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盛岡三大麺・『盛岡冷麺』(盛岡探訪、中編)

 盛岡冷麺(もりおかれいめん)を食べると決めた私達は、お店へと向かう。


 私が想像するのはやっぱり「冷やし中華」で夏の味。細切りにしたハムやキュウリ、それに金糸卵と紅生姜が上に乗ってゴマ味の中華タレがかかっているやつ。

 あぁ夏はやっぱり冷やし中華よね。


「で、冷麺って冷やし中華のことだよね……?」


 私は雪姉ぇにたずねた。


「うんにゃ。違うよ。多分、ハルが想像しているのとは別物だけど、まぁ食べてのお楽しみ」

「そうなんだ。冷やし中華と違うんだね」

「私も盛岡冷麺って食べたことないよ」

 夏香(なつか)ちゃんも首を振る。

 盛岡冷麺(もりおかれいめん)は中華料理屋さんやラーメン屋さんではなく、焼き肉屋さんで食べるのだという。けれど、盛岡って枕詞が付くってことは何か個性が強い麺なのかしら?


 やがてお店についた。有名な焼肉屋さんらしく店構えはとても綺麗で立派。外には肉の焼けるいい匂いが漂ってくる。焼肉食べたい……。ていうか麺だけ頼んで食べても良いものなのかな?


 店に入ると間仕切りのあるとても綺麗な店だった。昼時でお客さんも多いけれど、無煙グリルのあるテーブル席へと通された。

 早速メニューを開く。メニューにはカルビやホルモンといったおなじみの焼き肉メニューの他に、ちゃんと「盛岡名物・盛岡冷麺」とあって、写真も載っている。

 見た目は冷やし中華っぽいような、違うような?


「焼肉屋さんで麺だけ注文しても大丈夫なの?」

「もちろん。別に盛岡では冷麺だけ注文するのは普通だよ。あハルは……肉も食いたいか?」


 雪姉ぇがメニューを広げてニコリ。うまそうなお肉の写真に心がぐわんと動かされる。ぐぅとお腹も鳴く。


「……うん」

「た、たべたい」

「カルビ、タン……」


「ま、まって! やっぱりやめる」

「ハルちゃんどうしたの!?」

「できれば白いご飯も……って思ったけれど、ここは冷麺だけで我慢だよ、夏香(なつか)ちゃん! ぜったい炭水化物とりすぎだよ」

「う……ぐぐぅ、焼き肉とご飯って思ってるのはハルちゃんだよ!」


 これから夏はまだ続く。デブ活部と揶揄される『家庭科部』の汚名返上のためにも、これ以上は太れないわ。


「やっぱり冷麺だけにします」

「やれやれ。我慢しなくていいのに」


 焼き肉と白飯さらに冷麺って、いくらなんでも食べ過ぎよね。

 結局3人で冷麺だけを頼むことに。向かい側の席でも冷麺だけをすすっている。


 可愛い店員さんがやってきたので、雪姉ぇが冷麺を注文する。


「えぇと、冷麺みっつ」


辛味(からみ)はどうなさいますか?」

「別で」

「かしこまりました」

 辛味は別って、そういう注文方法みたい。多分、自分で辛さ調節が出来るみたい。メニューにも「辛味は3段階・別も可」とある。


 しばらくすると、盛岡冷麺がやってきた。


「わぁ……!?」

「あ……ぁ?」


 大きな白い陶器の器に、透明なスープ。

 スープはやや黄金色で透き通っている。脂は浮いていない。

 麺は白っぽくて半透明。驚くほど太い。パスタの極太麺みたい。


 以前、韓国の冷麺を食べたことがあるけれど、あれは銀色の器に入った、茶色くて細い麺だった。ドングリの粉がまじっているとかなんとか……。でもこっちは太い白い麺で明らかに違う。


 そして、驚くべきは上に載っている具材だった。

 チャーシューみたいなお肉、それに薄切りキュウリ。更にスイカを三角形にカットした物が載っている。

 麺に……スイカ。


「てか、スイカって何!?」

「へぇ! これが盛岡冷麺……すごい!」


 なんか想像してたのと違う。そして「辛味」というのはキムチ。細かいキムチと真っ赤な汁が小皿に別で運ばれてきた。


「い、いただきます……」

「初めてだけどだいじょうぶかな」


「ふふ、まぁ食べてみて。あ、まずは最初にこれを……」


 なんと雪姉ぇはテーブルにおいてあった「酢」をふた回しほどダバダバと入れた。


「なんで酢!?」

「それも入れたほうがいい?」


「まぁこれはお好みで。あとは辛味を」


 スプーンで3杯ほどキムチ汁を麺に入れて、軽くかき混ぜる。透明なスープが赤く染まる。なんというか、中華そばやラーメンとも別次元の食べ物なのは明らかだった。

 具材から食べる前の作法も、何もかも新鮮。

 

