お泊まり会とその真意
――その日の放課後、私はみんなを家に招いた。
「「「一晩お世話になります!」」」
「ゆっくりしていってね」
……イッツアお泊まり会である!
「まさか優希ちゃんの家で一晩過ごせるなんて……!」
「変な気は起こすんじゃねえぞ!?」
「ビデオカメラスタンバイオーケーイ」
「お前も変な気を起こすな!」
開幕グダグダ。しかし舞い上がる気持ちもわからないではない。学校とも外とも違い、かつ夜もみんなでお話しできると考えただけで単純にワクワクする。
「恋バナとか怪談とかは鉄板だよね!?」
「何を言っとるんだお前は」
そうは言いながらも彩音ちゃんも実に楽しみにしていたらしく……。
「トランプ鞄から見えてるよ」
「あっ!……そ、そりゃ、やるだろ。鉄板だろーが……(しかしなんで見える位置に……?)」
「うふふ……彩音ちゃんったら、もっと楽しみましょうよ」
「お前かこの野郎」
彩音ちゃんの手刀が葉月ちゃんに炸裂。かと思えばそれを見切った葉月ちゃんの反撃腕ひしぎ十字固めで返り討ちに!
「……って部屋であんまり暴れないでよ」
「「……すいません」」
十分すぎるほどはしゃぎまくりじゃない。ため息と、微笑ましさが重なって出てきたよ。
せっかくなのでみんなでトランプして遊んだ。お母さんがお菓子を持ってきてくれたので、それをつまみながら。楽しさと美味しさが合わさって最強に思える!舞い上がったテンションで私は勝負に挑んだ。
ババ抜き対決。これは一見シンプルな遊びだが、高度な心理戦だと言うことは存じている。
(彩音ちゃんは私以上に直感的に引く。つまりは一枚だけ目に付きやすい位置にカードを配置しておけば……)
「……だぁっ!!」
「……彩音ちゃん、ジョーカーを引いたのね」
「えっ!?ち、違う!アタシゃ何も知らねえ!」
ほら、計算通り。自分で言うのは何だがみんなの事は良く見ているつもりだ。性格などから手を読むことは難しくはない。
……一巡して、恐らく今は鞘乃ちゃんの手にジョーカーが渡った。彼女はポーカーフェイスを貫くのは上手だが、それに徹しすぎている時は却って追い詰められているとき。あまり他人に心配をかけようとはしない彼女だからこそ身に付いてしまった癖だ。
いける……っ!私がこのゲームで負ける事はな……っ!?
「ふふふ……優希ちゃん、どうぞ」
――っ!?
どの状況に置いても笑顔を絶やさない。引くときも引かせるときも何を語りかけられても……っ!
彼女だけは違う……っ!葉月ちゃんは……無理だ……っ!手がまるで読めない!!
「っていうかその笑い方恐いよ!普通にやってよぉ!」
「えぇ?良いじゃないですか、笑顔」
「他人に重圧をかける笑顔なんて覚えちゃダメ!」
トランプ後は彩音ちゃんが持参してきたDVDを見ることに。……ほんと彩音ちゃん、ノリノリ過ぎでしょ。
「でもアレ?これって……」
「あぁ、見ての通り心霊系のおぞましいやつさ」
おぞましいやつて……。
残念ながら作り物っぽすぎて全然恐がれない感じだった。
というかそもそも、私はこの手のお話が結構平気だったりする。平気だからこそ、あまり見ないし新鮮ではあるんだけどね。
(あっ、それにお話自体は結構面白いかも!みんなの様子は……)
ふと隣を見る。
「……鞘乃ちゃん」
「あうっ……!?ゆ、優希ちゃん、何かしら……」
「……いや、その、なんか震えてない?もしかして恐――」
「そそそそんなわけ無いじゃない。これでも一ヶ月前までは貴女の相棒として戦――きゃあっ!?」
(……あー、ほんと可愛いなぁ、鞘乃ちゃんって)
ぎゅっと抱きつかれて見ててよかった心霊映像。
そしてそんな様子を見て彩音ちゃんがやれやれと手を広げていた。
「けっ、相変わらず仲が良いこったィ。……葉月、絶好の録画チャンスじゃないか」
「……うふふ、それは承知しているんですが……腰が抜けてそっちに置いたビデオカメラを取りに行けないのです」
「ハッハッハ!奇遇だな!アタシも立てねえ!」
……マジかよみんな!って言うか持ってきた本人がまんまと策に溺れちゃってるじゃん!!
