1-7:魔王爆誕
センター試験終了! ということで投稿します。
入試第一の壁を越えました。あとは私立入試と国立の二次を越えるだけ。
はい、大人しく勉強します……
人の話しはよく聞いた方がいいと思う。大事な話しをしているかもしれないし、何より、相手が持つ印象が違う。
そういう点では、俺の魔族への印象って、最悪なんだよね。
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渡人であることも、フェムトのことも、クロノは全て魔族に話した。
クロノが魔王でない理由としては、クロノが魔王の定義を全く満たしていないこともあるが、そもそも黒乃もフェムトも種族としては"神の創りし種族"であることが一番大きいだろう。
"神の創りし種族"と呼ばれる種族は決して少なくない。人種―人間族、ドワーフ族、エルフ族、獣人族、そして今は追放されし魔法族―、神獣種――フェニックス、ユニコーン、麒麟、エトセトラ――、龍種――古龍、火龍、暗黒龍、エトセトラ――の大きく分けて3種類、細かく分けると数えきれないくらいの種類があるのだから、個体数にするとあまり稀少な種ではない。
邪龍と名高く、人間からは魔物と同じくらい嫌悪されているダークドラゴンだが、"神の創りし種族"であるので、決して魔物ではない。故に、フェムト自身が人型に変化しようとも、何をしようとも、絶対に魔王にはなれないのである。
「では、貴方様は魔王様ではない、と?」
「しつこいなぁ。俺は同じ事を、そう何度も言わねェよ」
クロノが魔王ではないと証明され、魔族達はすっかり意気消沈している。
クロノが魔王でないのなら、銀狼はどうしてクロノを魔王と認識していたのか。
それは全魔物に共通する、ある能力の所為である。
魔物は個体の持つ魔力を個別に認識することができる。
魔族が魔王誕生の際の魔力爆発だと勘違いした膨大な魔力を、魔物達も魔王誕生だと勘違いしたのだ。魔物達が感知した膨大な魔力と同じ魔力を持つクロノが、必然的に魔王と認識されたのである。
意気消沈している魔族に同情した訳ではないが、クロノは魔族に提案をしてやる。
「まあ条件次第では、魔物の王じゃなくて、魔族の王にならなってもいいぞ。お飾りの王として、だがな」
暗い雰囲気を醸し出して俯いていた魔族達は、勢いよく顔を上げた。
「私達に出来ることなら、なんだってやります! 何なりとお申し付けください」
今にもクロノの服の襟を掴んで、揺さぶってきそうな勢いだ。あまりの迫力に、クロノは思わず一歩後退る。
クロノの身長は176㎝と高校2年生の平均より高いが、魔族の2人は、そんなクロノより身長が高い。見たところ、男の方が185㎝強、女の方が180㎝弱。
数㎝程の違いとは言え、身長の高い人間(とは少し違うが)に迫られるのは、何とも言い難い圧迫感に襲われる。そして何より、見下されてる感じがしてイラつく。
「落ち着け。離れろ。近いんだよ」
「十分落ち着いております!」
「五月蝿い。ボリュームを落とせ。言ってる事と、声の大きさが矛盾してる」
「大丈夫です! さあ、条件をお申し付けくださいませ!」
余談であるが、クロノは五月蝿い女が大嫌いである。
「五月蝿いって言ってんだろ」
ドンとクロノは右手で女の左肩を押し、迫ってきている女を突き放す。
その一撃で女の左肩の骨が粉砕された。
体勢を崩し、数歩後退った女の左脇腹に、オマケとばかりにクロノの右足の爪先が綺麗に直撃する。
この一撃で女は5mぶっ飛び、脾臓が破裂、周辺の臓器に著しく損傷を負い、あばら骨を複雑骨折し、折れた骨の破片が肺に突き刺さった。
ぶっ飛んだ女は地面に打ち付けられ、さらに2mほど回転して、漸く止まった。
