新たな一面?相手を知ること
九月ももう終盤。十一月に行われる文化祭の出し物がつい先日決まった。
「結局劇だったなぁ。ま、アタシはどんな話だろうとパスだ」
彩音ちゃんがめんどくさそうにしっしと手を動かす。常に己の我を通す彼女だが、こうして表だって目立つのは少し違うというか、単純に嫌いなのだろう。
「大人しく裏方の作業やっとく……あ、でもそれもめんどくせえな」
「サボっちゃダメよ彩音ちゃん。参加する気がないからって他のみんなに迷惑をかけるのは違うわ」
「へーへー、わーってるよ」
と言っても、まだ役割は決まってないから先の話なんだけどね。でも彩音ちゃんの言い分も実はちょっぴりわかるというか。やりたくないことに強制参加させられる空気は嫌かな。
「私も裏方にさせられたら、彩音ちゃんと同じでやる気なくなっちゃいそう」
「なんとなく察してたけど、優希ちゃんは演じたいのね」
なるほど、と何故か鞘乃ちゃんは何度も頷いて理解を深めていた。彩音ちゃんは私の言葉を聞いてニヤリと笑っている。
「もし裏方に決まったら一緒にサボろうぜ!二人なら怖くない!」
「そうだね、怖くない!……でも、迷惑はかけたくないからやっぱり出来ないや」
なんだよ面白くない、と彼女は一言。いやいや、つまらないどうこうで決める話ではないと思うんだけど。
そんな私達を見ながら葉月ちゃんはわかってませんね、と笑ったまま言った。
「裏方というものは良いものですよ。なんというか、皆さんの素敵な演技を見られるだけで私は満足ですね」
「そういうものなの?」
「はい。私は見守り専門ですから」
そう言って彼女は怪しく口を歪ませた。……標的は私達以外にもあるのかな?何にせよ、説得力のある言葉だ。
ただ、気がつけば葉月ちゃんの表情は優しい笑顔に戻っていて、だけど少しだけ、弱々しい笑い方になっていた。
「それに私、苦手です。演技とか恥ずかしくて人前ではとても……」
「えぇ?葉月ちゃんが演じたらすっごく映えるお芝居になりそうだけどなぁ」
「そうね。凄く綺麗だし」
同意してくれるのは嬉しいけど、鞘乃ちゃんだってそうなのに。と、私は笑うと、鞘乃ちゃんは少し照れたように笑っていた。
「けど私も同じ。恥ずかしくてちょっと勇気が……」
「鞘乃ちゃんは仕方がないと思いますよ。人付き合いのブランクというのもありましたから」
「……いい加減に人が怖いっていう思い込みをどうにかしたいんだけどね……」
鞘乃ちゃんの場合は強要も出来ないかな。出来ることなら一緒に出たいんだけど。
そう考えていると、彩音ちゃんもうぅむと口に手を当て、何やら考えていた。
「鞘乃はともかく、葉月は出た方がいいと思うけどなぁ」
「へっ?ど、どうしてですか……?」
「ほら、前にルシフに喧嘩吹っ掛けたことあっただろ」
まだ戦いの最中だったとき、ギョウマの王との決戦前に、葉月ちゃんはルシフというギョウマを味方に付ける為の説得の際、そんな事をしたらしいね。私はその場に居なかったから聞いた話なんだけど。
「あの時の演技力は大したもんだと思ったがなぁ」
「あっ……えっとアレはその、男人情シリーズの影響でですね……」
「例のヤクザ映画か……。まさかそれが役に立ってたとはな……」
そう言えば、先日のビデオ観賞会では、新しい葉月ちゃんの個性を知れたね。……結構ハードなモノだったけど。
その後、解散となり、私はいつも通り鞘乃ちゃんを家まで送り、しばらく時間を共にしてから、帰宅。一日の疲れをシャワーで流し、眠りについた。
……で、次の日は待ちに待った休日。私は遊びに出掛ける。
目的地は……。
「葉月ちゃーん、こんにちわー!」
「優希ちゃん!……いらっしゃい、すぐに下りますね」
