教育実習、それは波乱の幕開け!?
「それでは本日より学園にて教育実習を行っていただく実習生の皆さんに自己紹介をしてもらいます」
益田先生から促されて、実習生の自己紹介が始まる。
殆どが見覚えのない卒業生であったが、見覚えのある中に意外な人物を見かけた。
そうか、彼女も教師を目指しているのか・・・。在学中の彼女を思い出していると、自然と苦笑が漏れてしまう。
僕が過去の思い出に浸っている間も自己紹介は進み、次は件の彼女の番になった。
「神谷夕凪です。在学中は先生方に沢山のご迷惑をおかけしました。私を変えてくれた先生方の様になりたくて教師を目指してます。これから二週間、ご指導ご鞭撻の程宜しくお願い致します」
そう言った彼女は僕と目が合うと柔らかな笑みを浮かべた。
「神谷先生の担当は瓜生先生にお願いします」
「はい」
自己紹介もひと段落したので、神谷が僕に近づいてきた。
「優先生、ご無沙汰してます。これから二週間宜しくお願い致します」
「神谷先生、昔から言ってると思いますが、僕の事は名前ではなく苗字で呼んでください」
そう言って彼女をまじまじと見る。卒業してから三年の月日が経った事もあり、彼女は大人びていた。
背中まで伸びた真っ直ぐな黒髪。昔あった険が取れて、親しみやすい雰囲気に変わっていた。
「それは距離が遠くなった感じがして嫌です。断固拒否させていただきます」
僕は溜息を吐く。三年経っても相変わらずか。さっきの挨拶で少しはまともになったと感心した僕が間違っていた様だ。
「生徒にも影響したらいけないので、そこはちゃんとして下さい。神谷先生も何が目的でここに来てるのか自覚して下さい」
少し説教っぽくなってしまったがこれも仕方ない事だろう。
「分かりました、分かりましたよ。もう、瓜生先生は相変わらずですね」
そう言って僕の耳に顔を近づけ周りに聞こえない様な小さな声で囁く。
「先生、これから二週間手取り足取り色々教えて下さいね。あと、もう私は生徒じゃありませんからね」
そう言って小悪魔の様な笑みを浮かべる彼女。その笑顔を見た僕は、これから二週間何事も起きない事を祈るしかなかった。
「本日より二週間、教育実習で皆の授業を担当してもらう神谷先生だ。次回からは神谷先生に授業をお願いするから皆もそのつもりで思っていて欲しい。それでは神谷先生、自己紹介をお願いします」
「神谷夕凪と申します。一応この学園の卒業生で皆さんの先輩になるわけですが、出来たら距離を置かずに仲良くしていただけると嬉しいです。至らない点もたくさんあると思いますが、宜しくお願い致します」
「それでは授業を始め「ちょっと待ったー」」
授業を始めようとした僕を制止する声。一人の男子生徒が突然席を立つ。
「瓜生先生、新学期最初の授業なんだからいきなり授業じゃなくて折角なんで神谷先生に質問する時間ぐらいくださいよ」
隣にいる神谷を見ると、彼女は嬉しそうに首を縦に振る。
これも生徒と仲良くなってもらう為には必要か。僕は仕方ないとその提案に了承する事にした。
「はい、それじゃ私に質問のある人は手を挙げて」
その呼びかけと共に一斉に手が挙がる。席次表を見ながら生徒の名前を呼んでいく。
「神谷先生、趣味はなんですか?」
「料理を作る事かな。こう見えて友達からは料理上手って言われてるの」
「神谷先生、彼氏はいるんですか?」
おいおい、最初から踏み込んだ質問をしてくるな。これはまずいと思い制止しようするがそれよりも早く彼女が答える。
「彼氏は居ないけど、好きな人は居るわ」
おお〜と方々から声が上がる。
「先生、その人は大学の先輩?同級生?それとも後輩ですか?」
「どれも違うわね。もっと年上の人よ」
そう言う彼女が一瞬こちらを見た様な気がした。年上が好きなのかと漏らしながら項垂れる男子生徒。
「おい、これで質問の時間は終わ「神谷先生はなんで先生になろうと思ったのですか?」」
僕の呼びかけを遮ったのは、小春ちゃんだった。しかも何故か、目が座っていて声もいつもより低い気がする。
「ん〜、それはね。私って実は昔はそこそこ問題児だったのよ。そんなどうしようもなかった私が勉強の楽しさを教えてくれる先生と巡り会えてね。その先生の様に私もなりたいと思ったのがきっかけかな」
そう言った彼女は僕の方を見た。僕は答えに窮してしまい、苦笑いを浮かべるしか出来ない。
そして小春ちゃんの追撃はまだ続いていた。
「神谷先生の好きな人って何してる人なんですか?」
小春ちゃんが先程の話題をぶり返してきた。
「教師をやっているわね。その人に近づきたくて私も教師を目指してるの」
そう言ってもう一度僕を見る神谷。その言葉と彼女の行動のせいで、教室内が一気に色めき立つ。
「神谷先生も名取さんもいい加減にして下さい。皆も静かに、他のクラスの迷惑です」
僕はそう言って皆を一喝する。
「無駄話はこれぐらいにして授業を始めます。神谷先生は後ろで見ていていて下さい」
彼女は素直に教室の後ろに移動して僕を見ると小さく舌を出す。
その顔が悪戯に成功した子供の様に嬉しそうだったのを見て、僕は小さく溜息を吐く。
何気に小春ちゃんの方を見れば、そっちはそっちで不機嫌そうな顔を隠そうともせず、何故か僕を睨みつけている。
その原因が、質問を途中で止めてしまった事なのか名指しで注意した事なのか分からないが、時間も押しているので考える事を放棄した。
僕はとりあえずそんな彼女を見なかった事にして授業を始めるのだった。
最近更新が止まってしまっていて申し訳ございません。
楽しみにしてくださってる方々にご迷惑をおかけしてます。不定期更新となりますが、これからもどうぞ宜しくお願い致します。
読んでくださってありがとうございます。ブクマ・感想・評価、とても励みになっております。誤字脱字報告ありがとうございます、本当に助かっております。皆様、これからもどうぞ宜しくお願い致します。