女が口から、ゴポリと血が溢れる。
乱れたローブの下から、下着のような、局部しか隠せていないような衣服が覗き、豊満な胸と細い腰がさらけ出される。が、クロノは魅力溢れる女体に興奮はしなかった。
賢者モードと言ってもいいその状態は、賢者モードよりもなお質の悪い状態であった。邪龍を取り込んだことにより、クロノに付与されることとなった"バトルジャンキー"、"惨烈"といった性質は、クロノを"血"と"暴力"で興奮するような性質にしてしまった。"血"と"暴力"によって得られる興奮は、下手すると性交時のものより大きい。
さらに、この世界の生物が全てクロノよりも弱いという事実が、得られる愉悦を倍増させていた。
と言っても、完全に女体に興奮しないという訳ではない。性交には性交の愉しさがあることも、また事実だ。
「まず第一に、俺の命令は絶対だ。わかったか、女」
「あ゛、ゴボッ……あ゛い゛」
辛うじて返事だけすると、魔族の女は意識を失ってしまった。
このまま、ぐったりと地面に転がっている女を放置して死なせてしまうのも勿体無いので、クロノは魔法で女の怪我を全て治してやる。
「他に異常は」
「≪解析≫……ないようです」
残った魔族の男が女を一瞥し、クロノに向きなおる。魔法の名を唱えていたし、少し魔力が漏れていたので、魔法を使って確かめたのだろう。
「それにしても、王よ。あれ程の治癒魔法を無詠唱で扱えるとは、流石です」
「あぁ、それね……」
龍は人のように魔法を使えない。
例えば、治癒魔法といえば≪治癒≫があるが、人の場合は、適合する属性を持つ者が「治る」という明確なイメージを持ち、「≪治癒≫」と唱えなければならないが、龍の場合は、全ての個体が「治ればいいなー」ぐらいの軽いイメージで魔力に自動的に治癒の方向性を持たせ、治癒魔法が完成させることができる。
「と言う訳だ」
「それは……なんとも……便利ですね」
フェムトの力を受け継ぎ、説明を受けたその直後、クロノは先ず最初に魔法の使い方をフェムトの記憶から探った。
魔法を使う者ならば、誰もが羨む能力である。魔法詠唱者として言うならば、チートな能力である。
だがクロノは違った。
男には誰でもある厨二心が擽られ、そして折られた感じがした。カッコいい技名を叫び、物凄い大技を出す。
実際、それに憧れていたクロノは大いに嘆くこととなった。
別に、技名を叫びながらでも技を出せないことはないのだが、大きすぎるショックがその事実をクロノの頭から消し去っているのだった。
「まあ、魔法の事はいい。条件について話そうか」
「ですね」
女の所為でえらく遠回りしてしまったが、漸く落ち着いて話しができる。
「お前ら魔族で国を作れ」
「国、ですか……?」
「あぁ、国だ。城を作り、街を整備するんだ。全ての国に建国宣言をして、各国王を建国パーティーに強制御招待。"戦争の敗国は勝国の下僕とする"みたいな条約を結ばせるんだ」
それに、魔王様は城で勇者を待つのが常識だしな。とクロノは、心の中で付け足した。
『魔王になる気満々ではないか。あんなに否定しておった癖に』
『魔物の進化系だってのが嫌だったんだよ。魔物の王じゃなくて魔族の王だし』『妙な拘りじゃの』
人の価値観に口出すな、と言って、クロノはフェムトとの脳内会話を終了させる。
俺の中から見てると言った割には黙らない奴だ、とクロノは思った。
「基本的に俺は政治には無関係でいくから。あくまで俺は力の象徴としてのお飾り王ということでよろしく」
「はい、畏まりました。ですが、我が種族は国が成り立つ程数はおりませんよ?」
「どのくらい」
「1万弱ですかね」
少な。いや、これでも多い方なのか?