大きな家の窓から彼女はそう言ってこっちに向かっている。遠くから見ても彼女の笑顔は眩しい。まるで太陽みたいだ。
「ゼェーゼェー……お、お待たせしました……」
そんな太陽も、下に来る頃にはしぼんだヒマワリのようだった。
「家が広いんだから、無理して走ってこなくても良いんだよ?運動苦手でしょ?」
「でも優希ちゃんを待たせたくはなかったので」
「いくらでも待つよ。葉月ちゃんは葉月ちゃんのペースでやれば良いんだから。なんでもね」
そう言うと葉月ちゃんは相変わらず優しいですね、と笑顔を咲かせた。もう元通り。そんな葉月ちゃんの笑顔の方が、私には優しく輝いて見えるけどな。
家に入ってすぐに巨大な広場、大きな階段、謎の像や価値のありそうな絵画と、如何にもお金持ちって感じの景色が広がっている。
なんだか畏れ多いし、葉月ちゃんも昔は訳あってリッチな自分の身分が嫌いだったから、一度しか遊びに来させてくれなかったんだけど……それでもこの光景はよーく覚えてるな。
それらを意識するとやっぱり緊張しちゃう。そうしていると葉月ちゃんのお母さんが顔を出した。着物が似合う美人さんだ。
「優希ちゃん今日は葉月と遊びに来てくれてありがとうね」
「あっ、い、いえ!いつも良くしてもらってて、こちらこそありがとうございます!」
「いえいえ。葉月の方こそ、優希ちゃん達に支えてもらっているからこそ、楽しく学校に行くことが出来ているのよ。ダメダメなんだから」
「そ、そんなことは……。でも、それならお互い様ですね。なんて」
「うふふ、そうね」
そんな軽い挨拶が終わってから、私は葉月ちゃんに連れられ、彼女の部屋を目指した。
葉月ちゃんはクスクスと、何故か笑みをこぼして歩いている。何かおかしな事があったっけ?
「あぁごめんなさい。お母さん、さっきは優希ちゃんの前だからダメダメなんて言いましたけど、普段は真逆なんですよ」
「あれ?もしかして親バカパターン?」
「実はね。うふふ、きっとお父さんとの事もあったからだとは思いますが――」
葉月ちゃんはつい最近までお父さんと仲違いをしてた。ギョウマとの戦いのある出来事でそれも解決したから、今はもう大丈夫。
「その分お母さんは私を甘やかしてくれて、高額のお小遣いをくれるだけでなく、色々と買い与えてくれましたね。……正直面倒だと思う習い事も、お母さんなりに私を思ってくれての事なんだと思います」
「そっか。お母さんは味方でいてくれてたんだね」
「……贅沢なことに、お金が大嫌いでしたから、あまり喜べなかったのも事実なんですけど」
「……まぁ仕方ないよ」
その辺は葉月ちゃんが過去に抱えていた悩みのせいだから仕方ない。
それにしても、いきなり葉月ちゃんの事について大きな事を一つ知れたのは大きかった。なんせ今日突然遊びに行こうと思った理由というのが――。
「着きましたーマイルームです」
「わー、いっぱいモノがあって広い!」
「なんだかんだ財力のお陰で色んな趣味に触れることが出来てますね……」
「じゃあ教えてよ、葉月ちゃんの事」
「え?私の……?」
大特集・葉月ちゃんをもっと知ろう!って名目だ。
「昨日話していたように、まだ私の知らない葉月ちゃんはいるんだなって思ったから」
……まぁ当然誰にも話したくない部分っていうのは、誰にだってあることだと思う。私にだって、あったし。けど、色々と知りたいなと思ったのは、彼女の個性にあった。
葉月ちゃんはいつも目立とうとはしない。控え目というかなんというか……他人を尊重してくれる。それは良いけど、少しそれが重度というか。
「前に駄菓子屋に行った時でも、見ているだけで良いって言われて、正直すっごく驚いちゃった。それでホントに良いのかなって」
「は、はぁ」
