★Koharu’s point of view2
今日は以前から約束していた三人で出かける日だった。
お母さんは優さんの変装の真っ最中らしく先程から二人の話し声も聞こえてくる。
やっと支度が終わり、リビングに向かおうとしたタイミングで私を呼ぶ少し間延びした声が聞こえてきた。
「小春〜、ちょっと来て〜」
部屋からリビングに向かうと、そこには金髪で髪の長い、いかにも怪しい雰囲気の優さんがいた。
彼と目が合った瞬間、私はドキッとしてしまった。
普段は少し気怠そうにしている優さんが、鋭い眼光をしていたのだ。
見つめられて何故か恥ずかしくなり目を逸らしてしまった。
変に思われてないだろうか?少し心配になった。
優さんは元々顔立ちも整っているがやる気のない雰囲気が彼の魅力を著しく落としている。
もし、普段からこんな目をしていたなら、生徒から人気が出ていただろう。
まぁ、金髪であの髪の長さは、ちょっとあり得ないセンスだけど・・・。
三人で出かけた先のショッピングモールはとても大きな施設だった。
沢山のお店が入ってて、目移りしてしまう。隣を見ればお母さんも私と同じ様に辺りを見回していた。
そんな姿を見て、こういうところは本当に子供だなと思わず笑みが溢れてくる。
真っ直ぐ進んでいると、私とお母さんの大好きなブランドのお店が視界に飛び込んできた。
私とお母さんは昔からよく二人で買い物に出かけたが、服を買うときは決まってこの店だった。
お母さんもやっぱり気になったらしく私と同じ様に一瞬足を止めていたが、すぐに歩き出した。
今日は私達が洋服を買うのが目的だったのだが、優さんの負担にならない様に低価格の洋服にしようと事前に決めていたのだ。
あのブランドは値段もそれなりなので、今の私達には手が届かないと後ろ髪を引かれる思いでその場を後にする。
そんな事を考えてると急に肩を掴まれる。突然の事にびっくりして振り返ると優さんが、さっき見た様な鋭い目つきをしていた。
「二人とも待って。さっき通った店の服が二人に似合うかな?って思ったんだけど。時間もあるから少しだけ覗いてみない?」
今まで歩いてきた中で、そんなお店はあっただろうか?折角私達の為にと言ってくれてる状況で断るのは気が引けたので了承する事にした。
優さんが止まったのは、私とお母さんの大好きなブランドのお店の前。
「「えっ!?このお店・・・」」
思わず漏れた感想まで一緒だった。どうしてこのお店を選んだのだろう?私の頭の中は混乱していた。
店内に入ると、店員さんがすぐに寄ってきた。お母さんがやんわりと接客を断ってくれたので暫くはゆっくり店内を見て回れたのだが、この幸せは長くは続かなかった。
ここは私達がよく行っていたお店より店員さんがしつこかったのだ。
鬼気迫るものを感じた事もあり、お母さんも私もとうとう断りきれなくなってしまった。
私達二人はその後着せ替え人形の如く、何度も着替えさせられたのだけど、店員さんがオススメしてくる物はどれも高いものばかりだった。
可愛いとは思うものの、こんな物を買うわけにはいかない。
優さんは多分このお店で私達に買ってくれるだろうと予想し、念の為に比較的安い洋服で気に入った物を頭に留めておいた。
そんな私の予想は半分正しかった。遠慮して上下一着ずつ選んだ私達だったのだが、どうやら優さんはもっと買ってくれるつもりだったらしい。
遠慮した私達の思惑に気づいて、勝手に店員さんに見繕ってもらうという暴挙に彼は出たのだ。
どうせ買ってもらえるなら、自分の好きな服が良かったと自分本位な考えが頭を過ぎったが、流石にそれを言うのは憚られた。
ところがここで意外な事が起きた。店員さんの選んでくれた洋服は私が欲しかった物ばかりだったのだ。
このお店の店員さん・・・すごくしつこいけど仕事が出来る人達だった。
私は店員さんに心から感謝し、いつか自分で買える様になったらまた来ますと心に誓った。
その後は、ランジェリーショップに行った。お母さんが優さんを店内に誘ったが流石に断られていた。
そのやり取りが長く続いたせいもあり、店員さんが近づいてきたのだが、ここで問題が起きてしまった。
優さんの視線がその店員さんの胸にいったのをお母さんは見逃さなかったのだ。
昔から胸に対してコンプレックスがあるらしく、その優さんの悪気のない行動を見て一瞬で不機嫌になったのが分かった。
私のフォローの甲斐もあって、お母さんの変化を優さんに気づかれる事なくお店に入り買い物を無事済ませた。
店を出ても機嫌が治らないお母さんの手を私は引きながら、昼食を取る予定のお店に向かって歩く優さんの後を追った。
こちらを振り返り苦笑する優さんは多分お母さんの機嫌を損ねた理由が自分にあるとは露とも思っていないのだろうな・・・。私は人知れず溜息をついた。
着いた先は、ビュッフェスタイルのお店だった。料理の種類も多くどれもとっても美味しかった。
気疲れしていた私は自分を癒す為、食事を楽しんだのだけど、午後の予定について突然話を振られた。
「お母さんの行きたいところでいいよ」
まだまだ食べてみたい料理があった私はそれだけ言うとすぐに席を立ち料理を取りに行った。
結局午後の予定はこれといって決まらず、ここに来る途中にあった雑貨屋さんに行く事になった。
可愛らしい親子猫のマグカップを見ていたら、優さんが横からそっとカゴに入れてくれた。
自分からは欲しいとは言えなかったから、本当に嬉しかった。
この人は事あるごとに、私達の気持ちに気付いてくれる。
もし私にお父さんがいたらこんな風だったのかな?と想像しながら、心の中で優さんにお礼を言ったのだった。
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