2-1:漸く人工的な物が見れた
私大受験終了!
受かってるといいなー。
次の投稿は、国立大前期の後です。
俺の住んでた地域は、滅茶苦茶田舎って訳じゃないが、結構人は少ない。代わりに、夏祭りとか花火大会とかでは、テレビで見た都会のスクランブル交差点みたいに人が集まってたけど。
普段人がいない地域で過ごしている俺にとって、人混みってのは天敵みたいな物なんだよね。すぐに酔って、当分外出したくなくなるし。
都会の奴らってのは人酔いしねェのかね?
▽▲▽▲▽▲
フェムトの指摘により、無一文であったことを思い出したクロノは、銀狼が狩った奴隷商一行の死体や馬車がある場所へと戻ってきた。血生臭い匂いが、クロノの鼻腔を通り抜ける。
一行の死体は、見事に残骸と化していた。眼球はなく、頭蓋骨は折られ、脳を啜られ、骨は折られ、骨髄は吸い出されている。
少し離れた場所には、子供達の物と思われる残骸もあった。血の飛び散り方だけが、生きたまま喰われるということの凄惨さを物語っていた。
「チッ、時化てんな」
クロノは、パンパンとは言えないが、そこそこ膨れた袋を開いて言った。
流石の魔物も、金属で構成された硬貨は食べないようで、馬車に置かれた硬貨が入っていた袋は――恐らくだが――触れられてすらいなかった。
『そうか? なかなか入っておると思うが……』
袋の中身は金貨――と思われる硬貨――が大半を占めている。3人家族が普通に1年は暮らせる額だ。
「知ってる。コレ、他人の金を盗る時の常套句なんだよ。本気で言った訳じゃないし」
主に、チンピラの類いが良く用いる言葉である。
この世界の貨幣は、全て統一されている。EUのユーロみたいなものだ。
白金貨(1,000,000円)、金貨(100,000円)、銀貨(10,000円)、銅貨(1,000円)、紅貨(100円)、翠貨(10円)、碧貨(1円)があるが、白金貨なんて物は貴族のお買い物以外で見ることは滅多にない。
『……お主の世界は変わっとるな……』
「ファンタジー世界における代表生物のお前にだけは言われたくねェ」
フェムトと会話――端から見れば、独り言を言っているだけであるが――をしながら、クロノは馬車の中をガサゴソと漁っている。銀狼に引き裂かれたりしてズタズタになった布を後ろに放り投げ、何かを探していた。
数分後、クロノは旅人と言うに相応しい格好をしていた。
少し汚れた草臥れた厚手のマントに身を包み、最小限(お金)の荷物が入った小さな袋を肩に掛けている。マントの中は元の世界の服で、靴は履き古したお気に入りのスニーカーであるので、本当に――この世界の――旅人と言うに相応しいのかは怪しいものだが。
「これで、一先ずは怪しまれないだろ」
フフン、と得意気な笑みを浮かべるクロノは、早速、王都バレアスに向かって走り始める。
途中で襲って――魔物にとっては、じゃれているだけだが――きた魔物を、出来るだけ手加減して屠る。が、クロノが力量の変化の度合いを完全には把握しきれていないため、手加減は失敗している。
今のところ、良くて一部分が物理的に消滅し、悪くて体が爆散させられる。それでも、魔物達はクロノにじゃれつくのを止めない。
魔物達が人間と同じような言語を持っているのなら、
「おい、アイツ殺られたぜwww」
「スピード出しすぎwwwバカスwww」
「どんだけ嬉しいんだよwww」
「ありゃ、ただの特攻だろwww」
「じゃ、俺はスピード落として行くかな」
「行ってらー」
「行ってらー」
「逝ってらー」
「行ってらー」
「おい、1匹違うのいたぞ!?」
「やwめwれwww」
多分、こんな感じであろう。その後、1頭が建てた死亡フラグは、速攻で回収される事となる。
クロノは、自身が屠った魔物達の死体を――原型を留めている物のみ――アイテムボックスに収納する。ちなみに、一番最初に殺った銀狼も、アイテムボックスに収納してある。
ポイ捨てダメ、絶対。と言うよりは、「何かに使えるかも」という日本人特有の勿体無い精神があった為だ。
「あ、見えた」
ほぼ意味がないが魔物での手加減の練習を繰り返しながら、小走り――時速60㎞程度――で進んでいるクロノの眼前に、聳え立つバレアスの外壁が見えてきた。
だが、黒乃の視力で見て豆粒位の大きさなので、まだまだ王都までの道のりは遠い。凡そ、10㎞程だろう。
距離は遠くとも、目的地が見えるのと見えないのでは、モチベーションがかなり違う。
フハハ! この戦い、我々の勝利だ!!
