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ぎこちないロボット

 彩音さんと一緒にアパートに戻ってきました。ましろの話を聞いても、彩音さんはいつも通りに接してくれました。

 そして約束通り彩音さんはましろの傍にいてくれた。今日は泊まると親に許可を取り、隣にいてくれるのです。


 ――あんなことを聞かされて、断れるはずもないか。

 ましろは卑怯ものです。あの時、別に本心を言わなくても良かったのに、言って彩音さんに迷惑をかけてしまった。心配させてしまいましたから。

 だけどきっと、彩音さんにだから話してしまったのかもしれない。不思議だ。凄くぶつかり合う間柄なのに、話していると安心するのだから。


(この人は……)


 隣で寝息をたてる彩音さんを見つめて想う。


 ふと、彼女は寝言を漏らしました。


「……あ、おい、そっちはマッツの洞窟だぞ……バーガー賢者に石を貰うには……レベルが足りな……」

「いやどんな夢ですか」


 良くわからないけど、今の彩音さんは仲間と旅をする冒険者のようです。……彼女の愛するバーガーマッツで溢れた世界で。


(……仲間……友達……)


 彩音さんはましろにそうあってほしいと言ってくれました。悲しい捨て猫なんかじゃなく……。

 実は同じようなことを、昼に言われていました。どうしてそんなことを自分に言うのかわからなかったが、彩音さんが言葉をぶつけてくれたお陰でやっとそれが理解出来ました。


 そう、あの人が話した言葉の真意が……。




「――ぬあぁああん!!ダメなのですー!!」


 時刻は昼の一時。ましろはアパートの庭である発明の試運転をしていました。ご覧の通り、上手くは行っていないけど……。


 そこへその人が現れたのです。


「悩める顔をしておるのぅ、若者よ」

「いや貴女も見た目は若者じゃないですか」


 ましろと同じ歳くらいの見た目の少女・カレンさん。彼女の登場にましろは内心戸惑っていました。

 ここはアパートの庭。要するにましろに会いにでも来なければ、ここに立ち入る理由は無いわけですし。

 ゆえにカレンさんがなぜここに来たのかが不思議だったのです。正直なところ、カレンさんとましろは、別に仲が良いというわけでもないですから。


 カレンさんの事が嫌いなわけではありません。……やけにましろの事を子供だと馬鹿にするところがあるからその辺はムッとすることもあるけど――とにかく、嫌いという感情は持っているわけではなく。

 単純にカレンさんとましろは友達の友達という感じの間柄なのです。ましろはギョウマの『王』との決着が付いてからは『チームセイヴァー』を離れていましたから。ゆえにカレンさんが加入した時の事をチームセイヴァー二期と呼称したりして。

 ましろがいない間に皆さんと仲良くなってましたから。だからカレンさんとは繋がりが薄いし、取っつきづらい。


 カレンさんも同じだと思ってたんですけど……。そんな彼女が何のようで来たのか。


「へ?何故来たかって?いや別に深い理由は無いさ。たまたま時間が空いておって、だけど後々ここを通る用事もあったんで、じゃあせっかくだし顔を出しておこうかと思っての」

「そうですか」


 ……そこで一旦会話が途切れちゃいました。

 非常に予想通りで、気まずさすら感じますね。

 自然体でいる他ない。ましろはいつも通り自分のするべき事に没頭しておけば良いんだと思いました。

 ただ、よりによって今日開発したそれが、こんなヘンテコなものだなんて……。


「……それ、なにやっとるの」

「……見ての通り、ロボットですよ」

「ほぅ……そなたが造ったものか」


 まじまじと見つめられる。うぅむ……完全に見た目が玩具なロボットなわけで。馬鹿にされないだろうか。そうして目を伏せていると、意外にもカレンさんは興味を示したのです。


「凄いではないか!良くできておる」

「え、あ、はぁ、そ、そうですか、ありがとうです」

「しかしこんなものを造れるというのに、なにをあんなに憂いておったのだ?」


 褒められて悪い気はしないです。でもその質問ですぐに憂鬱が戻ってきました。


「あ、と……実はですね、この子は依頼されて造ったものなのですが、どうも上手く出来なくてですね」


 依頼というほど大それたものでもないですけど。単に大家のおじいちゃんに、孫の為に造ってやってほしいと頼まれただけなので。ただ、お願いされたのはただ単にロボットを造ってくれというわけではなく。


