盛岡三大麺・『盛岡じゃじゃ麺』(盛岡探訪、後編)
午後のショッピングと観光を終えた私達は、『盛岡じゃじゃ麺』を食べにやってきました。
目的の場所は『白龍』と書いて「パイロン」と読むじゃじゃ麺発祥のお店。
県庁庁舎と新聞社のビルの隙間に、大きな赤い鳥居のある通りにひっそりと立っていた。
けれど昼時でもないのに行列ができているのにはビックリ。地元の人やパンフレット片手の観光客が多いみたい。
「並んでる!」
「三時半なのにね」
「人気店だからなぁ」
私と夏香ちゃんは『盛岡冷麺』に続いて食べる名物の麺がとっても楽しみ。冷たいパフェやアイスもいいけれど熱い麺にあえて挑戦したい。
少しだけ待つことにする。日差しはまだ強いけれど神社の「鎮守の森」や街路樹があるせいか、そんなに暑いとは感じない。
やがて店内へ。胡麻とニンニクの香り。左側に細長くて狭い厨房があり、忙しそうに麺を茹でている。席はカウンターが十席に、テーブルが3つほど。とても狭いという印象。
一番奥のテーブル席に通される時にちょっと横目でチラ見する。店内ではお客さんがみんな同じものを食べている。浅い大皿の上に、茶色い「味噌うどん」のような食べ物をすすっている。
あれが『盛岡じゃじゃ麺』なのね……。
少なくとも「お上品」なものではない感じ。ちなみにパンフレットには盛岡冷麺と同じように解説があった。
第二次世界大戦の旧満州に移住していた白龍の初代店主の高階さんが、満州で味わった「炸醤麺」を元に終戦後に盛岡で屋台を始めたのが始まりだとか。つまり中華料理がルーツの麺みたい。
メニューは……「じゃじゃ麺」「チータンタン」というシンプルさ。水餃子もあるけれど実際その他のメニューは置かないという潔さを感じる。
「ハルと夏香ちゃんは小盛りがいいよ。中でも多いから」
麺の量は、大中小とあるみたい。
「うん、小でいい」
「わたしも」
親切な店員さんに注文、雪姉ぇが中、私と夏香ちゃんが小を注文する。
「ちーたんはどうしますか?」
ちーたん、可愛い女の子みたい。なにそれ?
「食後の卵スープだよ。生卵平気?」
「あ、平気です」
「わたしも!」
「よし、食べようか」
何やら食後のスープ、ちーたんも注文する。メニューをよく見るとじゃじゃ麺が500円ぐらい、ちーたんが100円。
まっている間、店内を観察。どうやら『じゃじゃ麺』が出てくると「混ぜる」みたい。
カウンター席の観光客らしい若夫婦が、食べ方に困惑しているとお店の人が「薬味を入れて、混ぜて、混ぜて!」と説明を受けている。どことなくアジアの屋台料理みたいな感じ。
やがて10分ぐらいで麺が出てきた。
熱々らしく湯気が立っている。
「わぁ……!?」
「なんかミートソースぽい?」
「よし、熱いうちに食べよう!」
確かにミートソースパスタに似ていなくもない。
見た目はすごくシンプル。茹でた白いうどんみたいな平たい麺の上に、キュウリの細切り、それに茶色い味噌みたいなものが載っている。肉味噌の頂上にはちょこんとすりおろした生姜。平たい白い皿の端っこには紅生姜の切れ端が。
まさに味の想像ができない謎の麺。
「またしても具材にキュウリ……」
「盛岡の人はキュウリ好きなのね」
香りはニンニクと味噌の香り。他のお客さんがやっていたように、テーブルの上にあるラー油、ニンニク、酢をお好みでかけて……。
混ぜる!
ぐちゃっ、ぐちゃと混ぜる。
地元っぽいお客さん達は皆、慣れた手付きで混ぜまくっていたので、この作法が正しいはず。
そして、いい具合に混ざったところで、ちゅるっ……と麺をすする。
「……んっ、んん!?」
「はぁー? なるほど、んん?」
舌がちょっと混乱している。麺は熱々で柔らかいうどんみたい。ラー油の辛さでぴりっとして、生姜の香りが広がる。そして深みのある味噌の味がして、次に肉味噌の濃厚さが舌を覆う。すると次にニンニクの香りが残る。
唯一の具であるキュウリはシャキっとした食感と風味を添えてくれる。
単純に見えたけれど、なんだかとても複雑な味。
例えるなら「汁なし肉味噌うどん、ニンニクラー油味」ってそのまんまか。
「おぉ、けれどなんだか箸が止まらない!」
「やばい、結構好きかも……」
ここは乙女の恥じらいを捨て、ズビー、ズビッとすする。
「これも他には無いなぁ……クセになる」
雪姉ぇが気合を入れて髪を結う。冷麺のときには見せなかったうなじを晒す。
気がつくと汗が吹き出してくる。ニンニクと唐辛子の辛さか、意外と辛くて全身から汗が出てくるのがわかる。
これは、乙女が食べて良いものなのかしら。私は関係ないけれど、お化粧とか崩壊しそう。
「熱いけれど美味いね!」
「だね! おいしい」
お腹いっぱいに食べて、嬉しい言葉が思わず口をついて出た。
そういえば、卵スープは?
気がつくと、テーブルの上に卵が乗っていた。かごに入った卵がゴロゴロと。
「雪姉ぇ……これ? まさか」
こんこん、と隣のテーブル席で音がした。見ると卵を自分で割って、食べ終えたじゃじゃ麺のお皿に中身を落とす。
「な、なんですと!?」
「自分で卵を落とすのね」
私達も見習って卵を割って、お皿に落とす。お皿は肉味噌で汚れているけれど、他のお客さんも皆一様に食べ終えた皿に入れている。
なんだが微妙な見た目です。
箸で軽くかき混ぜて、隣の席のおじさんが「ちーたんお願い!」と言う。
店員さんがさっと寄ってきて、皿を受け取り厨房へ。厨房の中では生卵入りの皿にスープ(お湯かな?)を入れて、味噌を入れて(これも麺と同じものっぽい)ネギを散らして、終わり。
30秒ぐらいで元の席に皿を持ってきた。
「な、なるほど」
とっても面白いセルフなシステム。私達も「ちーたんを!」って頼むと同じように卵スープが出来上がってきた。今度はレンゲもついている。
スープはシンプルだけど口当たりがまろやかで美味しい。
卵が程よく半熟に溶けて、白湯スープっぽい。
「あぁ……口の中の混乱がおちつくね」
「口なおしにちょうどいいのね」
「いろいろと面白い麺ばかりだったね」
◇
帰り道、窓を開けた車中から、ひぐらしの声を聞く。盛岡の市街地を抜けると、すぐに田園風景が広がりやがて山あいの道へ、そして山里の風景へと変わる。
挑戦しきれなかった「わんこそば」はいつか、家庭科部の合宿かなにかで来ればいいよね! と、夏香ちゃんと話し合う。
夏はまだこれから。
次はどんな味と出会えるのかな?
こうして――
盛岡三大麺の内のふたつを攻略した私達の盛岡の旅は幕を閉じました。
<つづく>
★盛岡じゃじゃ麺は好き嫌いが分かれますが
ハマるとかなり癖になります。
しかも発熱と発汗作用の強いこと。
風邪のひきはじめにガッツリ食べると風邪が治りますw




