表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/38

しだみ団子(どんぐりの餡を使ったお団子)


 家庭科部――通称、家部(いえぶ)


 一部の中学校に普通に存在する部活なのに、よく『謎部』扱いされる。

 帰宅部以上文化部未満の活動を、ゆる~く行うクラブです。


 放課後お茶会クラブとか、放課後間食会とか、そんな呼ばれ方もするけれど、ちゃーんと活動はしています。


 五月の連休開けの今日は、どことなく皆ぼけーっとした顔をしている。


「連休何処か行った?」

「山形の方の温泉に」

「いいなー!」

 みんな連休の話題で盛り上がる。


 本日、調理実習室を占領しているのは7人の部活メンバーたち。


 三年生は美佳さん一人。二年生は私と夏香(なつか)ちゃん、そして中国(チャイナ)っ娘の(リン)ちゃんに、落ち着いた雰囲気が可愛いメガネっ娘の秋穂(あきほ)ちゃん。


 一年生はふたり。私とおなじショートボブの髪型が「姉妹?」と言われた奈緒(なお)ちゃん。日焼けした健康的な色合いの肌が眩しい、運動部っぽい美来(みく)ちゃん。


 みんなで長テーブルを囲み、緑茶を飲みながら座談会。

 長テーブル席の一番の上座に美佳さんが座り、左右に三人ずつの部員たち。なんだか秘密結社の会合みたい。


「ハルちゃんは連休後半、どこか行ってきた?」

 夏香(なつか)ちゃんが尋ねてきた。


 前半は夏香(なつか)ちゃんや他のクラスメイトと一緒に遊んだ。バスと電車を乗り継いで、盛岡までいって映画を見たりお茶をしてきたり。楽しかったな。


「後半は2日間だけ成田の方へ。お母さんとお父さんに会ってきたよ。連休中、日本にもどって来てたんだ」


「ハルさんのご両親って、海外で働いているんですか!?」

 二年生の間では既に知られている話だけれど、一年生は食いついてくる。


「すごい! ハルさん国際人なんですね!」

「いやいや、落ち着いて。私ここで普通に暮らしてるよね!?」


「ご両親はニューヨークとかロンドンとかですか!?」

「いや普通に、中国?」

 語尾がつい疑問系な私。このへんの方言って便利ね。

 ていうか、海外イコールパリとかニューヨークとかを想像されると何故か卑屈になる。もうすこし加油(ファイト)だよ中国。


(リン)ちゃんのお母さんの故郷だね」

「えへへ。北京の外れの田舎なんだけどねっ」

 笑うと可愛い鈴ちゃんは、八重歯がチャームポイント。黒いロングヘアをいつかお団子ヘアにしてあげたい。


「うちの親は、四川省のどこかなんだって」

「そのへん、ここと変わらない田舎だよっ」

「そ、そうなんだ……」


 大人になると会社に「いけ」と言われると「はい」って言うしか無いんだね……。


「中国といえば中華ね!」

「中華まんたべたい!」

「美味しい本格的な麻婆豆腐がいい!」

「この人数なら円卓を囲んで北京ダックだよっ!」


 一瞬で食べ物の話に方向転換。中華(・・)というワードの威力は凄い。


「あ、そうだ今日は差し入れを持ってきたよ!」


 話が盛り上がってきたところで、三年生の美佳さんが紙袋をテーブルに乗せた。

 美佳さんは背が小さくて一年生と並んでも違和感がない。とってもチャーミングな明るい人。


 差し入れ!?

 食べ物だ!?

 飢えた視線が集まる。まったくみんな腹ペコすぎる。


「昨日ね、親戚の家に遊びに行ってね。海の方の野田村ってところなんだけど……。そこでお団子をもらったんだ」


「お団子!」

「お茶にちょうどいいね!」

「あ、お花見だね!」


 時間は午後3時半。

 外は気持ち良い五月晴れ。

 水を張った田んぼの畦には、鮮やかなタンポポや菜の花が色を添え、赤や青の家々の屋根が午後の光を浴びて輝いている。


 開け放した窓から見える風景は、のどかそのもの。新緑に包まれた低い山々がなだらかで、淡い空色が何処までも続いている。

 お花見という言葉通り、山桜や遅咲きの八重桜が、山間や家々の庭先で濃いピンク色の花を咲かせている。


「これ『しだみ団子』っていうんだって。すごい珍しいの」


 美佳(みか)さんがのんびりした口調で、ゆっくりと包みを解く。


「『しだみ団子』?」

「なにそれ?」


 美佳さんが紙袋を開けて、お菓子が入っている箱の蓋を持ち上げた。中身は12個入り。見た目は丸くて白いお団子で、串には刺さっていないので「お饅頭」といった感じ。


 でも、『しだみ』って何?

 流石の夏香(なつか)ちゃんも「知らない」といった顔。


「どんぐり」


「どんぐりって、あの……『ドングリ』?」

 秋にコロコロ転がっている可愛い帽子付きの木の実。


「そうなんだってー! 向こうの呼び名でドングリは『しだみ』なんだって」


 珍しさに驚きつつも、さっそく一つずつ頂いての試食会が始まった。


「「「いただきまーす」」」


 食べてみると、外はもっちりとした白い米粉の生地。茹でたのかな? とても弾力がある。そして問題の「(アン)」に到達する。

 見てみると黒ごまのような黒さ。質感は「こし餡」に似ている。

 これが『どんぐりの(あん)』なのね。

 お味は如何に?


「…………!?」

「おぉ……?」

「ぬ……う?」


 な、なんだろう。


 これは、本当に食べたことのない味。


「ハルちゃん、食レポを!」


「えぇ!?」

 夏香(なつか)ちゃんが私の肩を揺らす。なるほど、私の役目なのね。


「……うーん、なんていうか粗目の『こしあん』と、やや焦がした『栗』をすりつぶして混ぜて、甘さを削ぎ落としたような……。ちょっとほろ苦いけど素朴な……木の実?」


 んー? と目をつぶり、舌先で味わいながら思いつく言葉を並べてみる。


 美味しい。けれど本当に「これ以外無い」という不思議な味。


「おぉ……!」

「さすがハルちゃん!」


「何がよう!? 上手く言えないけど美味しいよ、でも……類似品が思い浮かばない」


「「確かに!」」


 美佳先輩も苦笑しつつ、余りはじゃんけんで分けようと提案する。


「ドングリは飢饉のときとかの救済食だったんだって。アク抜きを10回以上するみたいよ。そのままだと渋くて食べられないんだって」


「うーん、そうか。これは『渋み』なのね」


 なるほど、ほろ苦い大人の味わいというわけね。

 他の誰とも似ていない「孤高の味のお団子」かぁ。


 ……あれ? 私いま、上手いフレーズ思いついた?


<つづく>

【作者より】

 しだみ団子、あるいはしだみ餡のお饅頭は、

 主に県北の沿岸にある、野田村の産直などで売られています。


 ちなみに少し離れた内陸の九戸村の産直では、

 『しだみ饅頭』という名でドングリの餡100%の

 「おはぎ」に似た食べ物も売っています。

 見た目は泥団子(失礼w)にも思えますが、食感と味わいはかなり個性的。

 私は結構好きですよ★


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