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夏休みロスの新学期

 ――お昼休み。


 結局学校にきちんと来た私達は、どうにか遅刻による先生の怒りを耐え抜き、これまでの授業を乗りきる。


「くぁ~疲れたぜ~飯だ飯!さっさと飯にしようぜ!」

「ふふ、彩音ちゃん、なんだかお父さんみたいです」

「あんだよ、その言い方ぁ……おい!お前も笑ってんじゃねえよ」


 そうは言われても、確かに彩音ちゃんの言動はおじさん臭い。うちのお父さんも仕事終わりに言いそうなことだと、思わず笑みが溢れた。

 お腹が空いているのは私もなので、すぐに四人で机をくっ付けて昼食にするとしよう。


「葉月ちゃん、お父さんとは仲良くできてるのね、良かった」

「えぇ、お陰様で。結構オチャメな人なんですよ。……あっ、そこも彩音ちゃんみたいですね」

「おいこら。一々アタシにこじつけんなや」


 不機嫌そうに彩音ちゃんはタコさんウインナーを口にほり入れた。その後も特に何を言うわけでもなく、淡々と貪っていく。……少々弄りすぎただろうか。


「彩音ちゃん、オチャメなのは良いことだよ!」

「どんな励まし方だおい。つか、別に今ので怒ってる訳じゃねえよ。いつもの事じゃねえか」


 ふぅ、と息をついて彩音ちゃんは箸を置いた。そして一言こう呟いた。


「かったるい」


 いつも学校で言う決まり文句みたいなものだろう、と、私達は呆れて苦笑いを溢した。

 学校そのものに対して「だるい」だの「めんどくさい」だの、学生なら普通に思うことだろう。

 それを口に出した途端、彩音ちゃんは一気に崩れて。


「だりぃよ~!戻りてえよ夏休み!あぁん!もう!」

「やっぱりサボっちゃえば良かったんじゃないの」

「それはダメだ!アタシと優希は常に成績ピンチなんだぞ!」

「それで必死なのね。でもまだ二学期は始まったばかりよ」


 おサボりはいけないことだけど。

 まぁ、鞘乃ちゃんの言うとおり、確かに休みが明けてまだ一週間程度なのだ。休みを引きずりたくなる気持ちもわかる。


「でもいっぱい楽しいこともあると思うけどなぁ。文化祭とか……うちのクラスは劇か喫茶店が候補なんだっけ。メイド服とか着れたら可愛いよね」

「メイド喫茶……っ!さすが優希ちゃん!(優希ちゃんのメイド服姿なんて可愛いに決まってるじゃない!是非とも目にしたいわ!)」

「えぇ!全くもって最高ですね!(百合の花が似合いそうな写真が一杯撮れそうな予感!要チェックですね!)」


「お前らの魂胆見え見えすぎて引くわー……」


 え?と私が首を傾げる中、鞘乃ちゃんと葉月ちゃんは何故か凄く幸せそうだった。

 どんな事を考えているのかはわからないけど、想像だけでそんなに幸せになれるなんて、二人は凄いんだなぁ。


 しかし彩音ちゃんは夏休みロスからまだ抜け出せない様子。彩音ちゃんはどうもイマジネーション能力が低いんだなぁ。まぁ、後先考えずに行動する彼女らしいっちゃらしいけど。


 それに、夏休みに対して未練が残るのも、仕方ないというか。


「あんまり夏休みは遊べなかったもんね~」


 と、口に出して私は笑った。


 ――みんながピタリと、動きを止めた。


 ハッとなって私は話題を逸らす。


「だ、大体、彩音ちゃんと一緒にしないでよね!私は鞘乃ちゃんが教えてくれるから、もうそこまでお馬鹿じゃないもん!」

「……なんだと!?だったらアタシは葉月に教えてもらうもんね!な!?頼むよ!」

「お二人共。いつも他人任せではなく少しは自分の力で頑張ろうとしてはいかがでしょうか……っ!」

「「うわぁあああごめんなさい!!」」


 クワッと顔に陰を作る葉月ちゃんの重圧に負け、二人で机に顔を伏せた。

 ただ、一瞬重く染まりかけた場の空気は、なんとか払い除けることが出来たようだ。

 私は顔を上げ、鞘乃ちゃんに「いつもごめんね」と軽い調子で謝った。鞘乃ちゃんは「良いのよ、優希ちゃんの為だもの」と微笑んだ。


 その微笑みは、ほんの少しだけ、くすんでいた。


 ……やはりみんな、まだ少し気にしているのだろう。

 夏休みのまっただ中起こったあの『事件』の、後に起きた出来事を。

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