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解消?運動音痴の大特訓

 ――体育の授業、種目・バスケットボールにて。


 私達のチームは押されていた。時間も残り僅か。でもここに来て、流れは変わりだす。


「よっし!私がいっちょ頑張るよ!」


 諦めかけていたチームメイト達だったが、私のレイアップシュートが決まったのを機に、再び気を取り返す。


「よっしゃあ!優希に続け!」

「えぇ。ここは私が……一気に行くわよ」


 鞘乃ちゃんの冷静なスリーポイントシュートが確実に入り、極めつけは……。


「うりゃああああっ!!」


 とてつもない迫力の彩音ちゃんのダンクシュート。これが決まったことで完全に流れは私達が手にしたも同然だった。

 逆転まであと少し。私達はきっと勝てる。そんな確信が芽生えていた。が、残り時間僅かでボールを手にしたのは……。


「あっ……え、えぇっと……」


 葉月ちゃん。彼女はボールを手にし、見るからに焦りを感じていた。私がフォローしなくては。


「おーい葉月ちゃん!こっちだよ!ぱすぱすー!」

「は、はいっ!え、えぇええええいっ!!」


 助け船を出した。でも葉月ちゃんのパスは……全然距離が伸びず、相手チームの手にぴったり収まってしまった。相手へのパスも同然だ。


(っていうかすっごい勢いつけてたのに一メートルくらいしか飛んでなかったんだけど!?)


