1-1:ギャグ漫画のような
ぐだぐだで始めました。
お目汚し失礼します。
あっ、やべ。
そう思った時には、修正不可能な程に身体が傾いていた。
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古住黒乃は一般的な高校男児|(ちなみに二年生)である。反抗期も乗り越え、両親との仲も良好。学校へ行っては勉強し、友達とバカやってはしゃぎ回るような、箸が転げても可笑しいお年頃の男である。
強いて問題点を挙げるとしたなら、ちょっと粗暴なことだろう。
短絡的と言えばいいのだろうか、何でも、ごり押しで解決しようとする悪癖があるらしい。そんなところは黒乃自身も把握している。
というか、ごり押しじゃないと解決できない。
黒乃は頭を使って問題を解決するということが、かなり苦手な男なのである。断じて、勉強が出来ないとか、そんなことはない。と、信じたい。
そんな、一般的だがちょっと暴力的な男である男は、変わりなく、いつも通りの一日を過ごしていた。
只今、夏真っ盛り。蝉が命の火が灯る蝋燭に灯油をぶっかけて燃やしながら、喧しく求愛の雄叫びをあげている。
いや全く、蝉の言葉が解らないのが悔やまれる。どれほど、くさい言葉を叫んでいることやら。
燦々と照りつける太陽が、ジリジリと黒乃の肌を焼いていく。日焼けを気にする質ではないが、後に襲い来るであろう肌のヒリヒリを思うと少し気が重くなるというものである。
あぁ、肌の弱さが悩ましい。
夏期休業期間の半ばに、黒乃は友人宅に遊びに行く途中であった。団地の三階の一室にある友人の家に向かうために、黒乃は汗水垂らして階段を上っていく。毎度のことながら、エレベーター設置しろよ、なんて悪態をつきながら。
夏は毎日暑いものだが、今日は一段と暑かった。黒乃の米神や首筋には玉のような汗がつたっていた。
よっしゃ、もうすぐ三階、というその時、黒乃の足は何かを踏みつける。何かを踏んづけた右足はしっかりと身体を支える事なく、逆に宙に投げ出される。
その時黒乃の視界の端に映ったのは、黄色い物体。バナナの皮である。
おい、何でこんな所にバナナの皮があるんだよ。一昔前のギャグ漫画かよ。
良い歳した高校生が、バナナの皮で滑って転ぶなんて、本人にとっては転がり悶える程恥ずかしいに決まっている。もしここに友人でも居ようものなら、黒乃の顔は真っ赤になっていたに違いない。いや、既に真っ赤である。
忽ち身体が後ろに傾き、重力の後押しにより黒乃は落ちていく。段差の高さが低い上に段数も少ない階段であるので、打ち所が悪くない限り死ぬことはないだろうが、来るべき衝撃に備えて黒乃は固く目を瞑り歯を喰い縛る。
しかし、ドンッ! とかドサッ! というような擬音語で表現できるであろう衝撃が黒乃の背中を襲うことなく、代わりに黒乃の背中にはトン、と軽く何かが触れた。