ぶるーべりー(ブルーベリー)
ここ最近の日課は、早朝の庭に出ることです。
眠い目をこすり、髪も寝ぐせのまま。ザルを小脇に抱え、サンダルをつっかけてフラフラとまずは庭先へ。
足元の草や木の葉は朝露に濡れて光っている。思い切り澄んだ空気を吸い込むと、濃い緑の香りがした。
「ふぁ……」
天気は今日も快晴。
庭先から見える田んぼの稲は元気よく青々と育ち、山の稜線から昇り始めた太陽が、稲の草原に輝きを添えてゆく。
太陽光で動き出す体内時計の存在を感じながら、手に持ったザルを構え、いざ果樹園へ――。
雪姉ぇが譲り受けたこの古民家には、果樹がいろいろと植えてある。6月の終わりの今、真っ先に色づき始めるのは、青い果実のブルーベリー。
青紫の小さな果実は、ジャムやジュースなどでおなじみ。
ケーキに添えられていたりと親しんでいる果実なのに、意外と木になっているままの「実物」は見たことがなかった。
それが今、目の前にある。
「あ、今朝も色づいてるね!」
私の背丈ほどしかない株状になった低木には、小さな葉に隠れるように青い実が、沢山実っている。毎日少しずつ緑の実が色づき、徐々に青く色づいてゆく。
食べごろは青を通り越して、紫色になったもの。
けれどそこまで色が濃くなった果実をそのままにしておくと、落果してしまう。あるいは小鳥たちが「待ってました」とばかりに食べてしまう。
というわけで、収穫は朝が勝負!
雪姉ぇにそう言われ、こうして毎朝収穫をしているわけです。
ぷつぷつとつまむと簡単に手のひらに転がり落ちる。指先でつまめるほどの実は、小さめのミニトマトぐらい。
庭のブルーベリーは「ハイブッシュ」タイプの品種だとかで、実はこれでもやや大きめなのだとか。
「これも濃い紫ね。これと、これも」
ぽつぽつと、よく色づいた実を摘んではザルに入れる楽しい作業が続く。
柔らかい果実は弾力があり、ツルツルの表面には白い粉をうっすらと吹いている。
たまに我慢できず、一粒つまんで口に運んじゃう。
「んっ、おいし」
舌先でつぶすと、ぷち。と中から細かい種がこぼれて果肉と交じる。
甘くて、遅れてすこし酸味を感じて、そして香りが鼻にすっと抜ける。
けれど……実はそんなに「ブルーベリー」の香りって強くない。
ガムとか、ヨーグルトとか。あの「ブルーベリー」の香りって嘘なのね。
確かに「ほんのり」と果実の香りはする。けれど、お菓子やジュースでお馴染みの、あの強い香りじゃない。
私は初めて食べた時、少しがっかりした。
「味も香りも薄いね……」
「自然の味はそんなもんだよ。厚化粧になった芸能人みたいなもんだろ」
雪姉ぇは私の言葉を予想していたようにそういった。
「あー、なるほど」
そっか。
これが自然の、本来の味と香りなんだ。
人工的な香りは時に自然のものを越えるほど、強調しているものなのだと、この時初めて知った。
香料と甘みを増し、心地よく作られている。
そのほうが美味しいと感じるのだから、決して悪いことじゃないとは思うけれど……。
毎朝私は、こうしてブルーベリーを収穫する。
けれど朝摘みの果実こそが本物で、実は贅沢なものなんだ。
そう思うとちょっとだけ、優越感。
半分は冷凍して後でアイスやヨーグルト、ケーキなんかに使う。
半分は牛乳とミキサーに。朝はこれで美味しいブルーベリーミルクセーキが飲める。
――ギー! ギャー!
恨めしそうな声でヒヨドリたちが鳴いている。梢の上で、こちらの様子をうかがっている。
「怒らないでよー。君たちのも少しだけ残しておくから」
手の届かない枝の上の実はそのままに。
朝ごはんを楽しみにしているのは、私だけじゃないみたいだから。
<つづく>