「えーっとだから要するに……この前カレンちゃんとやってたみたいに、ヤクザ映画を見て語り合ったりとか、楽しかったでしょ?」
「はい!それはとても!!」
「だからそんな感じで楽しんでほしいなーって。あ、でもヤクザ映画だけはパスで。あと、鞘乃ちゃんとの関係を~とかもNGで」
こうして言うと葉月ちゃんは私の常識から外れた事が好きな傾向があるな。……自分で始めておいてなんだけど、受け止められるかちょっと不安になってきた。
でも葉月ちゃんはしばらく考え込んだ末、苦笑いを溢した。
「正直言ってもう話せるような事も……。写真と編み物は以前話しましたし」
「えー……ないの?キャラが変わるような事とかさ」
「はい?キャラ?」
「うん。私が今のところ認知しているのは……」
思い浮かべてみる。
・笑顔
・笑顔(黒太陽)
・ネガティブモード(主に体育の授業関係)
・変態カメラマン
・ヤクザ
「あと二つで正しく七変化達成だよ!凄い!」
「酷い!そんな人を情緒不安定みたいに!」
「率先して君がやってくれてたんだけど」
自覚はないのか、自覚は。
棚には沢山モノがあるというのに。それを物色して尋ねてみるが、彼女の返答はどれも曖昧だった。
「はっきり言ってあまりのめり込めたものがなくて、置きっぱなしという感じですね。勿体ないとは思っているんですけど」
「そっか。まぁ合う合わないはあるよね」
「なんだったらそこにあるもので気に入ったものがあれば差し上げますよ」
「えっ!?い、良いの?」
「えぇ。もう使いませんし。もし必要になればまた買うだけです」
い、良いのかな……。なんだか高価なモノばかりが揃ってる気が。……これをタダでなんて、罰が当たりそう。で、でもせっかく良いって言ってくれたんだし、一個くらいは。
「あっ、この色ペンセットほしい」
さすがにペンは高価と言ってもたかが知れてるだろう。絵を描くのは好きだし、罪悪感もさほど抱く必要もない。一石二鳥……って言うのかなこの場合は。
「お目が高いですね。それは全百二十本で、七十八万円になります」
「うぇっ!?そんなに高いの!?」
「ケースがオーダーメイドのちょっと良いやつなんです」
「中身だけで良いです!」
なんでただ容れるだけのモノにそんな価値をかけたのか……。
「いえいえ、ケースも要りませんしどうぞどうぞ、フフフフフ……(まぁ嘘なんですけどね)」
「えっ、ほ、ほんとにいいよ(なんかめっちゃ笑ってる!試されてるのかな……?)」
そのあと嘘ですよ、と言われ、結局ケースごと貰ったけど、本当に嘘なのかどうかは私にはわからないことだ。……まぁでも、嘘だって言ってたから嘘だよね!
「優希ちゃん詐欺にかかるタイプですわぁ……」
「ほえっ!?な、なして?」
「まぁもしかかっても我が財力で必ず守りますから大丈夫」
「う、うん?」
そんなこんなで部屋のモノを指してみたが、結局それ以上彼女の新たな発見は出来なかった。
「でも良いじゃないですか。優希ちゃんが色々と話を広げてくれたお陰で楽しかったですよ」
「そ、そう?でも、うーん……」
「無理して今の距離感を変える必要もないと思います。私は、今の自分が、みんなが好きですから」
「そういうもんかな」
「そういうもんです」
そうだね。本人がいってるんだし、無理矢理相手を知ろうとするのが良いことだとも限らないもんね。
「それに心配せずとも、友達でいられ続けたなら、優希ちゃんの言う、知らない私というのも見えてくるかも」
「そうだね。でも私は、常にありのままでいるつもりだからみんなに話せる秘密とかもう持ってないなぁ、へへ」
「あるじゃないですか」
と、葉月ちゃんがニコリと笑った。
「そろそろ鞘乃ちゃんとの交際を認めてくださいな」
私は満面の笑みでこう返した。
「いい加減にしようね」




