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らいどん  作者: ちぇりお
序章:RIsing DragON
7/7

 挿話『ジータの日記』

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 本日より日記をつけようと思う


 ぼっちゃまはとても頭がいい

 弟よりも小さいのに、ある程度の会話が可能だ

 まだ話すのはたどたどしいようだが、こちらの言うことは全て理解されているように思える


 ただ、やはり幼く、お寂しいようで、私の姿が見えなくなるとすぐに泣き出してしまう

 顔を出すとニッコリと笑う

 かわいい


 その日の晩、タブロ様にぼっちゃまと話してどうだったかと聞かれた

 私がその頭の良さに驚いたことと、甘えん坊であることを言うとずいぶんと驚かれていた


「私の時とだいぶ違うな…やはり君を呼んでよかったよ」


 と言われたが、どういうことだろうか?

 あんなところに1人で居て寂しくないわけがない。お母さんにも甘えたい盛りだろうに


 頑張らなければ



 --



 ぼっちゃまのお勉強のために本を持って行く


 ぼっちゃまは本当に頭がいい。やはり私の言葉をしっかりと理解されている。


 食事の後、本を読み始めると、最初は喜んでいたが、途中から泣き出してしまった


 原因は私の顔が見えなくなってしまったからだった。椅子に立って本を読むと、ぼっちゃまはニコニコとされていた


 やはり甘えん坊なのである


 奥様にその話をするとまた泣かれてしまった


 私まで悲しくなってしまう



 --

 ---


 奥様とタブロ様は仲が悪いようだ


 どうやら、タブロ様が奥様に山小屋への出入りを禁じた所為らしい


 しかしそれも無理の無い話だと思う。奥様は延々とぼっちゃまに泣きながら謝り続け、それに影響されたぼっちゃまもまた泣き続ける

 お互いに良かろうはずもない


 今日もぼっちゃまの様子をお話した際、話がタブロ様に触れると途端に機嫌が悪くなり、プリプリとタブロ様への不満を吐き出された


 でも、その様子はいつもの奥様より少し元気に見えた



 --

 ---

 ----


 きょうぼっちゃまにドラゴンについて尋ねられたので、この国の成り立ちを説明した


 どうやら昨夜天窓の向こうに大きな竜が飛んで行くのを見られたらしい


 こんな山奥を竜が飛ぶというのは少し信じられない。西の竜家のかただろうか?


 フリーザン領は王都に割と近いので、王都から帰られる途中にここを通ったのかもしれない

 となると東だろうか?

 竜が飛んでいる姿などは私でも見たことがない


 明日は竜騎士の本を持って行くと言ったら大喜びされた



 --

 ---

 ----

 -----


 ぼっちゃまはあれ以来竜騎士のお話ばかりを所望される


 よっぽどお気に召されたようだ


 私の話を黒い目をキラキラさせて聞いている

 やはり男の子なんだなぁ

 実家の弟を思い出してすこしおかしい

 弟も騎士の物語を呼んで剣を振り回しては母を困らせていた


 近々旦那様がお帰りになるらしい

 ぼっちゃまもきっとお喜びになるだろう



 --


 私としたことが失言をしてしまった

 あまりにもぼっちゃまが達観されている所為で、ぼっちゃまが3歳であることを忘れてしまっていた

 あんな状態が産まれてずっと続いているのだ。辛くないわけがない

 反省しなければ


 旦那様がお帰りになることをお伝えすると喜ばれた

 旦那様は年に2~3度しかお帰りにならない。やはり会いたかったのだろう


 その日の晩帰宅した旦那様とともに山小屋に向かった


 最近のぼっちゃまの様子を聞かれたので騎士に憧れていらっしゃることをお伝えすると

「そうか!さすが私の息子だ」

 と白い歯を見せて喜ばれた。が、すぐに悲痛なお顔になられた


 むりもない。騎士に憧れても、未だ歩くことはおろか指一本石棺から動けないぼっちゃまを思われてのことだろう


 旦那様を部屋にご案内して扉を締める


 悪いこととは思いながら、つい盗み聞きをしてしまった




 ぼっちゃまはすごい


 本当にすごい


 あの小さな体にどうしてあれだけの強さが込められているのだろう?

