プロローグ
赤く、紅く、朱く。
全てが赤く染まっている。否、全てが赤に染まっていく。
灰すらも焦がす豪火に包まれる建物。あんなに青かった空さえも、灼熱に照らされ赤く染まっている。
朱をまとう街の中、幾重にも響く、人の悲鳴。耐えることなく続く断末魔の叫び。
赤に染める者、赤に染まる者、赤に染まっている者、赤、赤、赤、赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤…。
終わらない絶望。止まらない蹂躙。消えゆく希望。
端から端まで、赤が転がり、生が消えゆく。
正しく、地獄絵図。
かつて、絶対の平和を謳ったエルシア皇国は、平和の象徴により、今、自滅をたどりゆく。
平和の末路はいつも、死だ。
程なくして、静寂が訪れた。
最後に聞こえたのは誰の悲鳴だっただろうか。いや、もしかすると、自分の悲鳴だったかもしれない。いや、そもそも悲鳴なんて聞こえていただろうか。
違う。違う。違う。
聞かなかった、悲鳴を。もう、傷つきたくなかったから。
見なかった、現実を。もう、絶望したから。
でも、理解してしまう。
この静寂は、生が消え尽くしたことを表しているのが。彼らの全てが赤に染まりきったのだということが。
消えたくないと叫ぶ、死にたくないと願う、そんな命がもう残っていない。
全て消えた。私の周りも全て。ただの赤色の何かへと変わり、消えていった。
もう、聞きたくない。もう、見たくない。もう、知りたくない。もう、考えたくない。もう、苦しみたくない。もう、生きたくない。……でも、死にたくない。
何度も思った。何度も考えた。そして、何度も願ったのだ。
「……助けて」
そう呟いて、私は意識を手放した。
ここに、皇国は滅びを迎えた。