 軽く投げても軽々と越えるはずなのに……。

 結果はそのままボールを死守され、私達の敗北で終了した。


「残念だったわね。あともう少しだったのだけれど」

「まっ、たかが授業の一環なんだ。気にする必要もねえだろ」

「でもすっごく楽しかったよね」

「えぇ。楽しいからこそ、残念だったと言ったのよ」

「まぁそうだな。確かに結構集中してたし、正直に言うと最後は負けちまった~ってなったわ」


 案外熱くなるモノだ。ただ、みんながみんな、そうという訳ではなかった。


「……すみません。私がちゃんと動けたなら……」


 頭も容姿も良い葉月ちゃんだが、運動だけはからっきしダメだった。

 元々責め立てるつもりなんてない。それでも、今の会話は遠回しにそうしているようにも聞こえてしまったかも。


「気にしないで。もう終わったんだし」

「でも毎回こんな有り様ですし……」


 どうもネガティブな方向へ落ちてしまっていっているようだ。それを見た鞘乃ちゃんが、ビシッと言葉を突きつける。


「ならば修行よ!出来ないなら出来るまでとことんやるべし!」

「……さすがの努力脳だな」

「うん……」


 鞘乃ちゃんは剣術の名門が出身だ。優れた身体能力も精神力も、積み重ねてきた鍛練の賜物。

 それだけではない。彼女は私達と出逢うまでギョウマとの戦いを一人で切り抜けてきた。私達の想像以上に過酷な訓練も積んでいるだろう。

 修行の大切さは彼女が最も知っているだろうし説得力がある。だからこそ葉月ちゃんも断れなかったのだが……。


「ありゃスパルタコーチだぜ、たぶん」

「う、うん、そうかも」




 鍛えることに専念する鞘乃ちゃんの姿は見たことがない。私の知らない鞘乃ちゃんの一面が知れて、嬉しくはあるんだけど――。


「遅いわ……タイムが落ちてる!もっと速く!だらだらやっても身に付かないわよ!」

「は、はいぃ……」


 まぁ、予想通りの展開だった。

 近場の土手に着くやいなや、鞘乃ちゃんの目は鋭く変わったのだ。


「つーかなんでランニングさせてんだよ。バスケの特訓だろうが」

「何事も基礎訓練が重要よ。体力が無ければ高みは目指せない……」

「……体育の授業の話だったはずだよね?葉月ちゃんもそんな真面目にやらなくても……」

「で、でもぉ……鞘乃ちゃんが折角……ゼェゼェ……私のために、ごほっごほっ」

「おい止めろ!ストップ!ストップだ!」


 なんという地獄絵図か。付いてきて良かった。

 鞘乃ちゃんの言うとおり体力は大事だと思うが、鞘乃ちゃん基準でやればそりゃこうもなるだろう。


「っていうかもう一度言うけど目的は体育の授業だからね!?」

「解ってるわよ」

「解ってる目じゃないよ!いつもの鞘乃ちゃんに戻って!」


 私の必死の説得でなんとか止まってくれたが……話はふりだしへ。


「ボールもまともに投げれないんじゃ、シュートの練習なんざとてもじゃないが無理だな」

「やっぱりキチンと訓練を……」

「だから鞘乃ちゃんは大人しくしておいて、ね?」

「優希ちゃんがそう言うなら……。けどあんなのまだ序の口なのだけれど……」

「おぞましいやつだぜ……」


 鞘乃ちゃんを私が押さえている間に彩音ちゃんが教えることに。


「シュートは無理でもパスくらいまともに出来りゃなんとかなんだろ。まずは普通に軽く投げてみ」

「は、はぁ。普通で良いんですね?」

「おう。かるーくポイってな」


 どれ程のものか今一度試してみようと言うことだろう。

 葉月ちゃんは力を抜いて適当に投げた。するとどうだろう、彩音ちゃんの頭上を軽々と越えてボールは後ろに転がっていく。


「あ……ごめんなさい、投げすぎちゃいましたね」

「いやいや!なんだよやりゃ出来んじゃねえか、すげえよ」

「そ、そうですか?凄いですか?」


 誉められて嬉しそう。そんな微笑ましい光景だが、疑問が浮かぶ。なんで試合の時はあんなにダメダメだったのに……。

 その謎を抱えたまま、練習は続く。


「よし。じゃあ試合を仮定してやるぞ。テキトーに軽く動くからパス頼むわ」

「は、はい。それ!」


 飛距離およそ一メートル。


「やっぱりダメじゃねーか!」

「あぅう……ごめんなさいごめんなさい!私なんてやっぱりお荷物で……」

「い、いや、そこまで言ってないって。落ち着け、な?」


 一体何がどうなってるんだ……。困惑する私達だが、鞘乃ちゃんだけは違った。


「葉月ちゃん貴女……運動神経も確かに悪いけれど」

(ザックリ言った!!)

「……それ以上に力が入りすぎね。そっちの方が深刻だわ」

「ごごごごごごめんなさい運動神経のないお荷物で……って、力、ですか?」

「えぇ」


 なるほど。チームプレーの競技は自分が失敗すればその分自分のチームが不利となる。今も試合を仮定した途端に葉月ちゃんの様子がおかしくなった。試合というプレッシャーが本領を出すことを封じているのだろう。


「確かにそう思ってしまう事は仕方ないかもしれない。けれど、私達はチーム。みんなに迷惑をかけたくないからボールを手放すのではなくて……みんなで勝つためにボールを託してほしいの」

「……!鞘乃ちゃん……」

「私達は信じあえた友達でしょう?色んな辛いことを乗り越えてこれたじゃない。だから私達を信じて投げてみて。きっと届くわ!」

「は、はいっ!」


 そう言って葉月ちゃんと距離を取る。彩音ちゃんは嬉しそうに笑みを浮かべて鞘乃ちゃんの肩を叩いた。


「なんだよ結構良いこと言うじゃねえの。結局全部持っていかれちまったな」

「私もただ厳しくしたんじゃないってだけ。葉月ちゃんにも楽しんでほしいからこそよ」

「それでも最初のはやりすぎだった気がするけど……へへ、でも、もう葉月ちゃんは大丈夫だよね」


 そうして振り返る。葉月ちゃんはボールを見つめて深呼吸していた。気持ちを落ち着かせているのだろう。


 ただ、何かおかしい。どんどん呼吸速度が増していると言うか、荒んでいるというか……。


「届くはず……届くはず……みんな大切な友達……でも届かなかったら……?私はみんなの何……?私は……私は……」

「オイイイイイ!!余計にトラウマ植え付けちまってんじゃねえか!!」

「おかしいわね……アレは大抵いける流れなのに。……やはりメンタルを鍛え直す必要があるわね」

「ちょっと鞘乃ちゃん待って!あぁもうややこしくなるから!」


 どうしてこんなことにこんなに苦労しなきゃいけないんだろう……。

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