 こんな毎日の中どうやってあれだけの思いを持っていられるのだろう?


 思わず漏れそうになる泣き声を膝を抱えてこらえていると、部屋を出てきた旦那様に見つかってしまった


 旦那様はそんな私を咎められることなく、震える声で私に「ありがとう」とおっしゃられると続けて


「私の息子は強い」と呟かれた



 本当にそう思う



 --


 いつもの様にぼっちゃまのお話をするとともに奥様に朝食をお持ちすると、鬼気迫る表情で奥様が食事を完食なされた

 ここ最近禄に食事をされていなかったのに、いきなりそんなにお召になられるものだから、すぐさま吐いてしまわれたが

 更におかわりまでされた


 主治医の方が慌てて止めるが、聞き入れようとはなさらなかった


 タブロ様はやれやれと肩を竦めていらっしゃったが、少し嬉しそうに見えた



 --


 旦那様が前線に向かわれた

 休養のためのご帰宅であったのに、来た時よりも心なしかげっそりされているように思える

 一方奥様は妙にツヤツヤ元気なご様子


 御髪も光で満ち、綺麗だったおひい様が帰ってきたようで嬉しい


 今日も食事を完食されると、鏡の前で自分の頬をたたき「よっしゃあ!」と気合を入れていた


 …少し元気すぎる




 --

 ---


 ぼっちゃまが4歳になられた


 あの日を境に屋敷の中も明るくなったように思う


 奥様は完全に元気を取り戻され、社交界にも積極的にお顔を出されている


 貴族の方に嫌味を言われても、以前であったらお顔を伏せてじっと耐えていらっしゃったはずが

 今では…

 あんな状態で森に入られたら鳥達が一斉に逃げてしまう…

 これ以上はアンダルシィ家の名誉のために記さずにおこう…


 旦那様は相変わらず帰宅した時よりも疲れた様子で前線にお戻りになる


 旦那様の方が心配になってきた



 --

 ---


 奥様が懐妊された


 本当であればぼっちゃまにもお伝えしなければならないことだが

 どうしても言えない

 言えばきっと我が事のように喜ばれるだろう

 ぼっちゃまはそういう子だ


 それでも、やはり言えない



 --


 ぼっちゃまの元へ向かう途中、クムドリが目に入ったので弓で仕留める

 父の教えを腐らせぬよう、山小屋への往復には弓を持ち歩くようにしている

 最近では奥様が人一倍お食べになるので、料理長にも喜ばれている


 クムドリは身が締まっていてとても美味しい

 ぼっちゃまにもいつか食べてもらいたい…


 山小屋についてメイド服に着替えようとすると

 タブロ様に「たまにはその格好のまま行ってはどうか」と言われた

 山を歩くにはメイド服は適さないため、いつも革のパンツとブーツを履いている


 わたしが、とんでもない。というと、タブロ様は「そうかね…喜ぶと思うんだがねぇ」とぶつぶつ呟きながら山を降りられた


 私はぼっちゃまのメイドなのだから、メイド服を着るのはあたりまえだというのに



 --


 奥様のご出産が近づいている

 おそらく次の満月だろう


 こうなってはぼっちゃまにも黙っているわけにはいかない


 そう思っていたら、タブロ様に満月の晩までの山小屋への出入り禁止を言い渡された

「ファクシー嬢に付いていてやりたまえ」

 とのことらしいが、屋敷には他にも使用人がいるし、何より今の奥様にはなんの心配もいらないように思える

 固辞しようとしたが、強い口調で「これは命令だ」と言われた


 ぼっちゃま…



 --


 ぼっちゃまは今頃どうしているのだろう…

 屋敷の皆は今か今かと浮き足立っている


 ぼっちゃまは今頃一人で寂しがっているというのに

 腹が立つ。彼らはぼっちゃまより生まれてくるお子の方が大事だとでも言うのだろうか


 …大事なのだろう。お家のことを思えばそれは間違っていない

 それでも、私は