 辛味はお好みで、最初は入れなくても良いみたい。まずはスープを一口。


「あ……! これ、牛テールスープなんだね」

「うん! 冷たくて美味しい!」

 スープはよく冷えた牛テールスープみたいな味。説明書きにも野菜と牛骨ベースの特製スープとある。透明感のあるスープは見た目よりもずっと味が濃い。


 そしていよいよ麺をすする。

 とても太いので、まずは五本ほど箸でつまんで口に運ぶ。


「…………っ、んっ……ンッ!?」

「ちょ……固くない!?」


 か、噛み切れない!?

 弾力がすごくて歯で「切断」するとようやく切れた。


 雪姉ぇを見ると噛み切らずにするするっと、二、三本づつ口に入れて、つるつると飲み込んでいる感じ。

 なるほど、切らずに少しずつ飲み込むのと良いのね。


 食べ慣れてくるととても美味しい。冷たい中華そばとは全くの別物で、他の街や店で出てくる「冷麺」ともまた違う。


 チャーシューは柔らかくて味が濃い。キュウリも一緒に食べると味と食感に変化も出る。ちょっとスイカが邪魔だけど……。

 そしてキムチ汁を少し入れて味を変えると、ピリ辛でまた別の味わいに。


「美味いだろ? 辛味は……全部入れてスープも飲む!」

 ドバドバと雪姉ぇは豪快に残りの汁を投入。スープの色は真っ赤だけどレンゲで豪快にぐびぐびと飲んでいる。それに比べてわたしと夏香ちゃんのスープは、ほんのりキムチ色づいている程度。けれど十分ピリ辛です。

 やがて麺をほぼ食べ終えたので、私も辛いスープを飲む。


 冷たい牛骨スープが美味しくて、辛味も良い。癖になりそう。

 そして舌が辛くてぴりぴりになったところで、スイカに挑戦。シャクッとスイカを口にすると、夏特有の甘みが口いっぱいに広がった。

「あ……なるほど! 甘くて……いい!」

「シャキシャキして美味しいね」

「うん」

「口直しになるのね」

 辛いスープを飲みながら、キュウリをポリポリ。そして最後は甘いスイカで口直し。なるほど、だからこの組み合わせなのね。納得です。


 食べ終えてとても満足。とても珍しい麺で癖になる美味しさ、という印象。

 ラーメンも無限の種類があるけれど、これは完全に違う種類の食べ物ね。


「けれど、なんで盛岡だけこんな麺があるのかな?」

「岩手でも他ではこんなの無いよ。不思議よね」


 すると雪姉ぇが周りを見回した後に、前かがみになって声を潜めた。


「『盛岡冷麺』は、実は『平壌(ピョンヤン)冷麺』がベースになってるんだ」


「ピョンヤン」

「ピョン……あ、北朝鮮の」

「しっ! 声が大きい」


 なんだかヤバイ話なの!?


 と思ったら、メニューの裏側に写真入りで説明があった。

 なんでも在日朝鮮人の麺職人・(よう)さんが、昭和の戦後間もない昭和29年に「食道園」というお店を開いた時に、朝鮮半島に伝わる伝統冷麺と平壌冷麺を融合させたものなのだとか。

 それが大人気となり、街全体の看板メニューになった。ということらしい。


「さて、午後はまた買い物にいこうか。そんで小腹がすいたら今度は『じゃじゃ麺』も味わってみないか?」


 そういえば『わんこそば』『盛岡冷麺』の他にまだひとつ、盛岡三大麺があった。


「『じゃじゃ麺』って、やっぱり個性が強い?」


 盛岡冷麺がこれなら、きっと一筋縄ではいかなさそうな気がします。


「そう、冷麺とは対極の『濃さ』と熱さがおいしんだよ」

「えー?」

「大丈夫かな」

「大丈夫だいじょうぶ。初心者でも安心、小盛りもあるからおやつ感覚でいけるから。まぁ盛岡でしか食べられないから、話のネタに」


 雪姉ぇが何かの勧誘みたいに笑顔で誘う。

 なんか初心者(・・・)でも大丈夫とか言う辺り「濃い」予感しかしませんけど。


「ハルちゃん、ここはもう腹を据えて味わっていこうよ!」

「きゃん、お腹をさすらないで!?」


 夏香ちゃんが私のお腹をするすると撫でた。


<つづく>


★ハルちゃんたちは冷麺だけ食べましたが、

 盛岡の人は「焼き肉とライス、そしてシメに盛岡冷麺」が鉄板のコースです。

 腹が限界を迎えますが幸せになれます♪


 後編は明日、15日に公開します。


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