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二対二!宿命のペア分け

 ――放課後。一瞬億劫になった昼休みだったが、その後は何事もなく平和に過ごし、いつも通り四人で仲良く下校中。


「オラァアアアアアアアアッ!!」

「ゲファアッ!?」


 ――鞘乃ちゃんの右ストレートが彩音ちゃんに炸裂した。


「おらおら。立てや島ァ……もう一発ぶん殴ってやっからよ」

「うぐぇ……アタシが悪かった。勘弁してくれ……」


 仲良く(?)下校中。……鞘乃ちゃんは彩音ちゃんに対してだけ何故か凄く風当たりが強いんだよね。まぁ、彩音ちゃんも日頃の行いが良くないから。


 事の発端は数分前。彩音ちゃんが鞘乃ちゃんをゴリラみたいだと馬鹿にしたことがキッカケであった……。


「いやちげーよ!何勝手に捏造してんだ!」

「あ、バレた?てへ」

「てへじゃねえよ。……こいつはゴリラみてえじゃねえ。正真正銘のゴリ――」

「シャオラアアアアッ!!」

「グワァアアアアアアアアッ!!」


 ――ドロップキック、炸裂。鞘乃ちゃんの必殺技であると言っても過言ではないその一撃を受けた彩音ちゃんは、一堪りもなかった。

 ゴリラは良くない。ほら、こういうところが彩音ちゃんの日頃の行いってやつだよ。


「お前がそもそも言い出したことだろうが!」


 またバレちゃった。


「でも私は別に鞘乃ちゃんの事そんな風に思ってないもん。鞘乃ちゃんは綺麗で可愛くて……いざって時はカッコいいし、私の憧れでもあるんだから」

「優希ちゃん……!は、恥ずかしいわ……」


 鞘乃ちゃんは真っ赤になった頬を隠すように手で覆う。もうこうしている時がすでに可愛い。ぎゅって抱きしめたくなっちゃう。

 対して彩音ちゃんはぐぬぬ……と歯がゆそうにしていた。


「きたねえぞ!そんなん言ったらアタシだって別にマジで言った訳じゃねーし!冗談だよ冗談!」

「ねぇ彩音ちゃん?説得力って知ってるかしら?」


 やれやれと鞘乃ちゃんは本調子に戻り、話も元に戻った。


「違うでしょ。そもそも私が怒ってたわけ。からかわれたっていうのはその通りだけど、理由は『私が優希ちゃんにベタベタしすぎ』って……」

「いやその通りだろ」


 ……どっちにしたって私からすればどうでも良いんだけどなぁ。

 すると彩音ちゃんは鞘乃ちゃんと同じようにやれやれとため息をついた。


「別にお前らがどうしようがアタシにゃ関係ねえ事だ。だが!分担する時は話は別だ」

「分担?」

「そう。アタシらは基本的にいつもこのメンツで行動しているわけだ。つまり分担して行動する時は大体二人づつで行動することになる」

「まぁ体育の授業とか科学の実験ではよくペア組まされるし、お店の席の都合とかアトラクションの人数制限とかでそうなることもあるかもね」

「意外と多いんだな、それが。それで、お前らが組むと必然的にアタシは葉月と組む事になるわけだ」

「別に良いじゃない」

「はぁ……良い。良いけどよ……お前らがそうしてるっつー事は、要するに……」


 あぁ。やっと理解できた。葉月ちゃんの、妙な癖と言うかなんというか……。

 私と鞘乃ちゃんの関係を妙に気に入ってくれてるみたいで。私達の方に夢中で話にならないんだろうな。

 そうか、そう考えると彩音ちゃんも中々苦労しているんだね。当の私達ですら、その状態の葉月ちゃんの勢いに負けて思うように行動できなくなる。それを一人で見てると言うのは随分キツいものだろう。


 鞘乃ちゃんは結局彩音ちゃんに呆れた態度のまま、こう返した。


「そうならそうと、早く言ってくれれば良いじゃない」


 彩音ちゃんも相変わらずの調子で返す。


「お前なぁ、言って代わってくれるってのか?」

「……代わるわよ。別に私は、ベタベタしてる気なんてないもの」

「とかなんとか言ってるけど、無理矢理理由つけて優希の隣に行ってる印象しかねえよ」


 鞘乃ちゃんは大人しそうで意外と積極的だからね。


 腑に落ちないという風に鞘乃ちゃんはぶすっと唇を尖らせた。

 そこでだ、と彩音ちゃんは細い紙切れを四本取り出す。


「趣向を変えさせてもらうぜ!今からいく駄菓子屋では二人で行動してもらう!」

「別に無理矢理分かれなくても良いんじゃ……」

「そしてそのペアはこのアタシ特製のくじで当たった奴で決定する!これなら鞘乃も文句はつけれないぜ!」

「だから私は元々良いんだってば……」


 そう良いながらも、彩音ちゃんの強引な手引きでくじ引きが始まった。


「じゃあ、私から引くわね(運命は自分で切り拓く!先手必勝よ。優希ちゃんと、絶対!)」

「アタシゃ作った側だし最後で構わんよ(葉月以外なら誰でも良いが、今は鞘乃と当たるのもめんどくさそうだ。……優希とが、良いな。久しく、二人だけで話せてねえし……)」