 --


 産まれた!栗毛の女の子だ

 子供が生まれるところを見るのはこれで4回めだが何度見ても息が詰まる


 元気に泣き声を上げて、手も足もしっかりと動いていた

 家の皆がほっと胸をなでおろしているのを感じた

 責められることではないのはわかっている

 私ですら安堵の気持ちを抑えられなかった


 気が付くと外は既に白んでいた

 タブロ様の言いつけは「満月の"晩"」までの出入り禁止だ

 急いで山小屋に向かった


 山小屋についた時、地下から叫び声が聞こえた

 ぼっちゃまの声だ。急いで階段を駆け下りて扉を開けると、


 目の前にぼっちゃまが立っていた



 あの時の気持ちをどう表現すればいいのだろう

 初めてお会いしてから4年近く

 万感の思いがこみ上げてきたが、ぼっちゃまが私に気づくことなく自分の体を見つめ、そして気を失ってしまった


 急いで駆け寄ると足元のタブロ様につまずいて転んでしまった

 見るとタブロ様もずいぶんと消耗されている。いったいなにがあったのだろう


 ぼっちゃまはいくら子供とはいえ、人間の子供より大きい。私一人で背負うことは難しいと判断し

 ぼっちゃまの呼吸と脈に異常がないことを確認した後急いで山を降りた


 その後の屋敷は天地がひっくり返ったように上へ下への大騒ぎだ

 奥様は後産が済んだばかりだというのに、立ち上がり山小屋に走りだそうとしたところを家の者総出で止められていた


 私は家中の者を伴って山小屋に再度向かい、未だ気を失ったままのぼっちゃまとタブロ様をつれて山を降りた


 いまぼっちゃまは静かに眠っている


 あの後目を覚まされたタブロ様が言うには、「魔力の使い過ぎによる昏倒でじきに目を覚ます。心配はいらない」とのこと。

 それを聞いた人たちが口々にフリーザン家万歳と叫びだした

 現金なものだと思ってしまうのはちょっと意地が悪いだろうか

 でもしかたがないじゃないか


 そう思っているとタブロ様が「私はもう一寝入りさせてもらうよ」というので、見れば服が汗とホコリまみれになっていたので着替えていただいた

 未だ体がうまく動かないタブロ様のお着替えを手伝っていたら、ポケットの中から針が一本出てきた

 あれは、たしか魔痺針だ。ぼっちゃまの背中に刺さっていたものだろうか?それにしては新しいけど

 そう思っていたらタブロ様にあわてて取りあげられた


「これは、あれだよ、なんでもないよ!いいね?」


 どういうことかと聞くとタブロ様は何も言わずに下着のままベットに倒れこんでしまった

 よっぽどお疲れだったのだろう。心なしか顔も赤くつらそうだった



 明日からきっと忙しくなる。今までのように毎日日記を付ける暇もなくなるかもしれない

 でも私にはそれがとても嬉しい


 とりあえず明日はクムドリを狩りにいこう。うん。そうしよう


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

今までにない勢いで閲覧数が増えていたので急いで書き上げ&長かったので2つに分けました


今年頭までお気に入り2件だったのに…(いや投稿できなかった自分が悪いんですが)

ちゃうねや!仕事が!仕事があかんねや!

…まだ読んでくださっているかどうかわかりませんが、半年前にお気に入りにされた方

どうぞお許し下さい



あともう1話短い挿話を挟みまして、次から第1章となります


2月中旬から時間が大量に開くので、以降はそんなにお待たせすることはないかと思います


よろしければ今後ともお付き合いくだされ…

…ってもうこんな時間か…寝るのはもう諦めてレッドブルのもう…

                          2014/01/24 4:58

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