――時間が流れ、夕食。
「かーっ、散々な目に遭ったぜ。あのDVDあんなに恐いなんて知らなかったんだよ」
「あっ、始めて見たんだ?(全然怖くなかったけどな~……)」
まぁ良いじゃん、と気分を入れ替え楽しいご飯の時間。みんな結構箸が進んでいて、早い者勝ちの接戦と化していた。
「なんだかとても温かい味です~良いですね。こんなに食欲が掻き立てられたのは久しぶりですよ」
「くそっ……ずるいぞ優希!お前毎日こんな美味い料理食わせてもらって」
誉められてお母さん嬉しそう。まぁ、確かに私もお母さんの料理は好きだけどね。
「優希ちゃんは何が一番好きなの?」
「へ?……そうだねぇ、唐揚げかなぁ。これ一つでご飯半杯は食べられる勢いだよ!」
「唐揚げかぁ……」
「?どうかしたの?鞘乃ちゃん」
「……ううん。確かに、凄く美味しいなって思って!」
「でしょでしょ?しかも今日はみんなで食べてるから数倍美味しいよ!おかわりー!」
楽しい食卓を囲み、お泊まり会は夜の部へと移行する……。
「――ふぃ~良い湯だねぇ」
食後、少し休憩してからお風呂タイム。私が一番風呂を頂いた。とは言え、あまり長風呂し過ぎて待たせるのも悪いし、のんびりと浸かっていられそうにもない。
――と、突然扉が開く。
「あれ?鞘乃ちゃん?」
「……一緒に入ってこいって。陽向さんにも言われちゃったから、どうにも、断れなくて」
陽向と言うのは私のお母さんの事だ。……お母さんったら彩音ちゃん達と一緒になって私達をからかってるに違いない。みんな帰ったらガツンと言わないとな。
でも、少しゆっくり浸かる時間が出来たと言うのもまた事実。
身体を洗い終えてから、二人で湯槽に浸かってのんびりとした。
「……もう三度目になるのかぁ。鞘乃ちゃんとの裸の付き合いも」
「は、はだっ……っ!?……もう、止めてよそういう言い方」
「えー?でも間違ってないじゃない」
「……まぁ、確かにそうかもだけど」
恥ずかしそうに顔を赤らめる。鞘乃ちゃんは反応がつくづく乙女チックで可愛らしい。
「……でも、今回のは、ちょっと嬉しいわ」
「うん?どういうこと?」
「……お風呂の事だけじゃないけれど。優希ちゃんが普段どうやって過ごしているのか、普段どういう環境にいるのか……そう言ったことを間近で見られたもの」
「……っ!」
「ありがとう、優希ちゃん」
――思わぬ反撃。慕ってくれてるのは嬉しいけど、やっぱり鞘乃ちゃんにこういうこと言われると、照れちゃうな。
しかし鞘乃ちゃんの言動は更に一転する。
「……でも、今回のお泊まり会は、何か目的があっての事よね?」
……お見通し、か。まぁ、随分唐突に誘ったし、何か不思議に思うこともあるだろう。
確かに、その通りはある。正直な話、みんながほぼ二つ返事で頷いたのには、さすがにビックリしたけど。
「うん。ちょっと、みんなに話がしたくてね。それだけなら別にお泊まり会にする必要性も無いっちゃ無いんだけど、ま、せっかくだし、おもしろいんじゃないかなって」
そう。全ては、あの出来事。
あの『戦い』の後に起こった、ほんの些細な――だけど、私達からすればきっと、何よりも辛く、哀しかった出来事だ。