クロノは首を傾げる。
「何処に住んでんの?」
「"死の森"の向こう側、人の言う"暗黒大陸"です。彼の王が、我ら魔族を向こう側に住まわせてくれました」
「都市とか作ってか?」
「いえ、都市と言うよりは集落と言った方が正確だと」
魔族の男は故郷を思い出すように目を伏せた後、語り出した。
「街を囲む外壁もありませんし、領主もおりません。都市の家々とは異なって、木製の家が建ち並んでおりますし……」
「じゃあ、そっち側に建国して、お前らの集落辺りを王都にしよう。都市作りは魔族に一任する。住人は、まあ、追々……な。増やしたら、そっちに送るよ」
「承りました」
テレビドラマで見た、執事のような礼で、魔族の男は一礼した。
おぉ、と感動するクロノに、顔を上げた男が訊ねる。
「ところで、その間王はどちらに?」
「人間の都市でも見て回ろうと思ってる。戦う前に敵を知らないとな」
「左様でございますか。では、我らは早速……」
敵を知る云々に関しては、全くの嘘である。クロノ(とフェムト)は敵の事なんか全く知らなくて良い、という意見の持ち主である。敵の家庭事情なんかうっかり知ってしまって、殺す気が鈍ってしまってはマズい、とそう思っている。
「あ、その前に、お前らの名前は?」
「まだ、名乗っておりませんでしたね。失礼致しました。私はトゥルク、向こうの女がシレア、と申します」
「そ、俺はクロノ。クロノ・タナニス・エンディアだ。建国のこと、頼むな」
「王のご期待に沿えるよう、尽力いたします。では、我々はこれで。御前失礼致します」
シレアの腹の辺りを片手で抱えたトゥルクは水晶のようなものを懐から取り出すと、「≪転移≫発動」と言いながら、水晶を握り潰した。硝子の割れるような音が響き、光の粒子が魔族達の周りを舞う。現れた時と同じように空間が歪み、じきに魔族達は姿を消した。
「嵐が過ぎ去ったな……」
騒がしい奴ら(主にシレアが)だった、と黒乃は深いため息を吐いた。
『そんなお主に一つ、良い事を教えてやろう』
「良い事……? そりゃまた、えらく唐突だな」
『そう、良い事だぞ。騒がしい魔族の相手を頑張ったお主への褒美じゃ』
勿体振らずに早く言えよ、とクロノが急かすと、フェムトは心底愉快だと言うように笑い始めた。
『この先真っ直ぐ進めば、五大国最大の大きさを誇るコークサス王国の王都、バレアスに到着する』
「知ってる。それが何だよ」
フェムトが知っていることはクロノも知っている。フェムトの言いたいことが察知できずに、クロノは眉間に皺を寄せた。
『バレアスに限らず、どの都市でもそうだが、入るには金がいる。じゃが、今お主は金を持っとらん。後は、わかるな?』
「……早よ言え、ドアホ!」
▽▲
「ついて来てくださいませ、勇者様。此方で色々とお話しさせていただきます。」
魔法陣の上に現れた勇者と呼ばれる男は、微笑む女性に先導され、神殿内部の廊下を歩いている。
誰に対する配慮なのかは知らないが、廊下には足首まで沈み込んでしまいそうな程ふわふわな絨毯が敷かれていた。
男には、既に状況が読めていた。自分が何の為に、何をさせる為に喚び出されたのかを、男は理解していた。
(目の前の女は、恐らく王族。『世界を救ってくれ』と言っていたから、魔物や魔王的な何かと闘わされるのはテンプレ通りだろうな……)
物語で読む分ではワクワクするのだが、実際に体験するとなると、とてもじゃないが「ファンタジーktkr」「俺tueee」とか言ってワクワクしていられない。俺は現実が直視できる人間なのだ。
前を歩く女に気付かれないように、男はため息を吐いた。
(シリウス、今頃どうしてるかなぁ)
男はゆっくりと瞼を閉じ、やがて覚悟を決めた。
「ま、死なないように、適当に頑張りますか」
これで、第一章「異世界に落ちて龍と出会う」は終了です。
龍と出会うどころか、魔王になってますよ。なんてのは聞こえない。
次の章に行く前に、レベルのお話しを……
レベルに数値的な基準があるとしたら、高校生だったのクロノがレベル1なのはおかしいと、指摘を受けた訳ではありませんが、説明したかったので説明します。
当然レベルには、基準があります。が、渡人は例外です。
現地人が生まれたときレベル1なのと同じで、渡人が渡って来たときは、全員等しくレベル1です。その渡人がどれ程強いかは関係なく、渡人が異世界に来た時点の強さが、その人にとってのレベル1なのです。
現地人は赤ちゃんの時が基準となるので、レベルが同じだと、強さも大体同じになります。赤ちゃんの時から、物凄い人だったら別だけどね。
次にフェムトと黒乃のレベルを足してたのがクロノのレベルになっていたことですが、あれ、ただの偶然という設定です。
よって、フェムトの推測は間違っています。ま、龍にも知らない事があったということで。
レベルの基準はフェムトに合わせてあります。
戦闘狂の今まで貯めた経験値とクロノの経験値をプラスすると、ちょうどレベルアップした、という訳です。
はい、これで説明終わり!