 私の知らないところで、こんな欲望が渦巻き、そしてついに、結果が発表された。


「あっ、私が優希ちゃんとですね」

「わぁ、よろしくね葉月ちゃん」


「「なぜだぁあああああああああ」」


 何故って、くじでしょ。




 ――そんなこんなで駄菓子屋に到着。


「お婆ちゃん、こんにちわ!」

「おやおや、優希ちゃんかい。今日も元気だねぇ」

「優希ちゃんは元気の塊ですから。一緒にいると私までなんだか元気になってしまいます」

「えへへ、葉月ちゃんったら」

「あらあら、うふふ。……後ろの二人はそうでも無いみたいだけど……」

「あぁ、気にしないで」


 傷心中の二人を置いて私達は駄菓子を選択。


「どれにしましょう?……私、あまりこういうのは慣れてなくて」

「大丈夫だよ、私に任せて!オススメなのを一杯紹介するよ!」

「まぁ!それはわくわくしますね!」


 そう言って彼女は目を輝かせた。


 葉月ちゃんは、良いところのお嬢様なのだ。こう言ったものは彼女の目には却って珍しく映る。

 私達にとっての『当たり前』も彼女にとってはそうでないと言うことが多い。それでいて、好奇心も旺盛だ。


「これはなんですか!?」

「あぁ、ぼんち揚げね。醤油風味だけど甘味もあってそれがまた美味しいんだよ」

「『ぼん()』……?その一家は毎日上げ上げで楽しいって事でしょうか!」

「えっ!?……そうだねぇ、そうだったら平和だよね~」


 ツッコミ不在。二人で顔を見合わせてほんわかと笑みを溢した。


 そして二人で駄菓子購入。


「いつもありがとうねぇ。これ、おまけにあげるよ」

「わぁ、ありがとう!葉月ちゃんあっちで食べよ」

「はいっ!」


 二人で駄菓子屋の裏まで駆けていく。この店の裏にはベンチがあってのんびり出来るから一休みするのに最適だ。


「葉月ちゃんと二人っていうのも珍しいよね」

「そうですね。優希ちゃんにとって私は彩音ちゃんのように最初に知り合ったというわけでも無ければ、鞘乃ちゃんのように特別な関係を築けてるわけではないので」


 ……特別な関係ってなんか語弊っぽいけど、まぁそこは置いといて。


「それでも私は葉月ちゃんの事、結構頼りにしてるんだよ?私達、葉月ちゃんがいないと収拾つかなくなっちゃうこと多いからさぁ」

「そうですね……皆さんは私の事を便利屋とでも思っているのですかね?うふふ……」

「ひっ!ご、ごめんね!」

「……でも、私も常日頃から迷惑をかけているようですし、おあいこです」


 あ、例の癖が迷惑だってことは一応自覚してるんだね……。


「それに、良いんです」


 葉月ちゃんは息をついて、和やかな笑みを作った。


「私は、どんな風に思われても、優希ちゃんのお役に立てているのであれば」

「……私の?」

「はい。優希ちゃんにはいろんな事を教わりました。これらの駄菓子はもちろん、遊びの事や、大好きな漫画の事など……」

「あはは……」


 なんかそう言われるとダメな方向の事ばっか教えて申し訳ないなって思った。葉月ちゃんからすれば、きっと良かったことなんだろうけども。

 その証拠に彼女は嬉しそうに笑っていて……そして、こう言った。


「でも、一番素敵な事を、一番最初に教えてもらってますから」


 一番素敵な事……。何の事だろう?もう何年か前の話だしな。うーん……『あまり悪い友達は作っちゃダメだよ!』とか?……そりゃ、これも大切な事とは思うけど、なんか違う気がする。


 うぅむ……と頭を捻らせ悩む私に構わず、葉月ちゃんは続けてこう言った。


「ですから、優希ちゃんの幸せを見ていられる事が一番の楽しみなんですよ」

「葉月ちゃん……!」


(主に優希ちゃんが鞘乃ちゃんといる時とかですね、うふふふふふふふふ)

(なんだろう、言ってくれてることは事実なんだろうけど意味合いがなんか違う気がする)


 どこかおかしい、とは思いながらも、私は葉月ちゃんの気持ちをありがたく感じた。でも、その上で思った事も一つ。


 私はさっきお婆ちゃんがおまけでくれたアイスを開けた。それは二つ繋がって入っているもので、ポキッと割って分ける事ができるアレだ。


「ありがとうね。でも、見てもらってるだけじゃなくて、私はもっと葉月ちゃんと一緒に何かしたいよ」

「優希ちゃん……」

「楽しいことはいっぱいシェアしないとね。はい、どうぞ!」


 そう言って私は分けた一本のアイスを、葉月ちゃんに渡した。


「二人だけなんて珍しいことだもん、今日はいっぱい、楽しもうね」

「……はいっ!」


 返事した彼女の笑顔は、今日一番、輝いて見えた。


 門限まで葉月ちゃんと、のんびり語り合った。

 より一層仲良くなれた――そう感じる、楽しい時間だった。


「……で、彩音ちゃん、鞘乃ちゃん、今日はどうだった?」

「「…………もう、くじなんてやめにしましょ(しようぜ)」」

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