なんて、某優雅な魔術師の名言(?)を引用するくらいには、クロノのテンションが上がっていた。
外壁が見えるのと同時に、クロノにはきちんと整備された街道が見えていた。王都へ繋がる街道故に魔物避けの結界でも張ってあるのか、街道に近付く毎に、魔物達はクロノから離れていく。
あっち行け、というようにクロノが手を振ると、街道から離れた所でうろうろしていた魔物達も森へと帰っていった。
変わることのない景色を眺めながら歩くこと30分、クロノは王都への入り口である巨大な門の前に到着した。
早くこの単調な景色を終わらせたいと早歩きをした甲斐があったな。とクロノは達成感を感じながら門へと近付く。
「兄ちゃん、王都は初めてかい?」
門の側にいた中年兵士が、クロノに話しかけてきた。クロノは兵士の方に振り向くと、内心で首を傾げた。
俺、そんなに、お上りさん丸出しだったか?
「ハハハ! 何でわかったかって? そりゃ兄ちゃん、アンタ、感動したみたいに口おっぴろげてちゃあ、誰にだってわかるさ!」
丸出しだったようだ。
「ところでよ、兄ちゃん。身分証は持ってるかい? あったら出してくんねぇか?」
「いや、俺の村から街道に入る手前で魔物に襲われちまってさ。金だけは持っていけたんだが……」
渡人であるクロノがこの世界の身分証を持っている筈もなく、適当でそれなりの理由をつけて誤魔化す。無論、これはクロノの知恵ではなく、フェムトの知恵である。
「そうかい。じゃあ、こっちで作り直そうか」
こういった理由は珍しくないのか、上手く騙されてくれたらしい。
兵士の後について、クロノは詰所のような建物に入る。
「ちょっと待っててくれよ」
机と椅子だけがある部屋に通され、クロノが椅子に腰かけるのを確認した兵士は、見張りなんかを置くことなくクロノを部屋に一人きりにして、何処かへいってしまった。
『随分と無用心だな。俺がスパイだったら、文書とか、ごっそり盗っていっちまうぞ』
クロノはメニューを出しつつ、多少の失望を込めて内心で呟いた。
『よく見てみろ。壁に魔導具が埋め込んであるじゃろ?』
フェムトに言われて、透けろ〜、と思いながらクロノが目に力を入れて壁を見ると、床と天井の四隅の壁に、計8つの水晶が見えた。
『≪展望≫が込められた魔水晶じゃな。この部屋の映像は即時、監視部屋に送られ、見張られておる』
へぇ、と言いながら、クロノはメニューに新しい追加された"魔王"の称号を隠した。
どういうことだ、とフェムトはクロノに伝わらないように考える。
何故、ワシは奴に"頼られている"?
知識も能力も経験も感覚も……全てを渡したのに。誰を頼ることもなく、あの程度の事余裕で気付ける筈なのに、何故クロノはわからないようなフリをした?
