不機嫌な小春
午前中の授業を終え職員室に戻る。担当教師の隣に用意された折りたたみのパイプ椅子が実習生の席となるわけだが、広くない机を二人で使う形となる。
自然と僕と神谷先生の位置も近づく事となるわけで、何とも居心地が悪い。
「あれ?優先生ってお弁当持参なんですか!?」
目敏く僕の弁当に反応する神谷先生。
「ここ最近は弁当を持参しているよ」
あまり追求して欲しくないので素っ気なく返したのだが、どうやら彼女はそんな僕の心境を無視してさらに踏み込んでくる。
「彼女遂にできたんですか?どんな人ですか?」
「いや、彼女って訳ではないよ」
そう言って苦笑する僕。
「彼女じゃないのにお弁当作ってくれるんですか?そんなのどう考えてもおかしいです」
彼女の追求は止まらない。どうしたものかと困っていると、失礼しますとの掛け声と共に職員室の扉が開く。
入室してきたのは小春ちゃんだった。職員室を見渡している彼女と目が合う。
一瞬彼女の顔が歪んだ様な気がした。彼女は直ぐに僕から視線を外すと、益田先生の元に向かって歩いて行く。
彼女は益田先生にプリントを渡すと、僕を睨んで職員室を後にした。
その様子を僕の隣で見ていた神谷先生が急に笑い始めた。
「優先生、モテモテですね」
「そういうのじゃないからからかわないでくれ」
軽口を叩いているものの、どこか寂しそうにする彼女。
僕はそんな彼女の様子に気がついてないフリをして昼食を食べ始めた。
午後も午前中と同じ様に担当クラスで神谷先生に自己紹介してもらったのだが、聞かれる事は午前中と似た様なものだった。
相変わらずの彼女の態度に辟易しつつも、その表情が午前中より少し元気がない様に思えた。
そうして、あっという間に彼女の実習初日の授業は終わった。
「神谷先生、明日からは授業をお願いする事になります。放課後は簡単な授業についての打ち合わせと反省会を行います」
「はい!! 手取り足取りお願いします」
放課後に予定していた内容を告げると、彼女は相変わらずの返事をしてきた。
本当に真面目に実習する気があるのだろうかと疑いの目を向けたくなるが、表情に出す事なく何とか取り繕う。
「では早速始めます。神谷先生、今日の自身の行動について反省する事はありましたか?」
「特に無かったと思います」
予想もしなかった答えが返ってきたので、思わず固まってしまった。
「生徒とのコミュニケーションも大切ですが、今日のは度が過ぎていた様に感じませんでしたか?」
「あれぐらいであれば問題ないかと思います」
「いいえ、流石にあれはやり過ぎです。明日からは余計な質問に答えないで下さい。いいですね?」
「それは、明日になって「いいですね」」
彼女が反論しようとしていたので最後まで言わせず念押しする。
「もう、分かりましたよ」
そう言って不貞腐れる彼女。全くこの子は少しは成長したかと思えば相変わらずじゃないか。
僕は小さく溜息を吐き、反省会と明日の授業の段取りについて説明して帰宅の途についた。
「ただいま」
「優君、お帰りなさい」
いつも通り雪さんが玄関まで出迎えに来てくれた。
これだけで一日の疲れが癒えた様な気になる。
リビングに入ると、そこには不機嫌さを隠そうともしない小春ちゃんがソファーに座っていた。
「小春ちゃんただいま」
「・・・・・・」
どうやら僕に対してまだ怒っているらしい。
雪さんに視線を送ると彼女も肩を竦め小さく溜息を吐いた。
「小春、いい加減にしなさい。優君も帰ってきたからご飯にするわよ。いつまでも不貞腐れてないで少しは手伝いなさい」
「・・・・・・」
雪さんが呼びかけても、ピクリとも動かない。
「雪さん、手を洗ったら僕が手伝うから」
「優君は無理しないで。今日から実習始まったからいつもよりも疲れてるでしょ?」
確かに気苦労があった分、いつもよりも疲れている。
だからと言って、雪さんに全てやらせるのも気が引けてしまったので、手を洗って夕食の準備を手伝った。
とは言っても料理を運んで、ご飯をよそっただけなのだが。
「「いただきます」」
小春ちゃんはかなり機嫌が悪い様で、いただきますも言わずに食事を開始する。
そんな態度を見かねた雪さんが叱ろうとするのを視線で制止した。
「それで優君、担当する学生さんはどんな感じの人なの?」
雪さんは悪気なしに尋ねたつもりだろうが、その問いのせいで室内の温度が数度下がった気がした。
「神谷って言う昔の教え子だよ。在学中はかなりの問題児だったんだけど、まさか教師を目指してるとは・・・いや、そこまで意外でもないのかもしれないな」
「へぇ、優君に憧れて教師目指してたりするのかしら?」
黙々と食事をしていた小春ちゃんが鋭い視線を僕に飛ばしてきた。
「う〜ん、どうだろうね?多分違うんじゃないかな・・・」
僕はその話題については曖昧に返事するしかなかった。
「そんな事ないよ、きっとそうに違いないわ」
雪さんは目を輝かせてそう言ってくるのだが、小春ちゃんの視線が気になっている僕はつい無言になってしまった。
無言を肯定と捉えた雪さんはニコニコしながら食事を再開する。
その日の夕食はしっかり味わう事も出来ず、なんとも味気ないものとなってしまった。
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