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早朝の語らい

 ――次の日の朝。私は彩音ちゃんの家に訪れた。


「あら?優希じゃん。どうしたんだよこんな朝早く。……あーわかったぞ~?アタシに早く会いたくて思わず来てしまったんだな可愛い奴め!このこのォ!」

「わーっ!くすぐったいよ彩音ちゃん!」


 さすがに彩音ちゃんの早とちりだが。まぁ、会いたいというのは嘘ではないわけで。


「いやぁ実はね、迷惑かけちゃいけないって思って、彩音ちゃんと一緒にいけば遅刻することもないだろうってさ」


 彩音ちゃんはいつも私達の待ち合わせ場所に一番乗りだ。彼女と行けばモーマンタイだろう。……結局私自身早起きを頑張った事に変わりはないけどね。

 お陰でとてつもなく眠いが、彩音ちゃんがガンガン喋ってくるタイプなのでなんとかなりそうだ。しかし、いつも良くこんな時間に早起き出来るな……。珍しく、彩音ちゃんに感心を抱いたよ。


 それは彩音ちゃんもまたしかり。


「そりゃ良い心がけだ。優希にしちゃ一歩前進だな」

「たぶん続かないけどね~」

「だろうな、明日からはいつも通り遅刻かどうかの瀬戸際をハラハラしなきゃダメそうだぜ」


 そうして二人で笑い声を挙げた。ほんとは笑い事じゃないけどね……。


「――到着!一番乗りー!」

「ははは、一日天下だな」


 さて、ここからが本番である。随分早く到着したが、その分することがない。


「彩音ちゃんいつも何やってんの」

「その辺で座って漫画読むなりケータイ見るなりしてるよ、ほれこんな風に」

「完全にヤンキー座りだね。女の子らしからぬ感じするよ」

「うっせーほっとけ」


 私達の待ち合わせ場所はさほど人が通らないが、それでもこれは目立つだろう。彩音ちゃんには羞恥心って奴が無いんだろうか……。


「優希も座れよ。ゆっくり語り合おうぜ」

「嫌だよ。彩音ちゃんが立って。スタンドアッププリーズ」

「オー!それは不可能ですネー」

「片言にしたら英語になると思ったら大間違いだよ」


 しかしこうなると意地でも自分の意思を貫きたがる彩音ちゃんがゆえ、意地でも動こうとはしない。そこで仕方なく、私は別の選択肢を提案してみた。私は指で空を指す。


「登らない?」


 ……私の指先にあるのは、大きな木だ。そこを二人、こなれた手つきで登っていった。そして木の枝に腰掛ける。


「久しぶりだなー、こうやって登るのも」

「昔は彩音ちゃんと良く登ったよね」

「あぁ。優希はどんくせーから、中々登れなかったのよな」

「それを言うなら彩音ちゃんだって登ったは良いけど『降りるのが恐いぃ!』って、泣いてたよね」

「かーっ!あいつらには言うんじゃねえぞ!」

「わかってるよ」


 クスクスと笑って見せた。


 ここからは街の様子が見やすく、結構気に入ってた。

 でも、今映る景色には、それも無い。


「……随分様変わりしちまったもんだなァ」


 冗談混じりに笑って言う彩音ちゃんに私はそうだね、と苦笑を返した。


 ある事件のお陰で私達の街は復興中にある。幼い頃の私の目に映る景色がこの状況だったならば、きっとここにも好んで登らなかっただろう。


「けど私は良いと思うよ。いろんな人が頑張ってるのが良く見えて」

「あいっかわらずポジティブだなぁお前は」


 彼女は鼻で笑い、だけど優しく笑みを浮かべた。


「良かったよ。お前はもう完全に立ち直れたんだな」

「うん、とっくにね」

「そか。だったら要らん心配だったって訳か」

「ううん。心配してくれて嬉しいよ。ありがとうね、彩音ちゃん」


 彩音ちゃんは照れくさいのか、顔を紅くして私から視線を逸らした。


「……感謝されるほどの事じゃねえさ。当然の事だろ。友達なんだから」

「友達だから嬉しいのー!……だから普段から、もっと優しくしてね?」

「……やなこった!もっと過激にハードにやってやんよ!」

「あはは!くす……くすぐったいって!ちょっと、ここでは危ないから!」


 そう言いながらも、彩音ちゃんの表情からは嬉しさが感じられた。




 それから数分の事。私達がたわいもない話で盛り上がっていると、ようやく一人、ここに到着する。


「お二人ともー何やってるんですかー?」


 葉月ちゃんだ。真面目な葉月ちゃんでも来るまでこんなに時間の差がある。彩音ちゃんじゃなくて葉月ちゃんに合わせた方が良いかもね、なんて。


「とりあえず降りよっか」

「そだな。とりゃー!」

「あっちょっと!?」


 彩音ちゃんは飛び降りた。結構な高さだと言うのに躊躇なく行った。意外にも、華麗な着地を見せたように見えたが……?

 私は枝から枝へ移り、ゆっくりと降りた。その間に彩音ちゃんの様子が豹変。


「……くああっ……痛ってぇ……痺れる……っ!」


 そりゃそうでしょ。


「馬鹿だね彩音ちゃん」

「いけると思ったんだよ……!フライアウェイしたかったんだよ……!」

「ほんと馬鹿だね」


 一応は大丈夫かと確認し終えたところで、葉月ちゃんは私に驚愕の視線を漏らした。


「……今日、雨が降る……っ!」

「なんか遠回しに馬鹿にされてる!」

「そっか、その可能性を忘れてたわ。優希が真面目に動くなんて……雨どころか洪水まで引き起こしちまいそうだぜ」

「馬鹿に馬鹿にされちゃったよ!!」


 なんか悔しい思いを募らせ落胆していると、そこへ鞘乃ちゃんも合流した。


「鞘乃ちゃん!頑張って早起きしたよ!」

「さすが優希ちゃん。偉いわ」

「えへへ……」


 頭なでなでまでしてもらう。見たか、これが模範解答だよ!


「……でも、普段からそうしてもらえるのが一番ありがたいかな」

「ヴっ……っ!ご、ごめんなさい」


 結局私が笑い者になって結末。くぅう……自業自得とは言え、納得いかない。


「んじゃ、そろそろ行きますか」

「ふーんだ」

「そう拗ねんなって。行こうぜ、な?」


 そうして笑って手を差し出されるとはね除ける事も出来ず。私は彩音ちゃんに連れられ、歩き出した。


 ――久しく見ていない光景。弱虫だったかつての私は、こうやっていつも彩音ちゃんに引っ張ってもらってたっけ。


(乱暴だけど、根が優しいのは昔から変わらないな)


 私はこっそりと笑みを溢した。


 だけどすぐに辛いことを思い出す。『あの出来事』でやっぱり彩音ちゃんに心配をかけてた。それは他の二人もきっと同じ。

 キチンと話をしなくちゃ。私は一人、決心を固めた。


(そして場合によってはもう一つ、どうにかしなきゃいけない事になるかも……)

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