「ロボット同士で戦わせて競う大会があるらしくてですね、色々機能を搭載してみたんですけど……どうもテスト用に造った動く的すら攻撃が当たらなくて」

「ほう、良ければ見せてくれぬか」


 正直機械に疎いこの人に見せても意味はないかもしれないが――話題も思い付かないし、やってあげることにしました。

 カチカチとリモコンで操作。


「眩しく光る目!」

「おお!レーザーでも出るのか!?」

「標的が見やすいです」

「……あぁ、まぁ、敵を観察するのは大切だよな」

「高速移動能力!」

「おお!ロボットにしては凄まじい早さだ!」

「止まれないことが欠点ですね」

「……凄い機能には弱点も付き物だ、うん」

「手頃な石程度なら粉砕するパワーのパンチ!」

「やっとまともそうな……あ、いや、なんでもない。強そうだな!」

「一振りに十五秒を要します」

「もはやわざとだろ」


 カレンさんに滅茶苦茶ダメ出しされました。


 でもましろ的には強い能力を沢山盛り込んだつもりだったんですけど……。だけど意味をなさない機能ばかりというのも確かですし。


「……光る目は置いといてだ。その高速移動能力とパンチの威力。両方とももちっと落として使いやすくはできんのか」

「はぁ、やれますけど。そんな柔な能力値じゃ相手を粉砕できませんよ」

「……そなた、ほんとに大会の趣旨わかっとるのか?」


 カレンさんの言うとおりに手を加える。するとどうだろう、散々当たらなかった的に攻撃がすんなりと入った。


「使いやすい!」

「いや当たり前だろ。場外に弾き飛ばせばいいだけのロボットの戦いで敵を叩き潰す必要なんかないのだよ」

「……でもましろの読んだホビー漫画はみんな地獄絵図でしたよ!?ビーダ・ママンでは強いシュートを放てば腕が骨折しかけたり、メーブレードでは自分の愛機が潰されれば何故か持ち主も吹っ飛ばされていたです!」

「鵜呑みにするなアホか」


 ……そ、それを抜きにしてもましろはこれまでギョウマと戦うための『兵器』ばかり造っていましたから。どうしても安直に敵を倒す方向に手が伸びてしまったみたいですね。


「……でもベースのロボットがもうちょっと高スペックなモノならあのままでも戦えたんですけどね」

「まだ言うか」


 所詮は大会のフォーマットに合わせたロボットだから、と説明を加えようとするも、もういいとあしらわれてしまいました。……納得いかないですね。

 そう思っていると。


「……はぁ、良いかましろよ。この点に関しては実際の戦いでも同じだ。ただ力が強いだけでは限界がくる。それを上手く使いこなせねば、力など無いに等しい。そのロボットを強く改造するのももちろん必要かもしれぬが、そなたがすべき事は、それを扱う者が上手く扱えるように支えてやることじゃないのか」


 ましろはなんだか感動していました。操さんも同じようなことを言っていましたから。


「そうかもですね。ましろ、おじいちゃんのお孫さんが優勝出来るように精一杯頑張りたいです!」

「その息だな。いや、ちんけな大会での優勝なんざまだまだ。どうせなら世界チャンピオンを目指すが良いぞ!夢は大きくだ!アーッハッハッハ!!」


 そう言ってカレンさんは高笑いを挙げた。それは本心なのか冗談なのか。どちらにしろ、ましろはなんだかいい気分になって一緒に笑っていました。

 そしてそれが収まった頃、カレンさんは改めて静かに笑みを浮かべていました。


「ようやっと笑ったな」

「あ……そ、そうだったですか?」

「あぁ。出逢って初めてそなたに笑ってもらえたよ」


 意味がわかりませんでした。

 仲が良いわけではないものの、それなりに話はしたし、笑顔だって見せているはずですから。

 だからキョトンと目を見開いていました。するとカレンさんは吹き出して、無邪気な笑顔を見せていました。


「にしし……本物のそなたの笑顔を見れたということさ」

「ええっと……」

「そなたが私に見せるそれは、どこかやりづらそうな感じだったからの」


 それでこの人はわざわざましろに会いに来たわけですか。


「……じゃあこれまでやけに突っかかってきたのは、ましろと仲良くなるために……?」

「いんや、それはただガキくさいと思ったからだ」


 ほんとに仲良くする気があるのか。


「ハハ、まぁそう怒るな。子供は子供らしく、ありのままでよいのさ」

「カレンさんは大人げないです」

「まぁ実質大人みたいなもんだからの」


 そう言ってましろを貶すように笑ったかと思えば次の瞬間にはカレンさんはどこか寂しげになっていたのでした。


「私は、そなたと仲良くしたいと思っておる。そなたはそれが嫌か?」

「へ?い、いえ、そんなこと、思うはずがないじゃないですか。カレンさんは、皆さんのお仲間、ましろの仲間でもあるのです。嫌うはずなんて……」

「……そう、だな。私は、そなたにそうあってほしいよ」

「……?」


 まるで答えに不満があるかのように瞳を伏せたかと思えば――カレンさんはまたニッと笑顔を見せて立ち上がりました。


「……うん、これからもよろしく頼むぞ、ましろよ」


 そしてそう言って、ましろの元から去っていきました。




 ――今になってわかること。カレンさんはましろと仲良くしたいと思ってくれていた。カレンさんと仲良くしづらいと勝手に感じて、勝手に避けていたのはましろの方だったということ。

 カレンさんの問いにたいして、ましろは優希さん達の仲間だから、ましろの仲間だと言いました。素直に自分の仲間だと、友達だと、言ってあげることができなかった。


 彩音さんが教えてくれなければ、ましろがどうしてずっと独りぼっちだったかをきっといつまでも理解できなかったと思います。

 操さんとの引きこもり生活もありますけど――ましろ自身が自分を人よりも下に見て、無意識に避けていたんです。


(だけど今は違うです。……必ずこの子をチャンピオンに仕上げて、カレンさんを喜ばせたいです)


 ロボットを見つめました。見た目は完全に玩具なロボットだけど、あの人が凄いと褒めてくれた、そして、あの人と一緒に造った自慢のロボットです。


 ましろは自然と笑顔になっていました。過去はもう変えられないけれど――カレンさんや、もちろんチームセイヴァーの皆さんとなら、きっとこれからも毎日が楽しいはずだと、改めて感じました。


 そしてそんな希望を抱きしめて、その日は眠りに着くのでした。

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