今日の出来事をお母さんに伝えた。お母さんは私の話を黙って聞いていた。


「そっか、優君を好きな人が居たのね。もし優君もその人の事を好きなら応援してあげないとね」


そう言って力なく笑うお母さん。


「なんで!?お母さん、瓜生先生の事好きなんでしょ!?何でそんな事言うのよ」


つい口調が強くなってしまった。私の追求に困った顔を浮かべているが、そんな事は知った事ではない。


「私は絶対に嫌だからね。お母さんが我慢するのを見るのは!!」


お母さんの態度に、つい自分の感情が抑えきれなくなってしまった。その理由が何故だか自分でも分からないが、この件に関しては私は間違った事は言ってない。


お母さんは小さく溜息を吐くと、キッチンに戻って行く。

私はソファーに膝を抱えて座り、やり場のないこの感情をどうにか落つけようと目を閉じた。



「ただいま」


「優君、お帰りなさい」


優さんが帰ってきた様だ。いつの間にかそんなに時間が経っていたらしい。


「小春ちゃんただいま」


声をかけられたが返事をせず、優さんをじっと見る。私の視線に彼が怯んでいる様に見えた。

優さんとお母さんは視線を交わした後、肩を竦める。その態度に抑えてきた怒りがまた込み上げてきた。


食事中は教育実習の話題で持ちきりだった。

私としては今一番聞きたくない話だっただけに益々自分が不機嫌になっていくのを感じた。


お母さんは笑顔で優さんの話を聞いていたけど、そんなお母さんの態度もイライラに拍車をかける。


お母さんが納得してるとしても、あのひとには優さんは絶対に渡さない。


お母さんがダメなら私が・・・。違う、そうじゃない・・・私は咄嗟に浮かんだ考えを急いで頭の中から追い出す。


二人の会話はまだ続いていたが、そんな私の耳には何も入ってこなかった。

読んでくださってありがとうございます。ブクマ・感想・評価、とても励みになっております。誤字脱字報告ありがとうございます、本当に助かっております。皆様、これからもどうぞ宜しくお願い致します。

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