『寂しいじゃないか』
『!?』
バレている。
『折角、何時でも何処でも何でも話せるヤツが頭ん中にいるんだ。話さない手はねェし、何より、俺だって独りは寂しいんだぜ?』
『お主がか……?』
長い間一人きりだったフェムトと同化しておいて、寂しい事などあるのだろうか。
『アンタが気付いてないだけさ』
『気付いてなかっただと……?』
『アンタだって、俺の世界の事、わからないフリしたじゃないか。知らねェとは言わせないぜ』
『……』
『俺はアンタの事、オトモダチだと思ってるぞ。悪友だ、悪友』
『……悪友か』
『あぁ、そうだ。俺は仲間には優しいんだぜ?』
と言うクロノから伝わってくるのは、ただただ愉快だという感情だけであり、少なくとも、優しさではなかった。
まあ、悪友とはそんなものなんだろう、とフェムトは無理矢理納得する。
「待たせたな」
いやー、準備に手間取っちまって、と言う兵士は、一枚の金属板をテーブルに置いた。
『白々しい』
『言ってやるな。これが此奴らの仕事じゃ』
クロノが部屋の魔導具に気付いているとも、脳内で元ドラゴンと会話しているとも知らずに、兵士は気の抜けた笑顔を浮かべながら続けた。
「これだけ? とか思っただろ。もう≪転写≫をかけておいたからな。これに、血を1滴垂らすだけでいい」
兵士は小振りのナイフを机に置いた。クロノが黒乃だった時に行った宿泊訓練で、木の棒を削って箸を作る際に使用したような、小さなナイフだ。
「1滴でいいんだよな」
クロノはナイフを使うことなく――兵士に見えないように気を付けて――伸びた犬歯で親指を噛む。が、思った通りに血が出ず、拭うように金属板に親指を擦りつけた。
「垂らした訳じゃないけど、大丈夫かな?」
「あぁ、大丈夫だと思うぞ」
拭った血が光の粒子となって金属板に吸い込まれるのを見て、兵士は頷いた。
生半可な刃物ではクロノの肌を傷付ける事が出来ない為に、歯で噛み切ったのだが、怪しんではいないようだ。よくある事なのだろう。
「持って、確かめてくれ」
兵士に言われるがまま、クロノが金属板を持つと、文字が浮かび上がった。
name:クロノ・タナニス・エンディア
age:17
sex:man
occupation:旅人
level:61
crime:innocent
「よし、証明書にもお前自身にも問題はないな。では、君を歓迎しよう。ようこそ、王都バレアスへ! 証明書発行料が銀貨5枚と入都税が銅貨3枚だ」
ですよねー。
▽▲
「すぐに、王を迎えるのを中止せよ、と伝えてください!」
暗く湿った地下牢で、女が叫ぶ。
「あれは魔王ではありません! 悪しき邪龍の顕現せし姿なのです!! 我が種族に迎えるべきではないと神は仰っています!」
鎖に繋がれ、純潔を散らされ、その身を穢されてもなお、彼女の輝きは失われることはなかった。
が、檻の外にいる見張りは、女を見馴れていた。美人は3日で飽きる、とはよく言ったもので、最初はポヤンと見惚れていたものの、今では平然と、その無駄に整った顔を殴ってやることもできる。
見張りは鬱陶しげに女を一瞥し、面倒そうにため息を吐いた。
「また神の御言葉か? もう、アンタに発言権なんてねぇんだよ。いい加減諦めて、黙ってろ。また、回すぞ」
一瞬、恐怖に言葉を詰まらせたが、それでも女は止めなかった。
「我が故郷に迎えようとしているのが悪しき邪龍であると、それだけ伝え……ッ」
「≪静寂よ≫」
男の魔法によって、女の言葉はそれ以上声に出なくなる。ただ、息継ぎする金魚のように口をパクパクと開閉する姿が、とても滑稽だと男は嘲りの笑みを浮かべる。
「わかった、わかった。そんなに犯されたいなら素直に言えよ。ちょっと待ってろ。今、全員呼んでやるから」
見張りが≪精神感応≫で呼んだ男達は、皆一様に下卑た笑みを口元に浮かべていた。全員屈強な男達だ。
慣れた手つきで、見張りは2つの鍵を渡した。
やるなら別の場所で、ということである。
「楽しんでこいよ」
「おう、お前はいいのかよ」
「今日は気分じゃねぇや」
そうか、とだけ言って、男達は女を引き摺って別の部屋へ消えていく。
日も届かない地下。そこは月のない夜よりも、なお昏い。神の目も届かぬ程に。