お赤飯(甘いお赤飯) ★イラストあり
ホーホケキョ、とウグイスが鳴いている。
「これ……何かの音源?」
「ちがうよハルちゃん、本物だよ。でも、初心者のウグイスだね」
「初心者……?」
放課後、中学校の渡り廊下を歩いているとき、梅の木からウグイスの鳴き声が聞こえてきた。足を止めて耳を傾ける。
夏香ちゃんの言葉通り。よく聴くと、ホケー……ホケッキョーと、ちょっと音階ズレていて、下手くそなのがなんだか可愛い。
「あー、なるほどね」
「ね!」
「きっと今年初デビューの子だわ」
「プロデューサーさんはあのカラスかな」
二人で渡り廊下の休憩スペースにて、そんな他愛もない会話をしながら笑う。
鉄骨の骨組みに鉄の板を乗せ、更にトタン屋根を付けただけの「渡り廊下」は、クラブ活動に向かう生徒たちが、部活棟へ行くために利用している。
今も大勢の生徒たちが賑やかに行き来している。
しかもここは、あちこちに座ったり休んだり出来るよう、ベンチが置かれていたりして、ちょっとした休憩スペースになっている。
手すりにより掛かると、暖かい風が心地よい。ここから校舎の中庭や裏山が見渡せる。
4月の半ば、ようやく春も盛りになりました。
梅は散り始め、黄色いレンギョウは満開、待ちに待っていた桜はようやく5分咲き……といったところ。
校舎を囲む道の脇には、鮮やかな水仙とタンポポが黄色い光をふりまいている。
とにかく、ようやく、私の好きな春がやってきた! って感じがする。
校舎の裏山の木々は、僅かな芽吹きの気配は感じられる。けれど、目立つのは真っ白な花をつけた「こぶし」の木。最初は木蓮かと思ったけれど、白い辛夷という木で、山のあちこちにポツポツと輝くほどに白い花を付け、存在感を放っている。
「あ、そうだ……家庭科部に一年生も見学に来たの?」
「来たよ! やっぱり女子ばっかりだけどさ」
夏香ちゃんがちょっと残念そうな表情を作って、うんっにゃっ……と伸びをする。ちょっと明るい髪色のツインテールが女の子っぽくて良い。
私は先日から『家庭科部』に通い始めた。
放課後に集まって、おしゃべりをしたり、刺繍をしたり、お料理を作ったり。女子力がアップすることうけあいだわ。
けれど始まるには少し早い。
渡り廊下の手すりに寄りかかってダベっていると、早速野球場から掛け声や打撃音が響き始めた。
サー! オーライ! キーン……!
「やっぱりもなにも、家庭科部って、男子が入ってもいいの?」
「いいよー! もちろんだよー! ハルちゃん! かっこよくて、家事が好きで、お料理が得意で、後片付けも全部やってくれるような……そんな男子いないかな!?」
目をキラキラさせて私に顔を近づける夏香ちゃん。可愛い。
「てかそれ部員じゃなくて、夏香ちゃんが欲しい『理想の旦那様』じゃん!?」
「いーの。いないかなぁ、そんな男子……」
「ないない、少女コミックの存在だよそんなのー」
「はぁ……冴えないヤローばっかりだわ」
ぎゃははっ、と肩を組みながら私達の後ろを通り過ぎていくのは、クラスメイトの男子達。ガサツでアホで。まぁ、あれには期待できないわ。
「1年生に期待したら?」
「そうだねハルちゃん。可愛い1年男子かぁ……」
「おやつ食べたさに来るかもしれないよ!」
「腹ペコな子供が来てもねぇ」
「可愛い弟くんならいいじゃん」
なんて話しているとお腹が空いてきた。こんな時、頼りになるのが私達の『家庭科部』なのだ。
「そう言えばハルちゃん、今日は『お赤飯』の日だった!」
「だね! たのしみ」
私達は『家庭科部』の部室――調理実習室へと向かった。
◇
家庭科部――通称、家部。
基本、家にいるときと同じようなことをする部活です。
部員は全部で九人。残念ながら全員女子。
三年生が二人、私たち二年生が四人。一年生が三人。
でも途中で他の部活を挫折した子や、病気や怪我で転部してくる子もいるので。部員はよく変わる。とりあえず仲良しで雰囲気は良いし、居心地は良い。
ただ、女子社会なので、若干の派閥はあるみたい。
たとえば――。
「甘いお赤飯……!? 私……初めてです」
食べたお赤飯が、なんと甘かった!
モチモチとしたもち米に、小豆のホクホク感が美味しい。けれど、甘い。
お赤飯が甘い。
「これ食べるとオハギみたいな味がする。美味しいよ、うん!」
もち米を炊く時に、一緒に小豆の(今回は手抜きでの甘い小豆の缶詰)を使ったみたい。ちゃんとしたものを作るときは、本物の小豆や花豆、それにお砂糖をいれるのだとか。
またもや若干のカルチャーショック。
この地区では昔から、というか岩手県の北半分では「甘い赤飯」が食べられているみたい。県南は「旧伊達藩領」なんて言われて、あの独眼竜な伊達政宗さんの影響でお赤飯は「甘くない」らしい。
調理実習室ではご飯が炊きあがった湯気がモワモワと立ち上っている。
もち米と甘い小豆の香気が混じり、お腹が減る空間に変わっていた。みんなで作ったものを少しずつ試食する。
美味しい! と楽しそうな声に満ちる至福のとき。
あぁ、何この部活。最高かよ。
「わたしさ、全国全てが同じ味だと思ってたの! 法事で行った他県で、甘くないの初めて食べた時、何かの間違いかと思っちゃったし」
「私はー、最初からこういうものかとー思ってましたしー」
夏香ちゃんともうひとりの二年生。フワフワした髪が可愛い雫ちゃんが食べながら感想を述べ合う。ほのぼのしている。
「ウチも無味無臭、味しないよ。こっちのほうが好き」
ざっくりとした会話な鈴ちゃんは、同じ二年生。お母さんが中国の人。お団子チャイナ娘ではないのが少し残念。でもいい娘。
この子たちはお赤飯は甘党派ね。
「うちはごま塩かけてたべるから、甘いのって微妙」
「赤飯って買うと甘くないのに、おばあちゃんの家のは甘いのよー! 全国的にはどっちが多いのかな?」
お姉さんの風格が漂う三年生のミカさんとナオさん。こちらは「甘くない派」かしら。
「あ、あたしの家でも普通のご飯にモソモソした小豆が入っている感じ……です」
「お父さんの実家が山梨関東の方だから、同じく甘くないよ」
「うちは甘いよ! 甘いほうがお菓子みたいで美味しいです!」
一年生たちは仮入部なので、まだ個性を出し切っていない感じ。これから輝く個性があるのかしら、実に楽しみね。フフフ。
「……とまぁ、同じ料理でも甘いのが良いとか塩味がいいとか。芋の子汁でも醤油汁だ味噌ベースだって、派閥が生まれるのよー」
と、夏香ちゃん。既に二杯目を食べ始めている。大丈夫か。
「関東から来たハルちゃんこそが、最大の変数よね」
みんなの注目が私に集まる。えぇ? そこなの。
「え、えへへ……私は……無党派というかー。どっちでもいい派なんですけど」
と、あいわからず曖昧に笑う私。
でもここ数ヶ月で雪姉ぇに鍛えられているので、地元の味に近い派な気がします。
<つづく>




