しだみ団子(どんぐりの餡を使ったお団子)
家庭科部――通称、家部。
一部の中学校に普通に存在する部活なのに、よく『謎部』扱いされる。
帰宅部以上文化部未満の活動を、ゆる~く行うクラブです。
放課後お茶会クラブとか、放課後間食会とか、そんな呼ばれ方もするけれど、ちゃーんと活動はしています。
五月の連休開けの今日は、どことなく皆ぼけーっとした顔をしている。
「連休何処か行った?」
「山形の方の温泉に」
「いいなー!」
みんな連休の話題で盛り上がる。
本日、調理実習室を占領しているのは7人の部活メンバーたち。
三年生は美佳さん一人。二年生は私と夏香ちゃん、そして中国っ娘の鈴ちゃんに、落ち着いた雰囲気が可愛いメガネっ娘の秋穂ちゃん。
一年生はふたり。私とおなじショートボブの髪型が「姉妹?」と言われた奈緒ちゃん。日焼けした健康的な色合いの肌が眩しい、運動部っぽい美来ちゃん。
みんなで長テーブルを囲み、緑茶を飲みながら座談会。
長テーブル席の一番の上座に美佳さんが座り、左右に三人ずつの部員たち。なんだか秘密結社の会合みたい。
「ハルちゃんは連休後半、どこか行ってきた?」
夏香ちゃんが尋ねてきた。
前半は夏香ちゃんや他のクラスメイトと一緒に遊んだ。バスと電車を乗り継いで、盛岡までいって映画を見たりお茶をしてきたり。楽しかったな。
「後半は2日間だけ成田の方へ。お母さんとお父さんに会ってきたよ。連休中、日本にもどって来てたんだ」
「ハルさんのご両親って、海外で働いているんですか!?」
二年生の間では既に知られている話だけれど、一年生は食いついてくる。
「すごい! ハルさん国際人なんですね!」
「いやいや、落ち着いて。私ここで普通に暮らしてるよね!?」
「ご両親はニューヨークとかロンドンとかですか!?」
「いや普通に、中国?」
語尾がつい疑問系な私。このへんの方言って便利ね。
ていうか、海外イコールパリとかニューヨークとかを想像されると何故か卑屈になる。もうすこし加油だよ中国。
「鈴ちゃんのお母さんの故郷だね」
「えへへ。北京の外れの田舎なんだけどねっ」
笑うと可愛い鈴ちゃんは、八重歯がチャームポイント。黒いロングヘアをいつかお団子ヘアにしてあげたい。
「うちの親は、四川省のどこかなんだって」
「そのへん、ここと変わらない田舎だよっ」
「そ、そうなんだ……」
大人になると会社に「いけ」と言われると「はい」って言うしか無いんだね……。
「中国といえば中華ね!」
「中華まんたべたい!」
「美味しい本格的な麻婆豆腐がいい!」
「この人数なら円卓を囲んで北京ダックだよっ!」
一瞬で食べ物の話に方向転換。中華というワードの威力は凄い。
「あ、そうだ今日は差し入れを持ってきたよ!」
話が盛り上がってきたところで、三年生の美佳さんが紙袋をテーブルに乗せた。
美佳さんは背が小さくて一年生と並んでも違和感がない。とってもチャーミングな明るい人。
差し入れ!?
食べ物だ!?
飢えた視線が集まる。まったくみんな腹ペコすぎる。
「昨日ね、親戚の家に遊びに行ってね。海の方の野田村ってところなんだけど……。そこでお団子をもらったんだ」
「お団子!」
「お茶にちょうどいいね!」
「あ、お花見だね!」
時間は午後3時半。
外は気持ち良い五月晴れ。
水を張った田んぼの畦には、鮮やかなタンポポや菜の花が色を添え、赤や青の家々の屋根が午後の光を浴びて輝いている。
開け放した窓から見える風景は、のどかそのもの。新緑に包まれた低い山々がなだらかで、淡い空色が何処までも続いている。
お花見という言葉通り、山桜や遅咲きの八重桜が、山間や家々の庭先で濃いピンク色の花を咲かせている。
「これ『しだみ団子』っていうんだって。すごい珍しいの」
美佳さんがのんびりした口調で、ゆっくりと包みを解く。
「『しだみ団子』?」
「なにそれ?」
美佳さんが紙袋を開けて、お菓子が入っている箱の蓋を持ち上げた。中身は12個入り。見た目は丸くて白いお団子で、串には刺さっていないので「お饅頭」といった感じ。
でも、『しだみ』って何?
流石の夏香ちゃんも「知らない」といった顔。
「どんぐり」
「どんぐりって、あの……『ドングリ』?」
秋にコロコロ転がっている可愛い帽子付きの木の実。
「そうなんだってー! 向こうの呼び名でドングリは『しだみ』なんだって」
珍しさに驚きつつも、さっそく一つずつ頂いての試食会が始まった。
「「「いただきまーす」」」
食べてみると、外はもっちりとした白い米粉の生地。茹でたのかな? とても弾力がある。そして問題の「餡」に到達する。
見てみると黒ごまのような黒さ。質感は「こし餡」に似ている。
これが『どんぐりの餡』なのね。
お味は如何に?
「…………!?」
「おぉ……?」
「ぬ……う?」
な、なんだろう。
これは、本当に食べたことのない味。
「ハルちゃん、食レポを!」
「えぇ!?」
夏香ちゃんが私の肩を揺らす。なるほど、私の役目なのね。
「……うーん、なんていうか粗目の『こしあん』と、やや焦がした『栗』をすりつぶして混ぜて、甘さを削ぎ落としたような……。ちょっとほろ苦いけど素朴な……木の実?」
んー? と目をつぶり、舌先で味わいながら思いつく言葉を並べてみる。
美味しい。けれど本当に「これ以外無い」という不思議な味。
「おぉ……!」
「さすがハルちゃん!」
「何がよう!? 上手く言えないけど美味しいよ、でも……類似品が思い浮かばない」
「「確かに!」」
美佳先輩も苦笑しつつ、余りはじゃんけんで分けようと提案する。
「ドングリは飢饉のときとかの救済食だったんだって。アク抜きを10回以上するみたいよ。そのままだと渋くて食べられないんだって」
「うーん、そうか。これは『渋み』なのね」
なるほど、ほろ苦い大人の味わいというわけね。
他の誰とも似ていない「孤高の味のお団子」かぁ。
……あれ? 私いま、上手いフレーズ思いついた?
<つづく>
【作者より】
しだみ団子、あるいはしだみ餡のお饅頭は、
主に県北の沿岸にある、野田村の産直などで売られています。
ちなみに少し離れた内陸の九戸村の産直では、
『しだみ饅頭』という名でドングリの餡100%の
「おはぎ」に似た食べ物も売っています。
見た目は泥団子(失礼w)にも思えますが、食感と味わいはかなり個性的。
私は結構好きですよ★




