平凡で平和な日常
ジリリリリリリリリリ……目覚まし時計と言う名の置物が音を立てた。
はっきり言って、セットする意味なんてあるのかなって思う。どれだけ頑張って音を立ててくれてもボタン一つですぐに止まり、仮に止めることがなくても私の深い深い眠りの中にまでは響き渡ってこない。
じゃあ何故仕掛けるのか――そういう習慣だから、としか言いようが無い。買い与えてもらったものを無駄にしたくはないが、昔から起きれた試しはない。
……盛りすぎた。あったけど、たまにって感じ。そう、極限までの熟睡の前ではそんなものは役にはたたない。要するに私が言いたいことは――。
「無理、眠い」
「いいからさっさと起きなさい優希ィ!!!」
こうして私の日常は今日も無事、始まる。
お母さんに叩き起こされて、急いで身支度、トーストくわえて行ってきます。そんなラブコメとかにありがちな朝は私にとっちゃ日常茶飯事。でも残念ながら誰かとぶつかって「きゃっ」みたいな展開は訪れたことないんだよねぇ。
(へへ、そんなに上手くいかないもんだよ)
それに恋とか良くわかんないし、私はいつも通り友達と一緒に過ごす方が好きだな。
そんな事を考えながら全速力。なんとかみんなとの待ち合わせ場所に到着する。
「新庄優希隊員、ただいま到着しました!」
ビシッと敬礼。
元気だけは人一倍の自信あり。……裏を返せば馬鹿なお調子者。それが私こと、新庄優希だ。
それで。
「うむ。これで全員揃ったな。では優希隊員」
「はい!なんですか彩音隊長!」
「おっせぇえんだよ!遅刻すんだろうがぁあああああ!」
「ごめんなさぁああああい!」
今私に制裁を与えているのが、島彩音ちゃん。言動から感じられたとは思うけど、目付きからして結構柄が悪い。
けど、私とは一番付き合いが長い。幼馴染みって扱いで良いかな?
彩音ちゃんはその突っ張ったところが頼りになるんだけど、怒らせると中々厄介で私も大変だ。でも。
「その辺にしましょう、彩音ちゃん」
「あぁ?何言ってんだよ。言って治らねえ馬鹿にはゲンコツが一番だ」
「ひぃいい、止めて!!」
「ふふ……勘弁してあげてくださいな。それに、こんなことしてる暇があるなら歩き始める方が良いと思いますけど」
「ま、それもそうだな」
「た、助かったぁ……」
……そんな時に止めてくれるのが、三枝葉月ちゃんだ。
私達の中では一番落ち着いていて、いつも優しい笑顔で見守ってくれる大人って感じの子。中学生だけどね。
そんな彼女のお陰でなんとか彩音ちゃんの鉄拳を免れた私は、ふらふら~とこの場にいる四人目の少女に抱きついた。
「あぁ……もう一日分のエネルギー使っちゃった気分だよぉ。だから頑張る為に鞘乃ちゃん成分を補給開始~!」
「きゃっ!?ゆ、優希ちゃんったら……もぅ、仕方ないんだから」
彩音ちゃんが呆れて眉をピクリと歪めさせる。
「……とか言っといてなに抱きしめ返してんだよ」
「優希ちゃんが可愛いからに決まってるじゃない」
鞘乃ちゃんの謎のドヤ顔に、彩音ちゃんが困惑した表情を浮かべた。私はありがたく、鞘乃ちゃんの温もりを味あわせてもらう。
剣崎鞘乃ちゃんは私の大親友!
一緒にいると楽しくて、落ち着いて……辛いこと哀しいことも、分かち合える仲。
だからこそ、彼女の傍にいる時が一番落ち着くし、幸せ。
(……って、さすがに口に出すのは恥ずかしいけどね、へへ……)
「優希ちゃんが傍にいてくれる時が一番落ち着くし幸せだわ」
「っ!?」
思わずびくりと肩を動かしてしまった。え、エスパー?いや……たまたま同じ事を考えてただけだろう。
(それでも、鞘乃ちゃんにそう想われるのは、正直嬉しいけどね)
そんな事を思うと顔が紅くなってしまった。それを見て彩音ちゃんが曇った表情を取っ払い、大きく目を見開いて笑っている。
「ほぉ。優希が取り乱してるぜ。珍しいこともあるもんだ。何考えてたんだ?」
「えっ!?いや、別にやましいことは何も……」
「私も詳しく聞きたいです!」
「わぁ!?葉月ちゃんまで!?だから別に……っ」
突然のピンチの到来だ。
彩音ちゃんは言うまでもないし、葉月ちゃんは私が鞘乃ちゃんと仲良くすると何故か凄く嬉しがる。普段はまともだけどこういう時だけは何故かおかしくなるんだ。
「あぁ……良いです……お二人の……禁断の花園……っ!」
「何言ってるの!?怖いんだけど!」
とにかく万事休す。しかしそんな時、救世主は颯爽と現れた!
『キーンコーンカーンコーン』その音と共に、みんなの動きが一斉に止まった。
「……助かった」
「助かってねえよ!!ああああああっ!!アタシとしたことが油断したぁあああ……」
さっき散々怒られたばかりなのに結局四人仲良く遅刻である。
「まぁ良いじゃん。みんな一緒なら怖くないよ!」
「なんならもうサボっちゃいません?私、一度皆さんと悪いことやってみたかったんですよ~」
「良いわね。私はカラオケ行きたい」
「良かねえよ!」
「一番そう言うことしそうなくせに」
「うるせぇ、ほっとけ!」
結局どうするのかを決める前に彩音ちゃん弄りに話は移行し、そうしている間に時間が経ってしまうのだが。
非常にグダグダ。でもそれこそが私達にとって当たり前の日常なのだ。
――これはそんな私達のお話。グダグダに始まってグダグダに終わる、何の変鉄もない日常の、お話だ。